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第二の人生もやっぱし楽しい



 翌朝、いつもの時間に起きたオレはもにゃもにゃと眠気を噛み締める。


 …しっかしオレもいい加減鈍いな~。今の今まで気づかなかったよ


 昨夜(正確には今朝か)思い出したが、ここは妹の好きだった乙女ゲーの世界だった。

 それも妹のお気に入りの『女神のキミ』。


 昔っから仲の良い兄妹だったけど、頬を染めてどのキャラがいいだの、むしろ恋してるの聞かされて泣きそうになったよ。

 妹の事で泣きそうになったのは小五であいつがBLに目覚めた時以来だったよ。

 それからというものあいつは……やめとこう。


 思い出しかけて当時の記憶に胸にダメージがグサグサ突き刺す。


 …うん…もう忘れよう。あんな暗黒黒歴史は。

 でも、その該当者三人がいなくなったから、別の意味で思い出にしそうで嫌だ。



 ベッドから抜け出すとダニエラが入って来て、着替えを差し出す。

 本当は着付けもしてもらわないといけないんだが、オレの意向で自分でやらしてもらってる。

 その間もダニエラはオレの使っていたベッドを綺麗にしたり色々と立ち働く。


 今日用意されたのはいつもよりも動きやすく明るい色合いのお出かけ衣装だ。

 というのも今日は兄貴と叔父貴に連れ出してもらうからだ。



 祖父さんと和解してから、叔父貴はちょくちょく顔を見せるようになった。

 叔父貴は名前をフランツ・レオナルト・ベッケンバウアーといい、やはり母上様の弟だった。


 数年ぶりに弟と会えた母上様はいたく喜び、オレ達が叔父貴と関わるのを推奨する。

 叔父貴もチビッ子二人の相手が面白いのか来る度に何かと手土産にし、屋敷の近辺を連れ回す。


 で、今回オレと兄貴は叔父貴に連れられてハーロルト王国に行くことになってる。

 三つ先にある国なので、当然泊まりだ。


 過保護にされた、それを差し引いても五歳を頭にした幼児二人の遠出が許されたのには叔父貴への信頼やオレ達の見聞を広めるため、ということの他にもう一つある。


 母上様が臨月で何かと忙しく、ろくに相手してやれないからだ。

 長年育児放棄されていたオレはともかく、兄貴にとっては初めての両親の関心を得られない、という状況にしょげちまった。


 生まれる前からこれでどうするんだか。

 兄経験者から言わせてもらうが、下に兄弟ができると途端両親の目はそっちに行くぞ。


 で、兄貴の様子を見て胸を痛めた母上様は叔父貴に相談し、だったらとオレ達二人を連れて行ってくれることにした。


 ハーロルト王国は大陸でも有数の温泉国家で、元日本人のオレとしては是

非とも行ってみたい国だった。



 そこでウキウキしていつになく浮かれた声を出す。浮かれていても表情は変わらないから不気味だろうけどね。


「何かお土産買ってくるからな」


 オレの言葉にダニエラはピタリ、と動きを止めた。


 …あ…しまった…


 一歳の時からオレの側を離れなかったダニエラだが、今回はついてこない。


 というのもダニエラはこの屋敷で一番有能なメイドで、家内の一切を取り仕切れる才覚を持つ。

 元はメイド長だったしな。

 で、母上様の妊娠という緊急事態とあって再び重宝された。

 だから臨月になった今、オレと一緒に屋敷を離れるわけにいかない。


 そうと決まって初めて知ったが、ダニエラは意外と心配症だった。


 忙しい中ハーロルト王国やその道中の事を調べ、オレに色々と注意を促す。

 それだけに止まらずオレの身支度も合間を縫って整えた。

 …けどさ、非常用の食糧とか、野営道具は要らないと思うんだ。

 要っても精々おやつと寝袋だ。



 ダニエラから再三の注意をされ、兄貴と屋敷の外に出ると馬車の前で待つ叔父貴の姿があった。


 叔父貴は普段馬に乗って身一つで旅をしているんだが、今日はガキ二人を連れるってことで馬車を使うことにした。

 といっても貴族のお出かけ用の派手で華奢いもんじゃなくて、精々そこそこ裕福な庶民が使うような地味で頑丈な馬車な。


 そうでもないと遠い移動に耐えられないし、無駄に狙われる。

 森に紛れるようにか、深い緑の品のいい馬車だった。


 ……それでも金の匂いってのには山賊さん達も敏感なもんで。


 一つ目の国に入るまでに三回襲われました。


 襲撃される度にオレと叔父貴で迎撃・撃退してたんだけど、兄貴が気の毒な位怯えきったんで、馬車に〝霧隠れの術〟をかけた。

 その名の通り対象の周囲を濃い霧で包み、気配も消す。

 最近暇にあかせて忍術を魔法で再現してたんだよね。


 国と国の間で野宿する時もオレ達のことを山賊さんに悟られないよう、そうでなくとも野生動物に目を付けられないよう認識外しの魔法をかけた。


 披露すると叔父貴が「これいいな。魔具にしてくれないか?」と言われたんで「いいよ~。何か適当な装飾品に付与するね!」と言い、折角だからハーロルト王国で買った品に付与しようということになった。


 ヤッバイ。オレ、マジで叔父貴の事好きだわ。


 そういう思いを深めた二日間だった。



 野宿一回に国の宿に宿泊一回を経て、到着しましたハーロルト王国!!


 ハーロルト王国は古代ローマみたいな雰囲気の街並みだった。

 「ヨ~ロレッイッヒ~♪」と歌うのが似合うような恰好のオレ達は浮いてるよ。ヤバイ!!


 …うん。オレも結構浮かれてた。ここんとこは前世も今も変わらない。


 しかし、オレが屋敷の外に出ると開放的になると知っている叔父貴はただ笑って頭を撫でた。


 照れるじゃないかこの野郎。


 叔父貴行きつけのホテルに荷物を預けると、オレ達は早速町の公衆浴場に繰り出した。

 ここじゃ身分の上下も無く公衆浴場で汗を流し、語らうそうだ。


 いや、いいね裸の付き合い!!

 実際は何か着るんだろうけど!!


 そしたら案の定で、脱衣場には入浴着が置いてあった。

 脱いだ服を入れる籠に入ってたんだが、生憎兄貴とオレには大きすぎるんで備え付けの棚に入っていた子供用の入浴着を引っ張り出す。


 さっさと身に着けたオレに、見慣れぬ衣服に戸惑っていた兄貴が声を漏らす。

「え?」


 だってこれ、浴衣みたいなもんだし。

 前世じゃ家の中は基本和服だったからな。チョチョイのチョイですよ。


 叔父貴じゃ背の関係でやりにくかろうと、兄貴に着付けてやると何とも言いようのない顔で「ありがとう」と言った。

 まぁ、弟に面倒看られちゃ兄貴の立場が無いか。


 けどそれからも掛け湯を知らない兄貴に教え、のぼせた兄貴を湯船から引き揚げ(魔法抜きにしてもオレは鍛えてる)介抱してと、兄貴の面目丸潰れだったね。


 かわいそうなんで、湯船から引き揚げたのと介抱したのは叔父貴ということにしてもらった。

 そう取り決めた時、叔父貴は楽しげに笑ってた。


 オレ達は兄貴が目を覚ますまでユクリというコーヒー牛乳にミルクシャーベットを溶かしたような冷たい飲み物を飲んで話をした。


 兄貴がこの様子なんで、観光は明日にすることになった。


 何でもこの国の信仰の中心の神殿があるんだとか。


 いやぁ、楽しみだ。



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