思い出した。今世(ここ)って…
気づいたらブクマが三十人超えてました。
本当にありがとうございます。
気が付くと自分の部屋にいた。
今世の、ではなく前世のだ。
…ああ…夢か…
そうあっさりと受け止められてしまうことが悲しい。
死んだのは夢だったと、一瞬でも思い込めない程完膚無きにオレは死んだ。
死ぬ間際の事は鮮烈に胸に宿っていて、時折夢に見る位だ。
視線に違和感はないから、元の倉持敬大の姿なんだろう。
夢だと思うも、懐かしさに周囲を見回す。
何も載っていない机に回転椅子。
机とベッドの間には漫画と時代小説が多めの本棚。
クローゼットの前にポン、と置かれたCDプレイヤー。
…間違いなくオレの部屋だ。
誰かに会えないかと淡い期待を抱いて部屋のドアを開け、外に出る。
すぐ隣は妹の部屋だが、一応あんなでも女の子だ。勝手に部屋に入るのは悪い。
…そう考えている時点で、薄々家に誰もいないってわかってるようだ。
それでも一応階段を下り、一階を歩き回る。
ウチは和風建築で、一階には和室が多い。
祖父ちゃんの部屋も、親父の書斎も、茶の間も床の間も誰もいない。
人の気配すらしない。
だったらいいだろうと二階に戻る。
さっきは素通りした妹の部屋のドアを開ける。
オレと妹の部屋は造りは同じだ。
とはいえぬいぐるみがあったりテレビ(兄妹共有)があったりと違いはある。
ふと目をやった机の上にはゲームのソフトがあった。
オレは恐る恐るソフトを手に取る。
妹は可愛くて優しいいい子なんだが(兄の欲目だけでなく、周囲の反応も概ねそうだ)、たまに趣味が斜め上にぶっ飛ぶ。
一応妹の方向性を確かめよう、と思っての事だ。
机にあったのは妹お気に入りの『女神のキミ』という乙女ゲーだった。
過激なBLゲー(妹は腐女子だった)じゃなくて良かったと胸を撫で下ろした直後、頭の中に一気に情報が流れてきた。
たまらず膝を付き、額を押さえる。
その時、ソフトが床に転がったが、スマン妹。
暴力的な情報の奔流をやっといなすと思い出した。
今世妹のやってた乙女ゲーの世界じゃねぇか!!
兄貴もオレも攻略対象者だ。
まだ小さくて面影も微々たるもんだし、そもそも名前はカタカナだしやたら多いしで覚えてなかった。
それに、オレ隠しキャラだ。
アレクシスが一番好きだった妹は「何でアレク様が隠しキャラなのよ!!」と嘆いていたが、わかったぞ妹。
ゲームのアレクシスのデフォが魔法使った姿だからだ。
そら普段からお目にかかれる姿じゃない。
ちなみに今日会った王太子は攻略対象者に入ってない。
入ってたのはその弟のヴォルフガングだ。
ここで見落とせない事実を思い出す。
…あれ?でも確かヴォルフガングって〝第二王子〟じゃなくて〝王太子〟じゃなかったか?
必死で妹が一方的に押しつけてきた原作知識を引っ張り出す。
で、思い出した。
…そうだ…確か王太子は子供の頃暗殺されたんだ。
それで自分の地位に怯え、兄への罪悪感を抱き、気弱な王子様になったんだ。
兄妹共々一番嫌いなキャラでした。「責任ある地位なのにナヨナヨすんな!!」って。
そしてアレク(オレ)が今日会うはずだったのもヴォルフガングだ。
幼いアレクが謁見中なのに退屈を訴えて(あっちは普通の三歳児だった)、国王が同じ年のヴォルフガングと遊ばせたんだ。以来二人は幼馴染みになった。
だからアレクはヴォルフガングルートに行った時の隠しキャラなんだ。
「攻略本んんん!!」と思ったが、ダメだ。
妹は「自力で攻略せずに何が乙女か!!」という主義で攻略本も攻略サイトも手を出していなかった。
…自力で攻略するのを乙女と呼ばない。いや、それだけバイタリティーに溢れてる位の奴が幸せを掴むんだろうが…
それにあった所で読む気にならない。
いくら乙女ゲーの世界だろうが、今世のオレの人生だ。
ルートに従うだけとか真っ平だ。
そうするともうすることもない。
いつまでも妹の部屋に居座っているわけにいかないから、さっさと出て行くことにした。
ドアを開いて外に出かけて、妹の部屋を振り返る。
「…ごめんな。『 』」
オレはもう呼ぶことを許されない妹の名前を口の形で言った。
直後オレは現実に引き戻された。
ここでやっとタグに入れてた乙女ゲー要素が入ります。
小学校に入るまでまたしばらく使われなくなりますが、どうかご容赦を。