表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/50

第二の人生も愉快です


 窓から飛び出したオレは魔法を体に纏わせて落下移動しながら、襲い掛かろうとしている刺客と国王の子供らしき少年の間に割って入った。


 刺客の突き出してきたナイフを展開したバリアーで阻み、襲われていた王子(仮)と側役をまとめて結界で囲む。


 失敗した時の第二手として、買収した側役か息のかかった使用人に襲わせるってことも考えられるが、スキャン(読心。表面上の考え位ならわかる)した限りそうじゃないみたいだ。


 オレが飛び出した事でこの状況に気づいてか、慌てて駆けつけようとしてくる騎士の方々。


 ったく。抜かり過ぎだっての。国王の目と鼻の先だってのに地上からの襲撃者への備えがなっちゃいない。


 暗殺は襲撃に失敗した時点で撤退すんのが美学だろうに、頭に血が上って引っ込みがつかないのか、もしくは他にも目的があるのか戦闘態勢を取る。


 だったら遠慮はしない。

 オレも空手の時の呼吸法の要領で魔力を漲らせる。


 さて。まず無力化するのは当然として、その後どうするかも考えないといけない。それによって加減の具合や倒す方法が変わるからだ。


 …捕まえて、黒幕吐かせないとな…


 となる殺すのはもっての他(そうでなくとも忠誠も誓ってない王子様を守るのに手を汚したくない)、死んだ後自害されないように、かつ口封じで殺されないようにしないといけない。


 …ま、いけるか


 そう判断し、地を蹴って飛び出す。


 身体自体に肉体強化と防護術式をかけ、接近して肉弾戦を仕掛け、隙を作る。

 隙が見えたらすかさず掌底に見せかけた電気ショックで意識を落とす。

 念押しに眠りの魔法をかけ、近くの芝生に魔法をかけて草を伸ばし、縛めさせる。身動きを封じたついでに自害防止に猿轡もしておく。


 ここまでを流れる動作でやったら、相手はポカンと棒立ちになった。しかしオレが顔を向けると警戒したように体を強張らせる。


「だから。遅いっての!!」


 今まで使わなかった瞬間移動で一気に懐に潜り込み、鳩尾を殴りつける。


 とここで、背後から殺気。


 振り向きざまに捌こうと思ったら、飛んで来たナイフを弾き落としたのはダニエラだった。


 すっげ。本当に出てきた。


 まるでGに対するような反応だが、しょうがないと思う。


 そのままオレの背後から襲ってきた奴をダニエラが倒した。……ナイフで。スカートの中には武器も装備ですか。


 …うん。それはいいんだ。

 ただ、何で刺されたそいつ、微塵も動かないのかな?毒?ナイフに即効性の毒塗ってた?


「アレク様。ご無事ですか」

「…うん。見ての通りだ」


 色々と疑惑は尽きないが、お互い怪我も無く、最低一人は確保しているからそこら辺は別にどうでもいい。

 ここでやっと騎士団が駆けつけて来たんで尚更だ。


 そして王子(仮)の周りに肉の盾が出来てからオレは結界を解除した。

 折角助けたのに遠距離攻撃でやられたとか、後味悪いしな。


 王子(仮)は側役共々騎士に回収され、オレはやって来た祖父さんに拳骨を叩き込まれた。そして痛みに呻いているオレを引き摺って再び謁見の間へと戻った。




 すると、そこにはさっきよりもう二人増えていた。


 国王曰く、折角居合わせたからと、呼ぶことにしたんだそうだ。


 オレが守ったのはテオドール・フランク・アルバート・リヒター。

 (仮)じゃなくて本当の王子、それも王太子だった。


 もう一人はオレがここに来る破目になった張本人。オレの茶飲み仲間こと神官長、グスタフ・クリストフ・アルトマン。



 ちなみにクリストフってのは洗礼名な?神官のほとんどは貴族なんだが、俗世と交わりを絶つ、という名目でミドルネームは洗礼名に置き換える。


 本当の所貴族平民を問わず、本名が既に洗礼名でもある。でも、神官は名前を一つだけ残して、もう一つ新たに洗礼名を付けるそうだ。


 オレはいつも〝グスタフ爺〟と呼び、グスタフ爺もオレの事は〝アレク坊〟と呼ぶ。


 …とはいえここでそんな親しげには…


 そう思ってると、グスタフ爺は満面の笑みでオレにヒラヒラと手を振る。


 オイ。アンタが今いんの玉座の真横。

 そしてここ国王謁見の場。

 こんな状況でもフレンドリーなのやめて!!


 …まぁ、あれだ。今世もオレは変な爺さんに好かれるらしい。


 何とも言えない気分で苦笑いしていると、黙って突っ立ってた王子が声をかけて来る。


「…そなた、随分と幼く見えるが一体いくつなのだ?」


 うわ~。無いわ~。いくらそう見えても、そうしたマイナスイメージな事を口にするなよ


 とはいえ王子様(笑)の質問に答えないわけにいかず、オレは恭しく答えた。

「先日三歳になりました」


 オレの答えを聞いて王子ははっきりと嫌そうな顔をする。


 そらそうだろ。見た所十歳位なのに三歳児に助けられるとか。周りも「三歳の幼子に命を救われるとは…」とか「やはり弟君の方が…」とかヒソヒソと囁き合ってるし。


 この王子は気に食わんが、ここぞと槍玉に上げる連中も気に食わん。


 そんな不愉快さからオレはあえて声高に宣言する。


「王族に連なる方が危機に瀕したのです。いかに幼かろうと地位が低かろうと立ち上がり、我が身に代えてもお守りするべきでは?」


 オレの言葉にシン、と静まり返る。


 チビッ子の裏表のない言葉は時に雄弁だ。例え中身が精神年齢二十歳の男子高生でもな。


 それから不穏な空気は立ち消えになり、後は大人の話とオレはダニエラ共々追い出された。

 さっき締め出したダニエラを入れた理由は王子を助ける一役を担ったとかどうこう言ってたが、この為か。



 だがこれ以上あんな場所にいたくなかったんでこれ幸いと退出する。

 グスタフ爺にはまた今度茶菓子でも持って遊びに行こう。


 見送る価値も無いと見做されたか、廊下には誰もいない。

 二人きりだからか、ダニエラは誰が聞いているかわからない敵地に関わらず問いかけてくる。


「…先程のお言葉、本心にございますか?」

「まさか」


 オレの返事に「左様にございますか」とダニエラは納得する。


 オレには帰属意識は無い。

 家の中で物心つく前から(実際はばっちりあったけど)家の中で緩やかに爪弾きにされ、貴族としての心得も何も無いせいかはわからないが、どうしてか自分がどっかの一員だって感覚が無い。


 だってのに場の状況に合わせて道化を演じる。

 今の自分の幼さを最大限に利用して。


 全く。愉快でたまらないな今世も。


 自嘲するように口元を歪めて皮肉気に笑むと、見たわけではないだろうにダニエラがこう持ちかけてきた。


「では、苦い思いも飲み下せる甘いお茶とお菓子をご用意いたしましょう」


「ああ。それはいいな。ダニエラのお菓子は好きなんだ」


 あの歯痒くて苦々しい屋敷でも、ダニエラといる時は息がつける。

 一歳の時からオレに付けられてたまったもんじゃなかったろうけど、オレはダニエラに助けられている。


 この感謝をどう返せばいいのか。


 まだ身分も年齢も伴っていないから戯言にすぎないとわかっているけど、自分の心に定めた目標を言う。


「…なぁ。ダニエラはオレが面倒看るよ」

「いけません。奥様やお子様方を優先してくださいませ」

「オレは結婚したり家庭を持ったりする気は無いよ」

「あら。それでは坊ちゃまを見送った後、誰に面倒を見ていただけるのでしょうか」

 思わず振り返って聞いてしまった。

「……オレより生きる気なの?」

「はい」

 いつも通りの無表情だ。見た限り本気か冗談か区別がつかない。

「……それじゃぁ、オレは八十まで生きるらしいから頑張ってね」

「承知いたしました」


 本心で言っているのか、それともとぼけてみせたのかわからないが、まぁ、いいとしよう。


 まずはとりあえず王城から出ようか。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ