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第二の人生も自由(かって)にします


 祖父さんと馬車に乗り、王都へ向かう。


 祖父さんの屋敷に預けられたのは祖父さんの屋敷の方が王都に近いから、ギリギリまで前倒しでレッスンが出来る、という理由からだ。

 実質三日で終わってたけどね。


 祖父さん所有の荘園を二つ三つ抜け、湖畔と美しい緑に目を楽しませている内に王都は目の前だった。

 さすが公爵家。王家の目と鼻の先に屋敷を構えるとは。


 貴族専用の門を馬車に乗ったまま潜り、白い大理石で作られた通路を走って王都を進む。

 行き交うことを考えてか、通路は間にたっぷり30cmは空けて二台の馬車が通れるだけの余裕がある。


 しかしそのしわ寄せは平民の行き交う往来に行っているようで、身を寄せ合うようにひしめき合っている人々を、高台になる通路から醒めた目で見ていた。


 前世が表立った身分の無い世界だったせいか、特権階級(きぞく)のくせにこうした民衆を蔑にしたやり方は気に食わない。


 地位のある貴族の跡取りだったなら危険な思想であり、甘さに繋がるが、オレはどこぞの家を継ぐ予定も、養子に入る予定も無い。

 お気楽な次男坊だ。思想は自由にさせてもらおう。



 王城の門となるとそれ以上は馬車で入ることは許されない。

 オレ達は馬車を降り、頭上を見上げる。


 …すっごいな…


 人間度を超えた華麗な美しさに触れると、思考が停止するらしい。


 ベージュっぽい乳白色の石を積み上げた城は荘厳でありながら、醸し出される偉容、というものがある。


 この場に足を踏み入れるにはそれ相応でなければならない、というような無言の了解を与える佇まい。

 それに従ってか、今のオレ達も普段以上に豪奢で生地も厚い正装だ。


 重いし動きにくいので、動作確認はダニエラと入念に済ませてきた。


 お前は何をする気かって?備えあれば憂いなしだろ。


 とはいえ刃物や武器の持ち込みは許可されていないので、戦うとなると身一つとなる。


 …ま、大丈夫な気もすっけど。途中まではダニエラもいるし、ダニエラが入れない領域でも祖父さんはいるし。


 そう楽観的になり、呑気に構えていてもここ数日で叩き込まれ、身に沁みついた作法で振る舞う。


 途中で従者は立ち入り禁止とダニエラが締め出されるも、ダニエラは締まりゆく扉の前で優雅に礼をし、「行ってらっしゃいませ坊ちゃん」と言って見送った。


 …まぁ、ダニエラなら別れてもどっかで見守ってそうだけど…


 長い回廊を何度も渡る中、ふと右手にある庭園に目をやると、数人の子供達が固まって遊んでいた。


 その周囲を見やると他にもいくつかポツポツとそういった集団が見られる。


 貴族の子供を集めて何かやっているのかと思い、先導している侍従に尋ねると、嫌な顔一つせずに教えてくれた。

 (祖父さんは黙ってジロリ、と睨んで来たけど。不作法でごめん。好奇心には勝てなかった)


「ああ。あの方々は陛下のお子様方にございます。

 陛下は『子供の健やかな成長には外での遊びも必要』との考えの方ですので」


 それにしたって後宮の庭で遊ばせればいいようなものだ。

 軽く〝スキャン〟したが、さして魔法障壁も施されていないし、不審者対策も万全とは言い難い。


 その辺りをぼかして聞くと、「執務の途中、ふと庭を見下ろしてお子様方の戯れる様をご覧になるのが陛下の楽しみなのです」、との事だった。


 …ん~…。それもちょっと気になる所があるなぁ…。


 だが、あんまり突っ込むのもどうかと思うし、そろそろ祖父さんが本気で怒りそうだ。



 オレの懸念は程なくして的中したわけだが、それはまた後の話だ。



 

 そうした長い道のりを経て通された先はいかにもな謁見の間だ。


 足元には白と緑の大理石が幾何学的に配置され、その上を細く一直線に伸びる赤い絨毯は毛足が長く足が沈むようで、気を抜くと足を取られてずっこけそうだ。

 それを踏み越えた先には三段高い位置に玉座があり、収まっているのはトランプのキングのような恰幅の良いおっさんではなく、まだ若く髭も生やしていない男。


 顔つきは柔和で、わずかに笑んでさえいるのに与える威厳。

 これが生まれ持った王族、というわけか。


 不躾な観察は非礼に当たるので、玉座の前に祖父さん共々膝を付くと頭を下げる。


「良く来た。余はヴィルヘルム・カールハインツ・アッシェンバウアー・リヒターだ。

 そちの名は?」

「私はヴォルフ・エッカルト・ベッケンバウアーが外孫、アレクシス・ランドルフ・グーテンベルクにございます」


 自己紹介の時、一々親や祖父さんを引き合いに出すが、それというのも成人するまで子供にはたとえ貴族と言えども社会的地位は無い。だから社会的地位のある人物の肩書を借りてやっと一丁前ってわけだ。


 ちなみに貴族社会では名前が多い程地位が高い。

 そして王族となると支配する地名も名前に含まれる。


 国王の言ったアッシェンバウアーは王都・アーデルリヒの古称だ。

 つまりは王都を握った権力者、つまり国王の象徴。


 オレの挨拶に国王は笑みを深める。


「そう固くならなくとも良い」


 偉い人は皆そう言うんですよ。で、こっちが何かやらかしたらチクチク言うんですよ。

 本人が気にしてなくても近くの方が言うんですよ。


 前世で何かと面倒な経験のあるオレは内心毒づく。

 それに、そうでなくとも祖父さんもいるし、下手なことはしないよ。


 非常時を除いては。


 一瞬ピリリと殺気が走った。隣の祖父さんも気づいたようで、跪きながら周囲を窺ってる。


 オレが気づいたのは前世での実戦経験(喧嘩や悪霊との対峙)や訓練の賜物、祖父さんが気づいたのは戦場で培った軍人として、武人としての勘。


 「この部屋に刺客が?」と思ったが、そんな気配は無い。

 「だったら一体…」と思いかけて、考え直した。


 …いや、ここじゃない。


「失礼」


 そう断ると窓際に駆け寄り、眼下を見つめる。

 壁で控えていた騎士が何か言ってくるが聞き流す。


 眼下では豪奢な服を着た男の子と、側役らしき男がいるのみだった。

 その二人のいる位置からそう遠くない場所にある茂みに潜む黒い影がある。

 その不穏な空気から陰ながら見守っている、という様子でもない。



 オレは勘付いた通りだったと、静止を聞かずに窓から外へ躍り出る。


 祖父さん、後は頼む。オレは国王の子供の暗殺阻止してくっから。



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