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第二の人生に鬼は無い


 隠し通路を抜けた先には、コレクションルームがありました。



「…うわぁ…」


 部屋の百八十度を茶髪の男の肖像画で取り囲まれ、その真ん中には一人掛けのソファーが。

 多分そこに座ってじっくり鑑賞する為の物だろう。

 祖父さんしか踏み入ることを許されないことから、間違いなく祖父さん用の。


 …これはアカン。見ちゃいかん奴や…


 あまりの状況に使えもしない関西弁になる。


 ダニエラについて仕方なしに部屋の中に入ると、肖像画の男を観察する。


 オレよりいくらか明るめの茶髪を緩く束ね、口元には笑みを浮かべている。

 肖像画ってのは厳めしい顔ばかりだから余程笑顔が似合う、もしくは笑顔しか似合わない奴なんだろう。

 細められていて目の色はわからなかったが、子供の時らしき写真では翡翠みたいな綺麗な緑だった。


 その隣の姉らしき少女共々。


 ……金髪緑目にこの儚げな感じ。もしかしなくても母上様か?

 ということはこれは…


 そう思考を深めていた時だ。



「そこで何をしている」



 オレはここが誰の居住空間か忘れていた。



 昔聞いたが、日本刀は斬るもので西洋刀は殴る物だそうだ。

 刃を研ぐ技術が確立されたのは日本だけで、中世の西洋では鉄の塊みたいな(武器を含めて40kg位だそうだ)甲冑を相手にしていたんだ。

 さもありなん、と思っていた。



 祖父さんの手にした剣を見てその思いを深めたよ。

 これはもう鈍器の域だろ。


 既にオレ達が開けていた隠し通路の入口から入って来たのは剣を持った祖父さんだった。


 不法侵入した時点で、祖父さんにはオレ達を討ち取る権利がある。


 祖父さんはそれを実行するようで、言葉も無く鞘から抜き放つ。


 祖父さんの事だ。これは脅しじゃない。これはマズイとダニエラの前に立つ。

 剣を振りかぶった祖父さんに腰を落とし、拳を固める。


 今世ではまだ鍛えていないが、前世ではこれでもかって鍛えていた。

 身体は未発達だが、それは魔法でカバーできるし、勝負勘もまだ失われていない。


 それに何より、迎撃しない、という選択肢は無い。

 オレがどうにかしないと、ダニエラまで巻き込まれる。



 さっき言ったろ、男は度胸!!


 飛び上がって拳で迎撃し、剣先を受け止めた。拳は魔法で硬化済みだ。

 祖父さんはわずかに目を見開いた。

 見開いた瞳は黒曜のような混じりっけない漆黒だった。



 母上様は茶髪黒目のオレが生まれた時、いたく取り乱したそうだ。

 だが、オレの髪は叔父の、目は祖父譲りのものだ。


 それなのに関連付けられなかったということは、その存在を忘れていた、もしくはそうと認識したことが無かったということだ。


 母上様は自分の兄弟を忘れるような薄情な人じゃないから、叔父貴の記憶が色褪せ、擦り切れる程長い間会っていない、ということだろう。

 ……祖父さんについては今よりも幼く可憐だった(弱かったとも言う)母上様が祖父さんの顔をまともに見られたとはとても思えない。


 腕を袈裟切りに振り下ろして剣先を流すと、勢いを利用して後方に着地する。


「お祖父様。叔父上への接し方を悔いておられるのですか?」


 人間、今までの自分の過去を反面教師にして人と接し、生きていく。


 母上様はオレ達にベッタリでひたすら甘やかすだけだ。躾も何もしない。


 ということは、母上様は親と関わりはすれど、さして厳しくはされなかったんだろう。


 祖父さんは子供を野放図にするわけないから、考えられる教育方針はこれだ。


『ある程度までならば、自分で選んだことなら子供のすることに干渉しない』


 多分だが、父に見守られ己の思うままに生きた息子は自立心旺盛に、好奇心に突き動かされる人間に育った。

 その結果家を出たんだろう。

 でも、多分祖父さんの思っているような理由からじゃない。


 オレは祖父さんに手を差し出す。


「気に病まれるなら、叔父上に直接お聞きになったらどうです?」


 祖父さんの中で鮮明に息づく叔父貴のイメージとオレの有り余る魔力があれば世界中のどこにいたって見つけ出せる。


 思いがけない事態の連続で判断力が迷子になった祖父さんは、背を屈めるようにしてオレに手を伸ばす。


 とここで、ヒョイと身体を持ち上げられた。


「…ダニエラ?」

「ヴォルフ様(の腰)に負担がかかると思いましたので」

「…ダニエラ。実は怒ってる?」


 ダニエラはクールに見えて激情家だ。

 心の表面を覆う凍てついた氷の膜の下では静かに燃え盛る炎が燻っている。


 祖父さんのオレへのしごきが単なる感傷からの物と知って怒り心頭なようだ。


 …で、だ。祖父さんと手を繋いで叔父貴のイメージを探ったが、悔いの多い子供時代の物しかなかった。


 …ちょい弱いかな…


 仕方ないんで久々に神様に頼むことにした。


 (あまね)く見回す千里眼で見つけてくれ神様!!


 「了解じゃ」との返事が聞こえると、望遠鏡の縮度をグングン上げたように叔父貴の姿が目に迫ってきた。


 あ。ハーロルト王国だ。こっから三つ先じゃねぇか!!


 ここリヒター王国とも交易のある温泉国家。

 一回行ってみたかったんだよね。


「〝ワープ〟!!」


 本当は呪文の詠唱とか供物とか手順を踏まないといけないんだが、オレは有り余る魔力で押し通している。

 言ってみりゃ札束積んで融通してもらう感じだ。


 ……感じ悪いな……


 自分のたとえに鼻白んでいると、空間転移して叔父貴の目の前に到着した。


 叔父貴はテントを張って飯盒を火にかけている所だった。


「あれ?親父じゃねぇか」


 あ。オレこの人と友達になりたい。


 今世始まって初めて、話の分かりそうな大人に会えた。


 今すぐにでも友誼を取り結びたいが、今は祖父さんが先だ。


 いざここに至っても躊躇する祖父さんの背(正確には腰)を押す。

 祖父さんの息子なら真っ直ぐ育ってんだろ。だから信じろよ。


 三歩程離れて見守っていると不器用な祖父さんと快活な叔父貴がわだかまりを失くしていった。


 …やれやれ世話の焼ける…


 温かな眼差しを向けていると、ダニエラがオレの耳元に屈んで告げる。


「アレク様。

 もう全て終わった、というような晴れやかな顔をしておいでですが、


 王城への謁見は明日からですよ?」


「…あ…」


 頭の中でカーン、と第二ラウンドの鐘が鳴った。


 鳴らしたのは鐘の隣に寝そべって「ファイトじゃ~」と言う神さんなんだが。


 まずアンタから殴っていいよな?




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