あれオレ死んだ?
主人公が傍若無人過ぎて共感できない、という意見がいくつか寄せられたので大幅に書き直しました。
こんにちは倉持敬大です。
突然ですが、十七歳にして死にました。
両親に妹に犬一匹の平凡な家庭ですが、実家は神社で日本でも有数の力を持った神様を祀ってます。
この神様、オレのご先祖が大好きでその子孫も構い倒し、何かと可愛がってくれてる。
かく言うオレも昔から何かと助けてもらってた。
例えば氾濫した川に流されたオレを引き上げてくれたり、オレに突っ込んできたトラックの進路を変えて横の電信柱にぶつけさせたり。
物理的なものから霊的なものまで幅広く守り、助けてくれた。
オレが今まで無茶と無謀を繰り返してもこうして生きていられるのは、生まれ持った丈夫な体と、修行の一環で鍛えられた身体、そして何より神様の守護のおかげだろう。
……なのにオレは死んでいる。Why?
しかし、おかしい所はそれだけじゃない。
とっくのとうに死んだはずのオレが、三途の川でもあの世でもない場所にいることだ。
今オレのいる所は靄がかかっていてはっきりと視認出来ないはずなのに、どうしてか辺りの様子が理解できる不思議空間。
足元も雲のようにふわふわしていて、夢か現か判別できない。
ここはたまに神様と語らっていた神様の居住区だ。
ここでは自分の姿はイメージ通りなので、今のオレの姿も死んだ時の無残な姿じゃなくて、普段通りのオレだ。
自分の今いる場所を把握すると、自分の置かれた状況を冷静に考え直す余裕も生まれた。
しかしそれでも疑問は尽きない。
……うん。確かに、ちょいと神様の守護を過信していたよ?
神様も流石に無理って言ったよ?
けど、…けど…
記憶が混乱しているのか、自分がどうして死んだのかいまいち思い出しきれない。
だからどうしてあんだけ強力な神様の加護があったのに死んだのか理解できない。
そう頭を抱えていると、前方で物陰からこちらを窺っている白髪の爺さんが。
はい。ウチの神様です。
…こうして隠れてこっちを窺っているのは、神様が自分のした事で何か決まり悪く思っている時だ。
そうなると非常に面倒臭い方向に勘違いし、これ以上なく落ち込む。
だが、謝罪されるにしても、「そんな事ないよ」と励ますにしても、まずは向き合って話し合わないと始まらない。
長年神様に溺愛されて、過保護のあまりにややもすると振り回されるオレ達は、こうした神様の扱いは子々孫々に伝えてきている。
オレもそれに従う事にした。
オレがチョイチョイと手招きすると、神様は決まり悪そうにおずおずとやって来る。
気分としてはヤンチャして、飼い主に怒られないかな、としょんぼりしている飼い犬を「怖くないよ~」と言い聞かせている気分だ。
……いや。神様を犬扱いって。
喩でも言っていい事と悪い事がある。
こっちにやって来ると、神様はオレの前でちょこんと正座する。
神様に正座させるなんてウチくらいじゃないかな。
正座はそうさせるまでもなく、神様はオレ達一族を前にすると、ごく自然とそうする。
この神様、オレ達を溺愛するあまり、たまにとんでもない事しでかすからな。
『神様に感謝はしつつも、叱る時はちゃんと叱る事』が家に代々伝わる家訓になっている事から察してくれ。
…それでもあえて端的に言うなら、
その昔ウチの一族の娘に無体な事をした若者の住む村を大雨で沈めた、とか。
ウチの一族の末端の、武士の若者が戦で討ち取られかけた時に戦場に雷を落としたとか。
…そんな、天変地異を引き起こしてでも、ウチの一族の人間を守ろうとしてきた。
………それだけなら感謝しかないけど、本当におかしな方向に突っ走る事が多々あってさ。
…………あ。思い出した。
そういや、今回、オレが死ぬ前もそうだった。
オレは神様の言葉に生まれて初めて本気で怒り、生まれて初めて神様の願いを突っぱね、生まれて初めて自分の願いを押しつけた。
結局神様とは喧嘩別れに終わって、神様を悲しませたままオレは命を終えた。
その事に悔いは無いか、と聞かれたら難しい。
けど、オレはどうしてもあの願いを聞き入れるわけにいかなかった。
「その願いは神様としてどうなんだ?」とオレは死した今、改めて聞きたい。
そんな、真剣な話をしたい。そう思ってオレは横柄にも思える口振りで神様を問い詰めた。
「なぁ、神様。何かオレに言うことは無いか?」
だだでさえ中国の仙人みたいにモフモフの眉毛と髭で表情が分かりにくいのに、俯かれちゃ尚更分かんない。
「神様。どうなの?」
追求すると顔を上げ、いつものごとく軽~い口調であっけらかんと言ってのけた。
「守り切れんかった♪」
思わず殴りつけたオレは悪くないと思う。
そこじゃねぇよ!!
オレが言っているのはオレ大事で、その為だったら他の奴がどうなってもいい、っていう神様の基本理念に対しての異議だよ!!
オレの死因は厄介な曰くつきの樹海に悪友二人と踏み込み、そこに巣食うもの達に勝てなかったこと。
そうした霊的なものに対する耐性(神経はともかく、精神体は鍛えられていなかった)の無かった悪友は相次いで命を落とした。
そしたら神様、オレの事は絶対守り抜くから、そいつら放っといて逃げろ、って言ったんだ。
だからオレは守れなかったことは怒ってない。
そもそも洒落にならない曰くつきの樹海に仲間と探検に行ったのオレだし。神様も「流石にそこは…」ってモニョモニョ言ってたし。
それで死んだなら自業自得だし、オレはそれまでだったって事だ。
だが何か勘違いしてか、頬に手をやり「ヨヨヨ…」としている神様はこう言ってきた。
「じゃから、お詫びにお主の望む世界に行き返らせたいと思う」
オレは拳を振り抜いた格好のまま固まった。
「…は?」
「じゃから、人生がたったの十七年じゃ物足りないじゃろ?じゃから本来の寿命から十七年を引いた分だけ別の世界で人生を送らせてやろう」
…そこまでするならいっそ本来の寿命でやれよ…
そう思わなくもないが、それは願ったり叶ったりだ。
正直、まだ神様の判断に腹が煮える。
でも、それも全てオレを守りたいが為の我が儘だった。
オレ達は神様がそうした自分勝手で色々やっても、「神様はしょうがないなぁ」と笑って許してきた。
だったら、今回もそうしないと駄目だ。
今まで守ってもらったのに、たった一回の間違いで許さない、なんてしたら、神様が悲しむし、今まで培ってきた関係にヒビが入る。
神様は本当にオレを思っての行動だったんだから。
それなのに許せないなんて、オレの自分勝手だ。
だからオレは神様の提案に乗ることにして、気を取り直してその提案を吟味する。
神様の過保護でウチの家系は大きな病気にも不運な事故にも見舞われずに大往生する。
だから皆大体百歳近くまで生きる。オレの祖父ちゃんも今九十七だし。
…ってことは八十年位か…
そんだけありゃ差っ引かれても文句は無い。
オレは次行く世界の選定にかかった。
平安時代も戦国時代も、明治も大正も興味がある。…さて、どれに…
「言っとくが、現実の世界の過去には行けんぞ」
「畜生ーーー!!」
やっぱりな!!やっぱりそうかよこん畜生!!
…だったら…
更に思案に耽るオレに神様は手の平を向けて押し留める。
「ああもう。お主の好みはわかっとるから、それにふさわしい世界に送ってやろう。
生まれ変わる自分に希望はあるか?」
「…ん~。そこそこの財と家柄がある家で…あと、次男坊位がいい」
宮司になるのは別に嫌じゃなかったけど、長男・跡取り息子とかで色々と堅っ苦しくて面倒だったんだよ。
男なのは絶対な。
あと、容姿も地味でいいや。顔は十人並で中肉中背。髪も色彩はいらん。 いかんせん日本人なもんで、あんまり派手なキラキラした色合いはしっくりこない。
黒とか茶色とか地味めな色が良い。
それともう一つこれは譲れない。
「できればドイツ語圏で」
「…お主が憧れるのはイギリスじゃなかったか?」
「ドイツ語の名前が格好いい」
「そうかい」
神様はそっとため息をつくと立ち上がり、オレの額に手を翳す。
「生まれ変わっても儂はお主を見守っとるからの。
お主の血族は死ぬまで儂が守る」
そう言ってくれた神様に嬉しさから思わず口元が緩む。
さぁ、行こうか第二の人生。ま、神さんのこった。またどっか抜けてんだろうがそれも含めて楽しむとしよう。
眩い光に包まれ、視界が白く染まる。
『オレ』の意識はそこで消えた。