03
――「そろそろ、アマイの心配した方がいいんじゃないカナ?」――
…あぁ、忘れてた。
ルフェが苦笑いをしながら言った言葉で我に返ったティアは、アマイの存在を思い出した。
「そうね、先に優先することはアマイの事だわ。あの子が夕飯の時間なのに居ないなんて変ね。」
「そ、そうだよ!僕もアマイがし、心配だなぁ…」
「わ、妾もアマイが心配じゃ!ここは探すべきではないかの!」
「俺もそう思うっす!!」
レヴィアの意識がティアからアマイに移ったことをいいことに、暖炉組アティモ、サティ、キフェルがアマイの方へ必死に話を持っていこうとした。
もう、余りにも必死すぎてティアも哀れんだような目をして、あぁ…もう、なんかいいよもう。という思いを寄せていた。
「ウン。でもその前におちびちゃん達は部屋、片付けようカ。」
部屋の中は惨劇だった。
散らばったトランプ倒れている椅子。ティアが暴れたときにぶつかったと思われる多数の本たち……わぁ、きったね。
それもこれもティアと暖炉組、まとめておちびちゃん達と言われている四人がやらかしたことであり。それを自覚している四人はしぶしぶ片付けをし始めた。
「まったく、危ないところであったのぅ。ティアよ、余計なことを言うでない。」
本を並びなおしているところにひそひそとサティ達が話しかけてきた。
「なんじゃ、その哀れんでいる目は」
「そうっすよティアさん。俺たちまだ死にたくなかったっすから、もうやめてくださいっす。」
「いや、こ、これは、たぶんぼくたちが…あ、ご、ごめん!!」
いや、別に哀れんでるわけじゃないよ?…ただ、ねぇ。ルフェに助けられて良かったねって、思っただけだよほんと。
心でそう思いながら、うんうん。そうかそうか。とティアは頷いていた。
「あ…も、もうこれティア聞いてないね」
「ティアはそういうやつじゃからな。妾達がしっかりしないとだめよのぉ」
「…これ、もう会話になってねぇっすよ」
会話が成り立たなかった。
「あ、もう片付け終わッタ?」
にこにこと笑みを浮かべながらルフェが四人に近づいてきた。
「うん、終わったよ」
「そっか、よく出来たネ。」
そう言ったルフェはよしよし、とティアの頭を撫でた。
…やっぱり、落ち着く。
最初ティアは頭を撫でられることが嫌がっていた時があったが、今ではルフェに頭を撫でられることに少し、ほんの少し、喜びを覚えている。
えへへ、ふひひ、と少しばかりの喜びを噛み締めているとき、あっとルフェが声を上げた。
「そうダ。今から少しルゼと出るから、おちびちゃん達はお留守番しててもらえるカナ?」
「え、なんで?」
「メインに出す肉が無かったから、ルゼと急いで買ってくるだけダヨ。明日、家を出るから必要ないって思ってたんだけどネ…」
それは、大変だ。肉がないなんて一大事すぎる。夕飯が…!
「よし!早く、買ってき「ティアァアァアア!!!!!!」
なんか。血生臭い。なんか、体が締め付けられてる。なんか…、
「あ、アマイおかえりなサイ。」
「おや、帰ったのですか。レヴィア、今回は早かったですね。」
ルゼもルフェも何を言っているんだ?確かにアマイの声はするよ。真横から。だけど、なにこれ、すっごい血生臭いんだけど、今、私真っ赤な腕に締め付けられてるんだけど。
「川の辺りにいたわ。もう、心配して損したわよ。」
「だってぇぇ~、ポアソンが居たからあたし、頑張ってたんだよ。きっとティアが喜ぶと思ったから…」
「ポアソンか居たのですか?それはそれは、凄いですね。」
「お、やったネ。なら、肉買いにいかなくても大丈夫ダ。」
ポアソンとは、この森では有名な、獰猛な獣だ。獰猛故に、狩ろうとするものは屈強な男でも成功する時の確率は低いだろう。しかし、その強さに比例してポアソンの肉はとても美味しい。焼いて食べてもよし、干し肉にするのもよし、様々な食べ方をしても美味しいのがポアソンの肉である。
それを、狩ってきたのだ、アマイは。すごい、すごすぎる、けど
「…とりあえず、お風呂いこうよ。」
まずは、風呂に入るか。
あの後、お風呂に入ったティアとアマイを迎えていたのは料理と化したポアソンだった。
もちろん、美味しく頂いた。美味しかった。
残ったポアソンの肉は四日間の移動の際に食べ尽くしてしまった。これまた美味であった。うん、ポアソンありがとう。
――――そして、現在。
私たちは、大きな大きな扉の前にいる。ここが何処だって?そんなの、決まってるじゃないか、そう、いま私たちはシュベラッツェ魔術学園の前にいる。