02
ティアとルゼの荷造りは、途中で目覚めたアティモも加わり早々に、無事に、何事もなく終わった。
「あり?アマイまだ帰ってきてないの?」
春が近づいてきたがまだ肌寒い、自分たちは家の中の暖炉と夕飯を作っているときの暖かさで寒くはないが、ひとりいない。朝から飛び出していったアマイが一向に帰ってくる気配がなかった。
おかしい、いつもの彼女ならご飯が待ち遠しくて台所で騒いでいるのに。
ティアが発したその言葉に、部屋にいた全員が、あぁ…そういえば言われて見ればいなかったな。とアマイの存在を思い出した。
「…また、アマイはどこかへ飛び出してしまったのですか?」
ティアの質問にに反応したのは、引っ越しのために必要な物を買い出しに行っていた"レヴィア"だった。
丁度帰ってきた所なのだろう、頬と鼻の頭を赤くして一緒に買い出しに行っていた"ルフェ"と一緒に荷物を抱えて家の中へ入ってきた。
今朝、家を飛び出していったアマイとは真逆で、アマイを強気な女と表すならレヴィアは儚げな女と表す。…が、そんな印象はものの数秒で崩れる。まさに崩壊。
「…レヴィア!!お帰りなさい!」
「ぐぇっ!!」
ティアはレヴィアの姿を見た瞬間、ルフェに荷物を預けているレヴィアの元へ走った。よほど嬉しかったのだろう、途中で暖炉の前で寝そべりながらトランプをしていたアティモを踏み付けて走った。
そう、全力で、走った。
「レヴィアァァアーーーえ?」
ティアの目の前がレヴィアにたどり着く前に暗くなった。え、なんで?
「レ、レヴィア…?」
暗い視界の中で、うふふとレヴィアの笑う声が脳内に響く。いや、だから、なんで?
「えーっと、レヴィア?どうし――っ?!あででででででで!!割れる!割れるよ!!レヴィアさん?!レヴィアさッ脳がぁぁあ!!脳の味噌が割れあぁぁあああ!!!!!!」
痛がるティアをレヴィアは微笑ましそうに見ている。あまりの痛さに絶叫しているティアの姿が、レヴィアの表情に似つかわしくない怪力の威力を物語っていた。
割れる!頭が、割れる!痛い!
しかし、そんなティアの思いも空しく目の前で微笑んでいるレヴィアには届かない。
「あらあら」
レヴィアは掴む。強く掴む。
「な、なんで?!…ッあだだだだ!!!ご、ごめんなさッッごめんなさいッッッ!!!!!」
ティアは嘆く。ひたすら嘆く。
「まぁまぁ」
レヴィアは笑う。
ティアの頭を掴みながら。
全力で掴みながら。
「…ッい、いだがっだ。」
ようやく離してもらえたのか、ティアは捕まれていた頭を擦りながら涙目で訴えていた。
なんなんだ!ほんと、あの顔からあの怪力はありなのか!無しだろ!
誰に訴えても仕方ないから、頭の中で自問自答する。別に、声に出してレヴィアからの第二の攻撃が来るのが怖いとか、そんなの関係ない。いや、ほんとに。
「まったく、何回言ったら分かるのですか。室内で走ったらいけないと、あれほど言ったでしょう。」
……それ、きっと私じゃない。あっちでトランプしてる3馬鹿トリオだ。絶対、そうだ。私家の中走ったことなかったもん。
身に覚えのない事で怒られて、ティアは暖炉の方を睨んだ。
睨まれた方の暖炉組はびくぅっ!!となったがそっぽを向いて下手な口笛を吹いた…。
……これはもう、チクろう。
「…はい、レヴィアさん。」
未だに痛みが引かないため、ティアに元気は無かった。
「なんですか、ティア。」
が、悪事だけは働くらしい。
なんと迷惑な脳みそなのか…
「レヴィアさんが、買い出しに行っていた時、3馬…げふんげふん"アティモ"と"サティ"と"キフェル"が――」
カダガタガタッ!!
ティアが言おうとした時、暖炉組は手に持っていたトランプを放り投げ顔を青白くさせてこちらを見ていた。
その顔は――やめろ、その口を、開くな。と悲願しているように見えた。
―――残念だったな。三人揃ってババ引きやがってざまぁ。
ニヤリとレヴィアの顔から見えない角度で三人に向かって笑って見せる。
――お前らも、同じ目にあってこい。
「今日の「そろそろ、アマイの心配した方がいいんじゃないカナ?」
…遮られた。見事に遮られた。
遮った声の持ち主を探すと、本人は目が合い苦笑いをしていた。
語尾が片言な声の持ち主――ルフェはいつの間にか、エプロンをしてルゼの夕飯作りの手伝いをしていた。