00〈プロローグ〉
満月が輝く夜――、
遠くで狼の遠吠えが聞こえた。
森の奥には大きなお城のような建物…
シュベラッツェ魔術学園が佇んでいる。
シュベラッツェ魔術学園はこの大陸にある三大魔術学園の中の一つ、最古の魔術学園であった。明るくなれば見られるであろう学園の風貌は、目にすれば唖然となるほど立派なものである。
そんなシュベラッツェ魔術学園の一室で数名が円卓を囲んでいた。室内は薄暗く互いの顔がうっすらと確認できる程度に光が灯っていた。
「…本当に、この四人を入学させてもよろしいのですか。」
低い重低音の声が響いた。その声は、何か渋っているように聞こえた。
「ちょっとぉ、まだそんなこと言ってるのぉ?もう決まったことじゃなぃ」
「いい加減にしたらどうなの。いい顔しないのはもう、貴方くらいよ。」
この問いに二人の女性が反応を見せ、周りが賛同の意を見せた。
「…っしかしだな!」
「まぁまぁ、いいじゃないですか。」
そこに、貫禄を感じる一つの声が響いた。その声に反応しその場にいる全員が声を発した人物に注目する。全員に見られている人物は穏やかな微笑みを浮かべ、この集まりの流れを終始楽しんでいるように見えた。
「この四名が我が学園に入学することは素晴らしいことですよ。まぁ、先生方の心配もあると思いますが、そこは安心して下さって大丈夫ですよ。」
――何故、安心していいと言えるのだ?皆が、最後の一言に疑問を覚えた。現に不安があるために、少々揉めているのだ。しかし、そんな事はお構い無しのように話は続いた。
「この学園に新しく教師の方を迎えました。まぁ、まだ仮ですが」
「…か、仮、ですか。」
益々分からなくなってきた。今年入学してくる生徒の中には絶対に、絶対に問題を起こすと考えられている四人の生徒が入学してくる。そんな問題児達を安心して受け入れることのできるほどの教師がいるのだろうか。しかも教師(仮)とくれば余計不安を感じる。
「はい。皆さんも名前くらいは知っているとは思いますが"ティア・サーレット"を我が学園の教師(仮)として迎え入れます。」
「あ、あの"大罪の姫"を?!」
その名前、呼び名を聞いた瞬間空気が変わった。驚いた者もいれば、ニヤリと口角をあげるもの。はたまたさらに面倒事が増えたと言わんばかりの表情をする者が現れた。
「えぇ、"彼女"が来れば彼らも自己を見つめ直すでしょう。それに"彼女"自身にもよい刺激となるはずです。あ、あと"彼女"の前で"大罪の姫"という呼び名はやめてあげて下さいね。あまり好んでいないようなので。」
どうだと言わんばかりのしてやったり顔をして、周りを驚かせ達成感に浸っている人物に周りは様々な思いを浮かべていた。――もう、この人に何を言っても無駄だ。そう悟った、先程の重低音の声の持ち主が溜め息をつきながら、事態を収集させた。
「わかりました、わかりましたよ。もうそこまできたら反論なんて無意味ですね。ですが学園長、もしその…"ティア・サーレット"が問題を起こした場合は貴方にも動いてもらうことになりますからね。」
普通の大人でも睨まれれば怯えてしまうような男の睨みも、最後の反撃だとばかりに睨まれた張本人はニコニコと笑顔を一切絶やさず流していた。
「さてさて、とても楽しいことになって来ましたねぇ。"ティア"貴女はどんなことをしてくれるのですかね。」
―――夜が明けようとしていた。
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