個別具体的な謎とトリックの作成法
一応三つの方法を挙げましたが、だからといって「じゃあ、どうぞ」と言われたところで謎とトリックが作られるかというと微妙なところです。
ということで、更に三つの方法をより具体的に考えていきます。
方法その1.謎を考える→その前提をひっくり返すトリックを考える
まず、その1について。
この方法で注意すべきは、その謎の前提を決めるのは作者次第ということです。
例1.密室殺人
密室殺人の場合、「密室の謎」というスケールで焦点を当てたと考えるなら、前提をひっくり返すには、「実は全く密室じゃなかった」とか「実は殺人と密室は無関係だった」みたいなトリックが必要になります。
んが、しかし!
スケールを変えて、「どうやって密室のドアを開けたか」というより小さな点に焦点を当てるとどうでしょうか。この場合、その謎の前提を覆せばいいのだから、「実は別の出入り口があった」とか「遠隔殺人だった」というトリックでいいですね。
つまり、謎の焦点が当たるスケールが変わってるわけです。
どうやって変えるのかというと、方法その3とも通じますが、演出や話の流れ、登場人物の会話などです。
より具体的に言いますと、密室殺人が起きたとして、「そのドアを開けて殺されたとしか思えない状況を設定する」「登場人物もずっとその前提で話を進める」「逆にドアが開けられなかった可能性を隠す演出をする(例えば開かないはずなのに開けられた痕があるとか、開いてるのを見たって証言があったりとか)」こういうやつです。
これによって、スケールが変わり、「前提」もまた変わるわけです。
方法その2.トリックを考える→それを利用した延長線上に生じる謎を考える
これは、先にトリックを考えておいて、謎を作るやり方です。
例2.電磁波で離れた人間を丸焼けにするトリックを使う。
これだけ単体で見ると酷いトリックな気がする上に、そもそも電磁波ってそういうものかという疑問が産まれますが、とりあえず置いておいてください。
さて、このトリックを使って人を焼き殺すのはいいとしましょう。
けど、それで「どうやって焼き殺されたか」を謎の焦点にしてはダメです。まんまですから。あくまでも、そのトリックを使った延長線上に謎がなくてはいけません。
例えば「巨大ガスバーナーが近くにある」「けど、そのバーナーは厳重に見張られていて使えない」とかいう状況を設定してあげれば、「どうやって焼き殺されたか」ではなく、「どうやってガスバーナーを使った」に謎がシフトします。
あるいは犯人にアリバイがあったことにすれば、「どうやってアリバイを偽装して被害者に近づいたのか」という謎を作っておくことができます(もちろん、近づかずに遠くから不思議な装置で焼き殺したのです)
もちろん、その際は方法その1と同じく、演出や話の運びによってそういう謎が作られるように作者が力を入れてやらないといけません。
方法その3.焦点のずれていないトリックと謎を考える→話の流れや書き方、つまりミスリードで謎の焦点をずらしていく。
そして最後にこの方法は要するに、さっきの方法1と2の最後の調整、つまり演出や話の運びによる調整を思いっきりやって謎の焦点をずらしてしまうという方法です。かなり被っています。
例3.被害者をうまく心理的に誘導して毒を飲ませるトリックを使う。そして、どうやって毒を飲ませたかが焦点となる。
このままだとまずいですね。
だから、思いっきり話の運び方や演出でずらします。例えば「被害者は自殺した」という状況設定をしてもいいですし「犯人とは別に被害者に直接毒を飲ませることのできる人がいるが、毒を持ち込んだ方法が不明」という設定でもいいですね。そして、話の流れで前者なら「なぜ自殺したのか」に焦点を当てたり、後者なら「どうやってそいつが毒を持ち込んだのか」を焦点に当てる。そして、その前提で話を進めていくわけです。
あれ、結局どの方法も同じようなことしてるんじゃない?
そう思われた方、正しいです。
結局、思考の出発点がどこから始まるかという話で、出発した後は試行錯誤したり行ったり戻ったりで、結局どのルートを通っても同じような過程を辿っていくことになります。前に言ったように、最終的にはこれらの方法は入り混じるのです。
ただ、まず出発する時に、この方法のいずれかを使って考え始めればスタートしやすいかな、くらいのことです。




