トリックは、実は謎とは「ずれて」いる
トリックは読者に向けて仕掛けて、それで謎を作る。
なるほど、ここまでは、まあ、間違ってないかもしれません。
けど、間違ってないかもしれないけど、別に具体的でも実践的でもねーよ。実際に自分でトリックを作る時、どうすりゃいいんだよ。
と思われるかもしれません。
なので、今までの話を踏まえた上で、実践的な話をそろそろしていきます。
ここでは、トリック(メイントリック)と謎(中心となる謎)の関係について話をします。
ところで、作者は手品、マジックが好きで、結構本格的なマジックの解説本も持っています。
別に手品をするわけではなく、単に好奇心で持っているだけですが。
そこの解説本を読んでいるうちに、手品の「トリック」とミステリの「トリック」について、非常に類似点が見つかったので興味深いなと思っていました。
まず、本質的に「見る人に仕掛けて謎を生み出す」という点が同じです。
そしてもう一点、謎との関係性に、非常にテクニカルな共通点があります。
それは、「謎の焦点」とトリックをずらしておく、という点です。
はっきり言って、これこそが手品だろうがミステリだろうがトリックの肝と言っていいです。これが真髄です。
いや盛り上がってるところ悪いけど意味分からねーよ。
と思う方がいるかもしれません。というか、そりゃそうでしょう。
謎の焦点って何? って話ですから。ただ、ちょっと作者にもこれ以上言葉で説明するのが難しいです。
なので、いつものように例を出して説明していきます。まずは手品から。
例1.何も入っていなかった箱から、何枚もコインが。実は、箱自体を目を盗んですり替えておいたのだ。
これは、まずすり替えをかなり巧妙にするのが必須条件です。
そして、「箱はずっとそこにあった」ことを前提に観客が空だった箱からコインが出てくる謎を見れば、当然その謎の焦点は「一体いつコインを入れたんだ?」というものになります。
が、そこを焦点にいくら観客が考えても正解にはたどり着きません。何故なら、トリックはその焦点には存在しないからです。
これはミステリでは、以下のようになります。
例2.誰もいなかったはずの密室状態の広間に、突然死体が出現。実は、最初から死体はあったのだがそれが氷の彫刻の中に隠されていたのだ。
これは氷が自然に溶けて死体が現れるというクソトリックですが、しょうがありません、いい例が思いつかなかったんですから。
ここで言いたいのは、死体出現の謎に対して、読者の謎の焦点は「どうやって死体を持ち込んだのか」にあるわけです。また、実際に書く際は話の流れや登場人物の会話によってそこを焦点と思うように誘導するべきでしょう。
そして、実はトリックはそこではない。つまり「死体を持ち込むトリック」は存在していなかったわけです。最初から死体は存在し、「死体が隠されていてそれが現れるトリック」こそが仕掛けられていたわけです。
これが、謎の焦点とトリックをずらしておく、ということです。
もちろん、実際にはずらしていないトリックも存在します。例えば密室の謎があって、普通に密室のドアを開けるトリック、それも素晴らしいトリックが存在するミステリもありうるでしょう。
が、作者はずらした方がいいと思います。メリットが多く絶大だからです。
メリットその1.ずらした方が読者がトリックに引っかかってくれ易い。
メリットその2.真相を見た時の読者のショックが大きい。
とくにその2が大きいです。
つまり、前提がひっくり返されるわけなので、うまくいった時の読者の「やられた」感は半端ないです。「そこからかよー」みたいな。
つまり、ミステリ全体の質を上げることができるわけです。
おいおい、さっきから理屈ばっかじゃねーか。だから、具体的にどうすんだよ。
と言われたら、以下の三つの方法から一つ選んで謎とトリックを作ってもらうしかないです。ただし、現実にはこの三つの方法はそれぞれが独立しているわけじゃなくて、思考途中に入り混じることになると思いますが。
方法その1.謎を考える→その前提をひっくり返すトリックを考える
方法その2.トリックを考える→それを利用した延長線上に生じる謎を考える
方法その3.焦点のずれていないトリックと謎を考える→話の流れや書き方、つまりミスリードで謎の焦点をずらしていく。
作者の個人的な難易度としては、簡単な順に3→1→2といったところでしょうか。前もって言っているように、どうせ謎やトリックを考えている途中にこれらの方法は入り混じりはするんですが。