不可解性と不可能性
ミステリにおける謎とは何か?
まあーミステリにおける謎の定義はこの書き方の最初の方で書いたように思うんですけど、そうではなくて謎の要素の話ですね。どんな要素があって、で、その要素が大きく多くなれば魅力的な謎になる。そんな謎の要素って何でしょう?
これ、色々なタイプのミステリを見ていた結果、大別して以下の二つの要素になるかと思われます。
①不可解性(why)
②不可能性(how)
ですね。
これが謎を謎たらしめている要素だと考えていいかと思います。以下個別に考察してきます。
①不可解性(why)
何故そんなことになったのかが分からない、というのがこちらですね。
奇妙な状況とかがあるとこの要素があります。
例1. 人が殺された。動機は何だろう?
これはよくある話だしかなりぼんやりしていますね。実際、殺人系のミステリだと絶対にこの謎は入っているはずです。
で、やっぱりその謎がどうやったら魅力的になるかというと、その動機が不可解であればあるほど魅力的になるはずです。
被害者が超いい人でどの角度から見ても動機が全く見当たらない。更に言うなら、むしろ容疑者の誰からしても、殺したらデメリットがむちゃくちゃある。
こんなんだったら、謎がかなりひきつけ力があるんじゃないでしょうか。
また、不可解性は実はどちらかというと犯罪以外と相性がいい気がします。いわゆる日常の謎系ですね。
例2. 町の自動販売機で一斉にある一種類のコーヒーだけが売り切れた。どうして?
こんなんとか、完全に日常の謎ですが、その謎の要素は完全に不可解性ですね。
さて、不可解性は(why)と書いているように、「なぜ?」という問いかけの形に直すことができます。ですので、それに対応する答えは「理由」になると考えられます。
つまりワケがわからないことが起こった時、その謎はそれが起こった理由とのセットになるということです。
以上より、謎を魅力的にする方法の一つは、どんどん不可解にする、ということだと思います。
あと不可解性については、登場したキャラクターとか舞台の設定とかとリンクさせやすいと思いますので、(動機とかもろキャラクター性と被ってますね)物語自体と絡ませやすいと思います。ドラマ的にいい感じにするなら、不可解性が解き明かせるタイミング、つまり「理由」が分かったタイミングで感動が起こるようにするとかね。この場合、理由を感動的な理由にしておけばいいんじゃないですかね。
ただそうすると理由の方を先に考えることになるんで、パターン的には「トリックを先に考えて延長線上に謎」の作成方法になります。これはなかなか面白くするのがムズいというのは前述のとおりです。
②不可能性(how)
一番分かり易いのは密室殺人ですよね。殺せない、のに殺されてる。不可能じゃん。どうやって? これが不可能性です。(というかあらゆる不可能犯罪って密室殺人の亜種にすぎないと個人的には考えています。物理的な密室殺人か状況的な密室殺人かって話で)
不可能犯罪が楽、という話もこの書き方のどこかで書いていると思います。
とにかく、この要素で謎を魅力的にする方法は、どんどん不可能にしていく、ということだと思います。
絶対に無理じゃん、ということが起こって、無理であれば無理であるほど、魅力的になっていくと。
例3. 目の前で人が次々と空中に浮かんで爆発していく。
むちゃくちゃですけど、やっぱりここまでわけが分からないと「一体どうやって?」と気になりますよね。無理じゃん、というのがやっぱりこの謎が魅力的になる原動力です。
言うまでもないですが、こっちと相性がいいのは「推理小説」「本格」「探偵小説」とか呼ばれるジャンルですね。この書き方では推理小説で統一してます。
なんでこっちと推理小説の愛称がいいのか、についてはこれまで何度も書いてるから省略です。
人がミステリを書こうとしている時って、無意識のうちにこっちの要素を中心に考えるんじゃないかなーと思います。というか俺がそうなんで、実際にこれまで書き方で言及してるのってこっちの話ばっかだった気がします。
さて(how)と書いているように、これは「どうやってその不可能を可能にしたか」という方法とセットで考えられます。その方法こそがいわゆるトリックですよね。
ともかく、どんどん不可能な状況にしていくことで謎は魅力的になるのではないでしょうか。
さて、ここからは実践的なお話です。
現実問題として、不可能性だけを考えて謎を作る方法はかなりのセンスや覚悟がなければ難しいのだと思います。ストックがなければ。これが今、書けない原因なのかな、と。
最近のミステリのほとんども、不可能性ほぼ一点突破で作られている謎は少ないと思います。前述したように不可解性がストーリー自体や世界設定と絡ませやすいことも考えれば、小説である以上妥当ではあります。
結局のところ、ミステリ、いえ推理小説であっても、基本的に謎自体単体で面白くて魅力的か、つまり設問だけ取り出しても「面白そう」と思えるかというとほとんどはそうではなくて(もちろんそういうものもありますよ、古典とか短編とかには特に)、その謎が生まれた状況とか雰囲気とか舞台設定、そしてキャラクターやストーリーとの組み合わせで「面白い小説」となっていることが多いように思います。
となると謎を作る時に、「不可解性」をまずは軸として考えていくのは結構有用な手段ではないでしょうか。トリックを作るとなると無意識のうちに「不可能性」を軸に考えてしまいがちなだけに、特に。
つまり(そちらが先にあるなら)舞台設定やキャラクターの大まかなイメージから「どうしてそんなことに?」という、訳が分からない、それだけに興味深い謎をまずは原型として考えるわけです。奇妙でわけが分からなければわからないほどいい。で、大事なことですが、もしジャンル的に推理小説にするなら(そうじゃなくても個人的にはした方がいいと思いますけど)不可能性の要素をそれに足していく。つまり訳が分からないかつ、ありえない謎にしていく。それから、一つ前の話であったように、謎と物語を行ったり来たりして色々と調節していくわけです。
どんなに荒唐無稽でも、「こんなの理由付け無理だよ」という謎でも構いません。ともかく、まずはそうやってまずは不可解性、それから不可能性の順番で謎を作成するのです。
試行錯誤したり色々名作ミステリ読み直して思ったのですが、はっきり言ってしまえば、ストーリーも含めて、「魅力的な謎」を作成できれば、その時点で7割以上成功だと思います。「謎の答え合わせ」は、正直なところ小説の面白さからすると3割以下のウエイトというのが感覚的なところです。
もちろん、その「謎の答え合わせ」が超大事ですし、これまでさんざん言ってきたようにそこがむちゃくちゃ魅力的な小説というのもあるのですが。
でもやっぱり謎が派手で魅力的じゃない小説は個人的にあんまし好きじゃないです(小声)




