謎の作り方とトリックとの関係性
御託は分かったよ。
で、謎はどうやって作るの?
という話をしていきます。
謎とは、過去について読者がよく分からないことです。どうして読者がよく分からないのか? それは、仕掛けがあるからです。
その仕掛けは、トリックと呼ばれています。
どうしてトリックが必要なのか、というと、これはちょっと後で詳しく説明しますが、ミステリとして面白くするためです。
読者がよく分からないことが、本当にただよく分からなかっただけだと、後で分かった時に「ああ、そうなんだ」で終わってしまう可能性があります。
例1.人が殺された。犯人は分からない。やがて、犯人は通り魔だと分かった。
ミステリ小説で例のような展開があったら(さすがにここまで簡潔なものはないでしょうが)読者としても「ふうん」と言うしかないでしょう(その犯人の謎が物語の中心の場合です)。
個人的には、読者に「ふうん」とか「あっそう」ではなくて、「やられた」とか「ええ!?」と言ってもらえるミステリこそが「いいミステリ」であり、「面白いミステリ」だと思っています。
なので、トリックは絶対に必要です。例えば、例1を改造して以下のようにしてみます。
例2.人が背中を刺されて殺された。犯人は分からない。やがて、その人は自殺だと分かった。
これは、トリックを使って背中を刺して自殺させることで、「誰に背中を刺されたんだろう」と自殺を除外して考えるように仕組んでいるわけです。そして、トリックを解明して謎を解いて、真っ先に除外した「自殺」が真相だと分かった時に、読者が驚く。
こういう仕組みです。もちろん、かなり単純化してますよ。
つまり、トリックによって謎が産まれるするわけですが、ここで注意!
トリックにつき謎が一つとは決まっていません。というか、一つだともったいないです。
例3.男子禁制の館で人が殺された。犯人は、男装していた女性だった。
この場合、「男かと思いきや女だった」というのがトリックで、それによって男子禁制の館に侵入した謎が解けるとします。
しかし、それ以外にも同じトリックから謎を作ることは可能です。
要するに「男かと思いきや女だった」ことで、他にも色々と不自然だったり不可解なことが起こっているようにすればいいわけです。
証言が食い違っていたりとか、見たことのない女の幽霊の噂が広まっていたりとか、男のはずなのに妙な仕草をしたりとか。
そういう多数の謎が、「男かと思いきや女だった」というトリックが解明された時に一気に解かれるわけです。一つのトリックからいくつも謎を作るわけですね。
更に、トリックを複数用意しておけば、謎はネズミ算式に増えます。
あるいは、複数のトリックが絡む謎を作ることもできるでしょう。
例4.例3にプラスして、被害者を殺した凶器が見つからない。実は、凶器はつららだった。そして、主人公は捜査中に手をしもやけにした謎の少女と出会っていた。
この場合、手をしもやけにした謎の少女が、男装を解いた犯人なわけです。より不可解さを増す舞台設定を追加すれば、環境的に主人公が知らない人間がいるはずのない場所で、夏なのに手をしもやけにした謎の少女がいた、という謎とかどうでしょう? 「男から女」プラス「つらら」がなければできない謎です。
このように、
・ひとつのトリックから複数の謎
・複数のトリックで成立するひとつの謎
などを組み合わせて使うことで話が複雑化し、しかし謎を解く時にはいくつかのトリックを解明するだけですぱすぱと解けていくという非常に気持ちのいいミステリが作れます。技量さえあれば。




