実は楽な不可能犯罪
ミステリ、推理小説は犯罪モノとは限らないんで、正確には「不可能状況」とでも言えばいいんでしょうか。それを使った謎の方が実は書くのが楽だという話です。
不可能な状況を可能にするようなトリックを思いつくなんて難しいだろう、という印象があるかもしれません。いや、事実難しいです。
しかし、それをクリアすると、結構利点があるのです。
簡単に言うと、余計なことを考えなくていい、そのことだけ考えればいい、ということです。
逆に、不可能な状況が前提でなければ、その話がどこまで説得力があればOKか考えなければいけません。
より簡単に言うと、推理する際に、ほとんどの可能性が消去された上で、消去法的な筋道を通る方が作者としては実は楽ってことです。
例1.嵐の山荘で殺人事件。だが、殺されたと思われる時間には全員アリバイがあった。
この場合、全員が殺人が不可能な状況でスタートします。
で、トリックで誰かのアリバイが崩せた場合、他の方法ではアリバイ偽装が不可能であればその時点でほとんど犯人確定です。少なくとも説得力を持っています。書き方によっては補強の証拠がいるかな、くらいですね。探偵役のやり方によってはこれだけでも全然いけます。
だって、他の人間(嵐で外部の人間も含めて)には不可能なところに、ただ一人だけ可能なわけですから。
消去法的な推理の道筋をしていく上で、最初から可能性が全部潰されたところに、一つだけ可能性を回復させるという手順になっているんですね。
逆に、一見簡単そうな次のようなものはどうでしょうか?
例2.意味不明なダイイングメッセージ。実は解読したら犯人が分かった。
これは、一見暗号パズルを作ればいいだけなんで、楽なように思えます。この場合は確定的な道筋の推理を行う流れなので、当然補強材料は必要ですが、そこさえクリアすればいけそうな気がします。
ところが、実はこっちだと、色々と考えることの量も範囲も多くなり、見落としの危険も増えるのです。
推理小説が本格的であればあるほど、読者と作者の知恵比べのようなレベルものにまでなればそれは如実に現れます。
今、ざっと考えただけでも、
・そのメッセージ自体が偽装された証拠ではないのか(後期クイーン問題)
・メッセージに別の解釈はできないのか
・補強材料は、それ単体で読者にばれてしまわないか
・被害者はどうして分かりにくい暗号メッセージにしたのか説得力のあるストーリがあるか
・犯人がそのメッセージを消さなかった状況に説得力はあるか
・その解釈がこじつけではないと説明できるか
これくらい挙げられます。
そして、おそらくはこういう点を潰しても、シビアな読者なら、まだ説得力が足りない、穴があると感じて納得してくれないでしょう。
ということで、実は推理小説を書く、つまり読者にフェアかつ論理的に推理できると納得してもらうためには、不可能状況の謎の方がやりやすいという面があるのです。
逆にそうでない謎で推理小説をしようとすると、読者を納得させるために結構な筆力と慎重さが必要になります。推理クイズやクイズ的短編なら話は別ですが。
読者に「いや、こういうのもあり得るじゃん」と不満を持たせないようにするというのは、結構素人初心者には難しいです。
ここから逆に考えると、トリックと謎を思いついたら、それを使ってそのトリックを使わない限り不可能な状況、というのを作り出していくつかの謎と組み合わせていけば、後々のチェックで楽になります。
むろん、そうやってもいくつか抜けができてしまうのが素人初心者の悲しさではあるのですが。




