記憶ー中学一年生ー
父親の死から、はや一年が過ぎた。
家族は悲しみに暮れ、以前のような明るさは無い。
特に母は、最愛の人を亡くし精神が衰弱しているように見える。
やっと見つけた心の寄り処。
自分を愛してくれる人…
母はまた、一人になってしまったのだ。
私には、まだ理解出来ないような難しいことだったが、母がどれだけ悲しんでいるかは容易に理解できた。
毎晩聞こえるすすり泣きのような声はきっと母のものだろう。
そして、私にも“異変”が訪れた。
いや、正式に言えば異変が起きたのは私では無いのだが。
…いつものように、冷に悩みを打ち明けようとした際に、声のようなものが聞こえた。
どこか懐かしい声。
いつしか私はその声に耳を傾けていた。
“深い悲しみを背負う者よ、汝が最も大切な物とは何だ?”
今思えば、不思議な体験だと思う。
でもその時の私は、全く気にしていなかった。
むしろ、大切な物を差し出すべきだと考えていた。
手に持ったのは勿論、冷。
差し出す事に何の躊躇もしないまま、声の主を疑いもしないまま、冷を差し出す。
実体の無いものに差し出している筈なのに、すぅっ…と冷は消えていっていた。
急に意識が戻り、冷を差し出してしまった私を問い詰める。
何で躊躇もなく差し出したの!?あんなに大切な物なのに…!
どんなに考えても、ありえない現実に答えは無かった。
私は諦める、という選択肢をとらざるを得なかったのだ。




