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第三幕

 菖蒲らを襲っている狗は、“下級戦闘死神”である。人間的な思考能力を持たず、本能のみに生きることしか出来ない、野性的な、攻撃力に特化した死神。度々、菖蒲ら大多数が属している中級~上級死神に使役される。今は狗の形を取っているが、使役する死神によってその形は多種多様である。

(やっぱ、誰かが使役してるんだよな、こいつら)

 思考の片隅で思考しつつ、逆さにした鎌の柄の根元を持って、右から左へ横殴りに振り回し、同時に飛び掛ってきた狗の向かって右端の狗の胴体を殴りつけ、その衝撃で左にいる狗二匹を巻き込んで体勢を崩させた。

 先端が重い刃になっている鎌の性質上、刃の方を振り回すと、隙が大きくなってしまう。

 重くて鋭く、当たれば高い破壊力を誇るであろうが、しかし肝心の刃はとどめの一撃くらいにしか使えないのだ。故に、こうした柄での棒術が、鎌を使って戦闘行為を行う場合の主たる戦術であった。

 体勢を崩した狗の一匹に向かって、鎌を持ち直し、刃を先端にして上段に構えて突撃。振り、下ろした。

 だが。

(浅い!?)

 予定ならば頭部に当たって割り裂く予定だった鎌は、軸を外して犬の左前足を切り飛ばすのみに留まった。

 空振りに近いその攻撃によって、今度は菖蒲が体勢を崩す番である。本来ならば狗の頭部をクッションにして反動の影響を殺して次の行動へ繋いでいるのだが、比べて脆い腕ではクッションの役割を果たさない。結果、刃先が地面という概念に弾かれる結果となった。

「ぐっ……」

 しかし、その崩れたバランスすら、菖蒲は回避行動への繋ぎとする。鎌が弾かれる反動を利用し、そのまま尻餅をつきそうな勢いでバックステップを踏んだ。

 追い縋ってくる二匹の狗を確認し、菖蒲は更に概念を“決め付け”、本来の地面と比べて斜めに発生さえた地面を蹴って、斜め上方に跳躍した。

「めぐみ、“生きてる”か?」

 殺伐とした気分を少し和らげようと、両腕両脚を菖蒲の平たい胴体に巻きつけるようにしてしがみついているめぐみに、冗談めいた口調で言った。

「お、おわった?」

「おっと、顔上げるな。残念ながら、終わってな、いっ!」

 追い縋ってくる狗の一匹に向かって、槍よろしく柄を突き出した。柄が狗の眉間に直撃して怯み、そのまま、突き出した柄を右に薙いで、もう一匹の狗に軽い打撃を加えた。

 そして、柄の根元、刃の至近を握ったまま腕を大きく振り、刃を狗の胴体に突き刺す。肉を裂く不快な感触が、刃の反対側を持っている時以上にダイレクトに伝わって、一瞬寒気が走った。

 そのままの勢いで、狗の胴体を貫通して飛び出た刃の先端を、隣の狗に力ずくで押し込んだ。

 爆散。また、爆散。黒いガスを残して消えた二匹の狗。遅れて、先ほど脚を切り落とした狗が追いすがってくるが、もうここまできたら菖蒲の敵ではなかった。

 丁重に、鎌を振り下ろし、頭から真っ二つにして差し上げた。

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