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第一幕

 振り下ろされる白銀の大鎌。体長二メートルほどもある大きな黒い狗の頭部に、先端が突き刺さる。堅い頭蓋骨ごと真っ二つに切り裂かれた跡から、血や脳漿の代わりに黒いガスが放出された。

 一目見て、狗が即死したことが理解できるだろう。だが菖蒲は死体に目もくれず、その場でバックステップを踏んだ。悠長に確認している暇などない。

 先ほど彼女が立っていた場所に、新たな狗が突進してきていた。なびく長い黒髪の先端に噛みつかれ、数本髪が引き抜かれる。

「いてぇっ! んなろーが!」

 言いながら、菖蒲は大鎌の先端の刃を後ろに構え直す勢いを利用して、柄の先の方を下から上へ振り上げた。丁度、狗の顎にアッパーカットするような打撃が入り、怯んでへたり込んだ狗に、今度は柄が当たって反発する力を利用して、反対側にあった重い刃が上から下へ振り下ろされる。一匹目と同様に、それは正確に狗の頭部を抉り裂いた。やはり黒いガスが放出される。

 狗が爆散する。頭から出た黒いガスを周囲に撒き散らしながら、跡形も無く一瞬で消え去る。

「だ、大丈夫? お姉さん」

 と。菖蒲の胸のあたりから、幼い少女の声がした。

 菖蒲は先ほどまで、あれほど鮮やかな鎌捌きを、右手一本で行っていたのだ。そして、真っ白な包帯に一本一本の指先まで綺麗に包まれた左手は、その声の主である少女を、この虐殺劇を見せないよう、哀れなまでにまな板と言える菖蒲の胸に顔を押し付けさせるように抱きしめていた。

 そして再び。音も無く、三匹の黒い狗が、中空から降り立つ。仲間を二匹を殺されて警戒しているのか、菖蒲に向かって、薄汚れた光を放つ乱杭歯をむき出しにして、あたかも地響きかというような重低音の唸り声を上げている。

「ああ。ったくよー……」

 菖蒲は、ウンザリしたような声を上げ、ぼやいた。

 話は、三十分ほど前に遡る。

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