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大山鷹一郎の不思議捜査シリーズ第4作 ~その2

第4作カグツチの続きです

25 


「つまり、そういうことなの。広沢紫音って人にとって、山田都志春って人はお客さんだったようね。色々アドバイスはしてたみたい。スティーブ・オーウェンが・・・あたしのお爺ちゃんの従兄弟を殺した人だったってのは意外だったな。しかも・・・。」

「ああ、山田都志春の祖父だってことだ。」

帰国したかおると大山と山内は、川北署の会議室で話していた。当然ながら、広沢が裏衆であることなどは漏れることなく話していた。

「つまり、白水さんはその夢を見てハワイに行ったってことなのかい?」

「そうです。母からあたしの曽祖父がハワイに行ったって聞いて、とりあえず行ってみたんです。」

山内と大山は顔を見合わせた。職業柄、様々な因果関係を見ているのだが、こういうことは初めてだった。

「普通なら疑うところなんだが、それはないな。それは内密で。しかしなあ、ヘンリー隆一に洪志明がなりすましていた可能性が高い。そのいきさつは、奴の口から聴かせてもらわんとな。」

「そうですよ、署長。いくら何でも視力低下が著しい姉の恭子は騙せても、甥である都志春を騙すことは不可能なはずです。おまけにあの不可解なニュージーランドからの観光客・・・メタンハイドレードを違法に採掘しようとしてたと思われる集団に、間違いなく洪志明は関わっています。脅されたか、それとも唆されたのか。いずれにしても洪志明を引っ張ってきて初めてわかることです。しかしこれだけじゃあ無理だ。ケンがどこまで探ってくれるか次第です。」

どのようにして、いつ、洪志明が熊代に入り込んだのか、そしてヘンリー隆一はどうなったのか。羽間はその点に関して捜査しているところだった。

「で、台湾に関してはどうなんだ?洪志明の出身地にはもう身内はいない。元々親とは死別していたからな、洪は。」

「あ、そうでした。ええと、台湾当局に問い合わせたところ、洪志明に関する資料は全く発見されませんでした。奴は日本に留学していた時から行方不明です。ただ、ニュージーランド警察に問い合わせたところ、例のメタンハイドレード犯から、どうやら主犯はマレーシア人らしいということは確認できました。おそらくですけど、洪志明が整形した何人目か・・・おそらくこのときの名前を使っていたんじゃないでしょうか。その名前が、ここにある劉梓豪だと思われます。」

「劉梓豪か・・・洪の野郎、面見たらぶん殴ってやる。」

山内は、思い出のある洪志明の顔と劉梓豪の顔を見比べてボソッと呟いた。元々丸顔だった洪の顔が、このときから面長く変わっていた。整形で顔の骨を削ったのだろう。しかし目は以前のままだ。

だから顔認証できたのだろう。己の野望と逆恨みから、犯罪に手を染めてしまったのだろうか。

一方でかおるは、なぜ自分の夢に文吉が出てきたのかと考えていた。何かなければ、スティーブ・オーウェンに殺害された怨みというだけではどうにも納得できない。

絶対に何かを訴えているはずだった。かおるは大山に訊ねた。

「ねえ、スティーブさんについては何かないの?」

「ああ・・・ちょっと待って・・・あった、これだ。割と最近のだけど、アメリカから送ってもらった。」

かおるは大山から渡された資料を見た。ヘンリー隆一に似ていなくもない、典型的なWASPの顔だった。かおるは資料を読み、やがて一点で止まった。

「ねえ・・・これ・・・。」

「どうした?」

「この人、5年前に韓国に行ってる。ええと・・・退役軍人会?米韓の?」

「それがどうし・・・ああああああ!」

大山はかおるの意図がわかり、大声をあげた。

「そうか!ここでスティーブ・オーウェンと洪の間に接点があって、ヘンリー隆一に顔を変えたのかも!この時期に熊代に奴が入ったのか・・・。」

韓国は世界一の整形大国である。面に出ている医者もいれば、犯罪専門のもぐり医者も多い。さらに大山はもうひとつ気がついた。

「ここにあるのは・・・え?『ファハヌニム』・・・企業名・・・・・・え?火の神だって?そこの顧問?火の神・・・ファハヌニム・・・カグツチ・・・繋がった!」

 大山は飛び上がるように立ち上がった。

「よし、早速韓国警察と連絡してみます。署長、また本庁に行ってきます。」

「ちょっと待って!カグツチと火の神?それって・・・。」

「カグツチが古事記に出てくる火の神なんだよ。」

 かおるは冷静を装ったが、かおるの中ではハワイの火の神ペレが激しく活動していた。大山はかおると山内を置いて、本庁に中九州市に出かけていった。かおると山内は、相変わらずの大山に苦笑いを浮かべるしかなかった。

「なあ、白水さん。」

「はい?」

「いつ結婚するんだい?」

かおるは飲みかけたコーヒーを吹きそうになった。

「ちょ・・・署長さん!何いきなり言い出すんです?」

「いや、すまん。なにね、君らが付き合ってることは知ってるが・・・何というかなあ・・・もうとっくに結婚しているような気がしてならんのだよ。時々あれって思う。俺は結婚式に行ったっけ・・・などと考えてしまってね。」

かおるは吹きかけたコーヒーがついた口元をハンカチで拭きながら、この人さすがだなと思った。この老警察官は華々しいキャリアこそないが、鋭い勘を持っている。さすが三郎転生を扱える人だけあると思った。署長は頼朝縁の転生なのだろうが、まだそこまではわからなかった。

人生は転生の繰り返しなのだ。時代ごとに立場や背景はもちろん異なるし、恋人が親子に転生したりする。その時代に何らかの縁あれば、それもまた転生後に何らかの関りができてくる。そのようなことを考えていると、会議室のスピーカーが鳴った。

秘書官からだった。

「署長!署長!いらっしゃいますか?」

「なんだ?」

「熊代商事で爆発があった模様です!」

「なんだと!」

山内は素早く帽子を被ると、かおるに言った。

「白水さん、そういう訳だ。俺はこれから現場に向かう。君は帰っていてくれ。」

「え、でも・・・。」

「君は一般人だろ!」


山内は車の手配だと怒鳴りながら部屋を出ていった。かおるは1人で会議室に残り、止観をした。マナの力、裏衆の力が増していたかおるは、全く意図せずに止観を始めていた。以前と異なるのは、夢を見ているようなぼんやりとしたイメージしかできなかったのが、今ではまるで中継カメラを覗いているようにくっきりと理解できる。

かおるは今では、それこそドローンカメラのように遠隔で観ることができるようになっていた。かおるの、精神の分身が飛んで行ったのはもちろん熊代商事だった。爆発のために粉塵が舞っていた。その中をくぐってゆくと、例の川北営業所署長室の前に出た。

かおるの精神は、扉を潜り抜けて中に入っていった。粉塵が舞い、火炎がすぐそこに迫っているにも関わらず、所長室には1人の細身で長身の男がテーブルの後ろに座っていた。男は窓の外に見える爆発と逃げ惑う社員たちをじっと眺めていた。

かおるの分身はそっとテーブルの前に『立った』。あくまでイメージだけのはずだったのだが、まるで見えているかのように、ヘンリー隆一は椅子をくるりと回してかおるを『見た』。そして口角を吊り上げ、不敵に笑って口を開いた。

『お前か。ペレの分身は。』

地の底から響き渡るような声が響いた。かおるはただ黙って見ていた。

『火の神はひとつ。それは我だけでよい。お前たちは消えてしまえ!』


26 


「署長!わかりました!ファハヌニムというのはスティーブ・オーウェンたちが立ち上げた米韓退役軍人による秘密結社です。表向きはボランティアを主に活動していますが、米韓の軍部と取引している会社で、相当なテロ支援も同時に行っています。アメリカからも韓国からも監視されていた結社で、物資やエネルギーを提供することで高額の収入を得ています。それに、奴らが主体となってメタンハイドレードを採掘する準備を行っていました。しかしすでに取り締まりにあって解体されています!その前にはアメリカからも撤退しています!」

大山の電話を取った山内はすでに熊代商事にいた。あたりは消防車と自衛隊救助隊がかけつけていて、消火や社員たちの避難を行っていた。しかし火の勢いは衰えることを知らず、あたりは粉塵と火炎でマスクなしではいられない状態だった。

山内はパトカー内の電話に切り替えた。

『そうか!そこにはやはり洪志明・・・劉梓豪の名はあったか?』

「ありましたよ!あったどころか幹部です。そしてさっきケンから連絡ありまして、6年前にある台湾人が整形して、そのもぐり整形病院が火事になって、細身で長身の男が焼死体で発見されたそうです。間違いなく、これがヘンリー隆一本人だと思われます!5年前にスティーブ・オーウェンが渡韓してタイミングに合わせて整形したとしたら辻褄合います!さらに、ヘンリー隆一はファハヌニム創設期からのメンバーでした。」

山内は頷いて外を見た。外は変わらず、火炎と粉塵だらけだった。

『よし、俺はこれから洪志明と会いに行く。お前はどうだ?』

「もうすぐ着きます!」

『よし!すぐ来い!』

山内は拳銃などを装備し、ガスマスクを装着すると、車を出て所長室のある辺りに歩いていった。何人かの警官が静止しようとしたが、相手が川北署長だとわかるとすぐに下がって護衛にあたった。

粉塵と時おり発生する火災の中を、山内は歩いて行った。久しぶりの感覚が山内を包み、高揚感を感じながら少しずつ歩を進めていった。所長が現場に出るなんてあり得ないことだったのだが、今回だけはどうしても自分でケリをつけたかった。ウマが合い、よく酒を飲んだ洪のことが思い出された。

いい奴だった。その思いしかない。その洪と相対しなければならない。

(なんでだ、なんでなんだよ、洪!)

「危ない!」

警官の1人が叫び、山内に体当たりした。熊代商事の柱が燃えて倒れてきたのだ。警官と山内は倒れたが無事だった。

「すまん。」

礼を言い、立ち上がった山内の目に、所長室と書いた室名札が入ってきた。山内は警官に、安全なところまで下がって消火しろと命令し、所長室のドアノブに手をかけた。

ゆっくりと開いた。

「な・・・なんだ!」

所長室の中には、映画でしか見たことがない映像があった。長身の男が両手を広げて、文字通り『浮いていた』のだ。


何度も見直したが、やはり何も支えがなく浮いていたのだ。その顔は無表情であるが、まるで仮面のように固まっているようでもあった。ヘンリーの周囲には炎が包むように囲んでいた。山内はゆっくりと部屋に入っていった。

その瞬間だった。

「うわあ!」

山内は何かの力に弾き飛ばされ、後方に倒れた。その時、警官が飛び込んできた。

「署長!」

大山の声だった。ガスマスク越しにもはっきりとわかった。

「遅えぞ!」

「すみません!」

大山は山内を起こすと、並んで所長室を見た。先ほど浮いていた男はまだそのままだったが、その目は山内を見つめていた。

「やはり・・・洪か!俺だ、山内だ!覚えてるか!」

山内は煙にむせながら叫んだ。男は少しの間動かなかったが、ゆっくりと口を開いた。

「山内・・・。」

「洪!どうしたんだ!」

間違いなく、目の前で浮かんでいるのは、山内と若い頃遊んだ洪志明だった。山内はまた叫んだ。

「洪!もう終わりだ!全部わかってるぞ!山田都志春を殺したんだな!」

洪は無表情で山内を見た。そして口を開いた。

「山内・・・久しぶりだな・・・だがお前を傷つけたくはない・・・下がれ・・・。」

「洪、待て!」

部屋に入ろうとした山内は再び弾き飛ばされ、動かなくなった。山内に駆け寄り、息があることを確認した大山は、キッと洪を睨んだ。

「てめえ!逮捕する!」

相手が浮いていることなどまるで忘れてしまった大山は、所長室に歩を進めた。しかし今度は、山内とは違い、何の抵抗もなかった。一瞬何で入れたのか考えた大山ではったが、すぐに気を正面に向けた。ヘンリー隆一になりすました洪は、まだ浮いたまま大山をじっと見た。

「てめえ、なに黙って・・・。」

「お前はなぜ・・・入れたのだ・・・。」

「あ?ふざけたこと言ってんじゃねえ!この爆発もメタンハイドレードの処理失敗なんだろうが!逮捕する!」

だが大山は手を動かそうとしたが、全く動かせなかった。洪は無表情であり、何か他のことを考えているようにも見えた。洪が浮遊したままであるという異常すぎる状況にあるということも、すっかり感じなくなっていた。

大山が激しく抵抗していると、洪の顔が少しだけ変化した。

洪は何かに耐えているようにも見えたが、大山にとって肝心なことは、動かなかった身体が動かせるようになったことだった。大山は拳銃に手をかけ、素早く洪に照準を合わせた。引き金を引こうとしたその時、洪が大山を見た。

そしてみるみるうちに変形していった。憤怒の表情に近くなり、顔は真っ赤に染まり、周囲がゆらゆらと波打つように動きて見えた。そして強烈な熱気が大山を襲ってきた。

「ぐわ!」

大山は近くに会った机を倒して防いだが、耐えがたい熱気は回り込んで大山を襲った。拳銃は熱くなり、持っていることさえ不可能になっていたので、大山は拳銃を投げ捨てた。熱気で苦しむ大山の耳に、洪の声が低く響いてきた。

「お前は死ね。山内は守る。」

熱気で息もできなくなった大山はそのまま倒れていった。これで終わりなのか・・・と思った。

「ぐう!」


洪の声が響き、熱気が急に弱まってきた。机に手をついて起き上がった大山は、洪が苦しみ、胸を押さえて苦しんでいる様が見えた。何があったと言うのか。

大山は拳銃を取ろうと触れたが、やはり暑くて触れなかった。どうするかと迷う大山の耳に、何かわからなかったが、確かに声のような音のような『声』を感じてきたように思った

その瞬間、大山の中で何かが変わった。熱気がまるで感じなくなり、身体の奥底から、意味がわからないエネルギーが溢れ出してきた。大山の意思以上の何かが身体を支配していった。

大山は立ち上がり、洪を見つめた。洪は苦しむようでもあり、どこか嬉しそうでもあった。すでに浮遊はしておらず、着地して両手を広げていた。

大山は洪に近づいて行った。洪との距離が4メートルほどにまでなったとき、大山は左腕を突き出し、右手を耳のところまで持って行って、何かを指で挟むようなポーズをとった。大山の奥底から湧き上がるエネルギーが激しく回転し、凝縮して左手の先で止まったように感じた。

そして大山の口から、大山のものではない声が発せられた。

「南無八幡台菩薩!」

その間、大山は自分が何をやっているのか理解はしていた。しかし全く自由ではなかった。大山を動かす、強烈な意思が放つ何かは、光り輝く矢のように大山の腕から洪めがけて飛んで行った。


27 


かおるの前に座っている男の顔は、みるみるうちに変化していった。かけていたメガネはするりと落ちてゆき、目は邪悪な光を秘めてギラギラと光った。広沢との魂談の中で見た、あの黒い光が男の周囲を囲んでいた。そしてそれまで、かおるの中で曖昧だった部分がくっきりと明確になっていった。

広沢が敵と呼んだ存在、マナの力を得たかおるの敵、そして破壊の火の神・・・答えはひとつだった。

「カグツチ・・・。」

古事記において、イザナミから生まれ、その炎によって陰部を火傷させ、怒ったイザナギに殺されたと記された悪魔。

「ペレか・・・わが妻にして裏切り者よ・・・火の神は我のみ・・・お前は何故ゆえに、ペレの力を得たのか・・・?」

ヘンリー隆一、いや洪志明の姿をしたカグツチは身体から発せられる黒い炎・・・瘴気に囲まれていた。瘴気は反物質になりかけの素粒子である。重力もなく、しかし強烈な力を持つ。瘴気が触れた正物質は、すべて消滅していた。周囲の大気でさえ消滅してしまうので、カグツチの周囲は常に対消滅による発光があった。

悪魔と呼ばれるものは反物質が母体であるが、そのままではこの正物質の世界には存在できない。瘴気はその存在を可能にする素粒子である。反物質としての力をも持つが、正物質がベースである。カグツチは瘴気を自在に操ることができる。

これらのことを、カグツチを認識した瞬間にかおるも把握した。魂談の中で与えられた情報のひとつだ。かおるは止観によって精神のみを熊代商事に飛ばしていたのだが、マナの力はかおるの想像を遥かに超えるものだった。

精神が認識した瞬間、かおるの肉体も川北署からここまで飛んできていた。洪の目の前に、かおるが具現化した。マナの力は時空を変化させることができたのだ。かおるは所長室に立ち、カグツチと向かい合った。かおるの肉体は徐々に変化し、衣を纏った軍神の姿ってないった。

「我は毘沙門天の性を持つ裏衆。多聞天なるゆえに、我は無限の能力を味わうと同時に使うこともできる。ペレの力は、マナと共に我の中にあり。カグツチよ、お前の野心、妻たるペレが抑えに参った!」

その声は女性のものではなかった。しかし男性のものでもない。外では火炎が発生し、粉塵が飛び散っていたが、この部屋だけは何の変化もなかった。カグツチは毘沙門天の姿を見るや、軽く笑った。

「毘沙門天か。マナの力を得て、明神となったか。いいだろう。」

カグツチはニヤリと笑うと、両手を広げた。瘴気が下方に集中し、重力を遮ってカグツチはふわりと浮いた。カグツチが動くたびに、周囲の空気が吸い寄せられ、対消滅を繰り返したために発光度がますます増えて切った。この光を見た古代人は、これを神や悪魔の力だと判断した。

「ペレよ。お前が我を裏切り、マナの力を得て再び島を生み出したこと。我は忘れぬ。お前はこの世を滅するために我の妻になったのではないのか。」

カグツチの言葉にはゾッとする憎しみが満ちていた。毘沙門天はまた変化し、白装束の女性の姿になった。


「そうだ。私はお前と同じ力を持った存在だ。何も知らぬうちに、お前の妻となった。だが、マナの力はこの世界の根源をなすもの。それに触れたとき、私はお前から離れる道を選んだ。それも定めだった。」

「抜かすな!」

カグツチから強烈な熱気がペレを襲った。しかしペレは微動だにしなかった。

「我がこの世に生まれし瞬間より、存在を許されなかった。この世を破壊する力をもっていたからな。そうさせなかったのがマナだ。我はマナを恨む。お前も許さん!」

ペレの顔が変化し、かおるの顔になった。

「そのためにメタンハイドレードを使い、この世界を焼こうと思ったのか?」

カグツチの顔も変化し、元の洪の顔になった。次の会話は魂談と同じく一瞬で終わった。我々の次元に置き換えるとこのような会話を行っていた。

「俺の恋人は、一族が選んだ婚約者と結婚することを拒んだ。どれだけ強要されようともな。政治的婚約だった。あのCIA企業にとって、日本の政治家と婚姻することは個人の夢よりもずっと大切だったのさ。そして恋人の俺と最後に交わした手紙の中で、死んで結ばれようと書いてあった。そしてみずから命を絶った・・・熊代の開発した薬物によってな。決して検出されない薬物だ。熊代は内部抗争もひどくてな、あいつはその犠牲になったんだ。俺は熊代を憎んだ。いつか壊してやろうと思い続けた。そして韓国で整形し、身を隠して国際犯罪組織に入った。CIAの敵になることは、当然だった。そしてニュージーランドのランギトト島に行ったとき・・・カグツチの魂と俺は激しく共鳴した。愛する者を奪われた俺と、愛した者に裏切られたカグツチが反応してしまった。そしてそこに来ていたのが山田都志春だった。ツアーのガイドだったが、俺はこいつの叔父が熊代だと知り、取り込みに入った。俺はヘンリー隆一を都志春に誘い出させ、整形して殺した。当然、都志春も邪魔になった・・・それだけだ。」

「なぜ都志春は叔父殺人に加担を?」

「それは、奴がスティーブ・オーウェンの血を引いていなかったからさ。奴は母親が不倫の末にできた子だった。奴はそれで熊代を追放されていた。俺と同じように憎んでいた。都志春は広沢の元でマナの力を得ようとしていた。だから、俺の元にやってきた。」

一瞬の情報共有の後、かおるの姿は再びペレの顔に戻り、洪の顔もカグツチに戻った。心の中にはランギトト島の火山の中に落ちてゆく洪とカグツチが共鳴し、一体化していくイメージが残った。足を滑らせて落下しなかったら、洪はカグツチと共鳴することはなかっただろう。

ペレは憐れみと怒りを両方出して、洪を見つめた。もうこれからどうなるかは自明のことだった。ペレは両手を突き出して目を閉じた。ハワイを形成し守ってきたペレの力が、カグツチに向かって迸った。

カグツチはペレの力を懐かしむように、全身でペレの力を受け止め、そして反撃しようとした。そのとき、所長室のドアが開いた。

山内だった。山内はゆっくりと部屋に入っていった。

「山内?」

カグツチの中の洪が叫んだ。その思いは強烈な力となって山内を弾き飛ばした。


28 


「やはり・・・洪か!俺だ、山内だ!覚えてるか!」

山内は煙にむせながら叫んだ。カグツチは少しの間動かなかったが、ゆっくりと口を開いた。

「山内・・・。」

「洪!どうしたんだ!」

カグツチは再び洪の顔に戻った。そしてまた一瞬で山内に伝えてきた。その思いを受け止めた山内はまた叫んだ。

「洪!もう終わりだ!全部わかってるぞ!山田都志春を殺したんだな!」

洪は無表情で山内を見た。カグツチの中にある、洪志明の思い出が蘇ってきた。時空軸的にはもう何十年ぶりだろう。

人間としての思い出が、いち留学生を親友の様に扱ってくれた若手警察官の思い出が充満していった。しかしカグツチはそうは思わない。洪はカグツチの力を押しのけ、そして口を開いた。

「山内・・・久しぶりだな・・・だがお前を傷つけたくはない・・・下がれ・・・。」

「ま、待て!」

部屋に入ろうとした山内は再び弾き飛ばされ、動かなくなった。その横には大山の姿があった。山内の存在に気がついたのはかおるも同じだった。しかし大山はかおるの姿に気がつかない。マナの力がそうさせていたのだ。

「タカちゃん!」

かおるとペレは同時に力を発動し、大山にカグツチの結界の影響を受けない力を与えた。しかし大山はそのようなことなど考えてはいなかった。

「てめえ!逮捕する!」

大山はすぐに入れたのだ。そのことを一瞬考えた大山ではったが、すぐに気を正面に向けた。ヘンリー隆一になりすました洪は、まだ浮いたまま大山をじっと見た。

「てめえ、なに黙って・・・。」

「お前はなぜ・・・入れたのだ・・・。」

「あ?ふざけたこと言ってんじゃねえ!この爆発もメタンハイドレードの処理失敗なんだろうが!逮捕する!」

大山の意思は、洪を逮捕するということのみ。本当に鈍感なんだから、とかおるは思ったが、すぐさま行動に移した。かおるとペレはカグツチに向けて強烈な念をぶつけていった。

ペレは、太古の地球においてはカグツチと同様に火山の意思であったが、カグツチが主に破壊行動をとったのに対し、ペレは創造を旨とした。両者は、いずれは袂を分かつ定めにあったのだが、元々は同じである。ペレはその思いを、かおるの毘沙門天の力に乗せてぶつけていった。

「ぬう!」

声にならない声を発したカグツチだったが、当然ながら大山には聞こえなかった。その大山はカグツチの念によって全く手を動かせないでいた。しかしかおるとペレの攻撃によって一瞬大山への念が途切れた。動けるようになった大山は拳銃を取り出して洪に照準を合わせたが、カグツチの力はパレとかおるの力を上回っていた。カグツチは本来の力を前面に出していった。

「うわあ!」

かおるとペレはカグツチの増強された力に圧倒された。これは異常だった。何かの力がカグツチに力を与えているとしか思えなかった。

このままでは、生身の大山はカグツチの力によって焼け死ぬしかない。また、このままカグツチが暴走してしまったら、この世界は全て崩壊してしまうだろう。ここで阻止せねばならない。

しかしどうすれば・・・とかおるが思った瞬間に、マナの力がかおるの中を凄まじい勢いで回りだした。かおるの前には、広沢紫音の姿も浮かんできていた。遠いハワイから、マナの力に乗ってやってきたのだろうか。

かおるのチャクラが全て物凄い勢いで活性化し始めた。そしてマナの力は、ペレと毘沙門天の力を結集してカグツチにぶつけた。

「ぐう!」

この力ではカグツチを圧倒することなど不可能であったが、抑制力程度にはなれた。さらにマナの力は、かおるのチャクラの奥底に眠る、もうひとつの力を発動させた。

その力は、時間を超えた強い愛の力だった。北条政子としての過去生を持つ、かおるの力は、そのまま源頼朝の過去生を持つ大山の魂を激しく刺激した。大山は確かに意思ある何かの声が聴こえてきたように感じた。

「三郎様・・・助けてくだされ!」

その声を聴いた瞬間、大山の中で何かが変わった。熱気がまるで感じなくなり、身体の奥底から、意味がわからないエネルギーが溢れ出してきた。大山の意思以上の、頼朝の力が身体を支配していった。

大山は立ち上がり、カグツチをキッと見つめた。カグツチは苦しむようでもあり、どこか嬉しそうでもあった。その喜ぶ顔は、自らの暴走を抑えてくれるペレへの思いでもあった。カグツチはすでに浮遊はしておらず、完全に洪の、いやヘンリー隆一の姿に戻って着地して両手を広げていた。

大山は洪に近づいて行った。

洪との距離が4メートルほどにまでなったとき、大山は左腕を突き出し、右手を耳のところまで持って行って、何かを指で挟むようなポーズをとった。やがてそこには黄金色に輝く弓と矢が現れていた。源氏の棟梁として鍛えに鍛えた弓を、大山と一体化した頼朝は構えていた。

大山の奥底から湧き上がるエネルギーが激しく回転し、凝縮して左手の先で止まったように感じた。大山は自分ではない頼朝のことはわからなかったが、ただひとつだけわかったことがあった。

(今の自分でしか、目の前の洪を葬ることはできない)

ここにかおるがいることなど知る由もなかったが、自分のこの弓でのみ邪気を払え、かおるを救えると、そう思った。そして大山の中に浮かんで来たかおるのイメージは、黒髪の美しい女性だった。

かおるとは全く違う姿なのだが、大山はそれがかおるだと思った。未来永劫、この女性を守らねばならないと思った。そして大山の口から、大山であって大山ではない声が発せられた。

「南無八幡台菩薩!」


源氏の旗印である笹竜胆の飾りがついた矢が、大山の弓に現れた。

その弓には徐々にマナの力が宿り、またそれ以外の力も加わって、眩しく光り輝く矢となっていった。大山を動かす、強烈な意思が放つ光り輝く矢は大山の腕から洪めがけて飛んで行った。

「ぐわあああああああああああ!」

洪はこの世の者とは思えない声を発し、自らの胸に突き刺さった矢を見て、そして掴んだ。しかし掴んだその手は瞬時に消滅していた。カグツチは苦しみながら微かに笑みを浮かべていた。

「これで俺は・・・洪志明として死ねるのか・・・?」

その顔は、整形した顔ではなく、確かに洪志明のものになっていた。そして洪の横には、美しい女性の姿が浮かんでいた。

「美沙!・・・そうか、ペレ・・・お前が連れてきてくれたのか・・・ありがとう・・・。」

不幸にも生前に結ばれずに、自ら死を選んだ洪志明の恋人、熊代美沙の姿だった。熊代美沙は洪志明に近づいてゆき、洪志明に優しく口づけをし、両手で包み込んだ。洪は目を閉じ、至福の表情となっていった。

そして頼朝と一体化した大山は、ペレと一体化したかおるにメッセージを送った。

「え・・・?」

洪のメッセージを理解する前に、洪の身体はがくりと崩れ落ちていった。

「おい!ここだ!」

消防隊員がドヤドヤと入ってきた。大山は我に返った。

「俺・・・何をやったんだ?」

「大丈夫ですか!」

「あ・・・ああ。俺はこれだ。」

大山は身分証明書を見せて現場の確保に入った。

「先輩!大丈夫ですか?」

「山さん!」

羽間と汐田も所長室に入ってきた。大山は説明し、山内を救助するように伝え、そしてカグツチがいた空間の反対側に目をやった。そこには何もなかった。

「俺は一体・・・どうなったんだ・・・?」

大山はつぶやいた。火災は鎮火しているようだったが、大山は少しの間そのまま宙を見ていた。


29 


大山と羽間は熊代商事の前に立っていた。大山はあちこち火傷を負っており、包帯や絆創膏だらけだった。会社の前には立ち入り禁止の札が張られ、誰もいなかった。

「結局、上場はなくなったってことか?」

「はい。かなり違法な取引を行っていたらしく、案の定メタンハイドレードと思われるものの在庫もありました。大量の冷凍保存タンクがあって、おそらくその中には入っているでしょう。山田都志春に探させた海底採掘まで行っていたようです。」

「その山田だが・・・やはり実子ではなかったのか?」

「ええ。恭子自身全く気がついていなかったようなんですが、当時はいわゆる二股をやってたようなんです。恭子は今でも信じてなくて、本人の希望で会社から去ったと思い込んでいました。しかし誰かが気づいたんでしょうね。都志春は会社を追われるように去っていったようです。」

「ふー・・・CIAの支部みたいな会社だ。それくらいすぐわかったんだろうな。」

大山らの捜査は、やはり途中で中断させられた。たぶんそうなるとは思ってはいたが、ホッとした気持ちも残った。後は国家の仕事になるだろう。

「さらに、都志春を殺害した硫化水素は、間違いなくここで合成されたものです・・・が、ここまでです、我々ができるのは。残念ですよね、こんなの。」

羽間は悔しそうに足元の石を蹴った。大山は笑いながら羽間の肩に手を置いた。

「まあ、そう言うな。仕方ないこともあるさ。考えてもみろ、これ以上の重圧あったら、今までみたいにクシーナで大飯食らったり、のんびりサウナに入れないぞ。」

「あ、そりゃ困ります!」

「そうだろ?」

これまでの、のんびりした地方都市ならではの会話が戻ってきた。これでいいんだよな、と大山は思った。

なぜかわからないが、あのときのことを忘れたくて仕方ない自分がいたのだ。大山と羽間は川北中央病院に向かった。山内が入院していたからだ。

「おう!よく来たな!」

病室には山内と細君がいたので、2人は敬礼して部屋に入っていった。

「この度は主人が迷惑かけてしまって・・・。」

「い、いや、とんでもないです。我々も同じ警官です、はい!」

頭を下げながらも、ジジイなんだから静かにしてればいいのに、と大山は思った。

「ジジイは現場に行ってはいかんのか?」

見事に見透かし山内の言葉に大山は言葉を失った。

「はい!・・・い、いいえ!・・・」

「まあいい。世話になったな。」

山内は敬礼し、大山と羽間も敬礼した。

「洪は・・・どうなった?あのまま死んだのか?」

「はい。洪志明は焼死でした。また、メタンハイドレード違法操業及び違法薬物精製の罪で、アメリカと政府の共同で捜査中であります。」

「そうか・・・もう我々の手を離れちまったな。」

山内は深くため息をついた。

「俺はもうちょっと・・・洪とは酒でも飲みながら語り明かしたかったな。それだけが無念だよ。洪はな、いつも1人で居酒屋にいた。俺は洪に絡んできた若いのをボコボコにしてやったのさ。もちろん職務外だったがな。それから洪とは友人になった。・・・色々あったんだろうな、奴も。」

山内は手元のティッシュから一枚取り出すと、目を拭いた。

「お前たち、まだ職務中だろ。」

「はい。」

「馬鹿者!とっとと仕事せんか!」

山内は怒鳴った。大山たちは、それがもういいから、という照れ隠しだと知っていたので、敬礼をして立ち去った。その後羽間は残務処理のために川北署に戻り、大山はかおるのマンションに向かった。

「あら、タカちゃん。まだ火傷治らないんでしょ?動いていいの?」

「ああ、これくらい、どうってこたないさ。」

言いつつも、大山は痛そうにソファに座った。かおるは香りのよいコナコーヒーを大山に出した。

「これ、美味いな。」

「ハワイのコーヒーよ。高いのよ、日本で買ったら。」

かおるもコーヒーをテーブルに置き、大山の横に座った。

「あたしね、ハワイに行って本当に良かった。タカちゃんもいつか行こ。」

「そうさな。そのうちに。」

かおるは興味なさそうな大山の顔をじっと見た。

「うん?どうした?」

「ううん、なんでもない。」

かおるは大山の中で活動を始めたであろう、頼朝を見ようとしていた。しかし今はそれが見えなかった。まだ自在に頼朝を出せるような状況ではなかった。しかしあの時、確かにかおるは頼朝の力と愛情を感じていた。それが何よりも嬉しかった。

いつかまた、あの愛しい姿を見ることができるのだろうか。

「あ、お湯湧いたみたい。ちょっと待ってて。」

キッチンに歩いて行こうとしたかおるは、足を止めた。床に写る大山の影に、烏帽子のようなものが見えたのだ。かおるは振り向いて大山を見た。

しかしそこには大山が猫と遊んでいる姿しかなかった。かおるは再びキッチンに向かいながら、もうすぐかも、と思った。もうすぐ、あの姿を見れると。

そしてかおるは、カグツチ、いや洪志明が滅する直前に送ってきたメッセージを思い出していた。それはこういうものだった。

「蛇・・・骨・・・滅せ・・・。」






火の神としてはアフラマズダもありますが、関連性は低そうなので今回は描いていません。やはり日本とハワイ、そして台湾って似ているんですよ。その辺がバックボーンになっています。

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