表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/45

第三話(2)

 グループで改めての自己紹介のあと、彼女が切り出した話題はそれだった。

「うん……ふつう? あまり話さないし」

「葉月くん、いいよね。かっこいい」

「葉月莉緒、今日も麗しすぎて無理〜!」

「もう、ほんとに男の子なの? あれはんそくー!」

「かっこいいっていうかさあ、あれ、彼氏にしたいっていうより、彼女にしたい感じだよね!」

「わかるー!」

 ああ、わからない。お弁当のふたを開いてひとくち、ふたくちと口にするころには、彼女らの間で勝手に盛り上がっていた。

 いや、まあ、わからなくもないか。

 あれは確かに美人だ。男女ともに受けるレベルの。それに時折見せる表情やしぐさは可愛らしい。

「ごめんね、桐原さん。私らで勝手に盛り上がって」

「みんな、葉月くんのこと興味あるんだね」

 それは私の率直な意見。私の感覚がおかしいのだろうか。

「まあ、せっかくの高校生活だし、刺激ってやつ?」

「でも、桐原さんにとっては、あんなに席の周りで騒がれたら迷惑よねえ」

「ほんとごめんね、桐原さん」

 彼女らは謝りつつも、話題は私をそっちのけな気がしないでもない。

「あー、でもそういえば、葉月くんと同中(おなちゅう)の子に聞いたんだけど……」

 その切り出し方に、私は少し嫌なものを思い出した。誰かを排除する時の、前置きのようなフレーズ。

 リーダー格の子が声を潜めて顔を寄せると、みんなが応じるのがお決まりのように顔を寄せていた。仲良しなのは良いことだ、と思う、が。

「葉月莉緒くん、あの容姿でしょ? 中学の時も、やっぱりかっこいいって噂されてて、でもだんだん女の子みたいな雰囲気も出てきてさ……それでね、ここだけの話だよ? 男の子たちにね、乱暴されたらしいよ」

 私はその言い回しに、不穏さを感じ取っていた。

「え、乱暴って?」 「乱暴って……あ……」

 “乱暴”と、一言で言ってもいろいろある。が、女の子が男の子にされる乱暴には、ある種の意味を持つ場合がある。葉月莉緒を、あの容姿から女性と見立てるなら、それは当てはまるはずで……。

「えー!」

 言葉の意味を察して思わず声を上げた子たちが、あまりの中庭の反響の大きさに口元を押さえる。

「ほんとに?」

「聞いただけだから、わかんないけどね」

 小声であいまいに濁しながら、得意げに言ったリーダー格の子は、前にその時の画像ももらったことある、とか(うそぶ)いていた。

 この瞬間、私はこのグループの子たちを好きになれそうにはない、と思った。

 そのあとの会話は、あたりさわりもなく応じて、私は距離を置いた。

 葉月莉緒、気の毒だな。そんな風に思った。

 目立つがゆえに、人気者として持ち上げるのか、傷を見つけて貶めるのか、評価があいまいな時期。その危うさを感じたから。

 人をそんな風に見る人には、なりたくないな。




 翌日。学校へと登っていく、通称「校門坂」を登りきると、そこで私は葉月莉緒を見かけた。彼の登校は、いつも私より少し早めで時間もだいたい同じだ。いつもは、教室に入って私の前の席に座る彼の姿を見るのが、一日の始まりなんだけど。

 彼は、昇降口に入る手前で、何かを見上げていた。

 ——ぷぉ~~、と、楽器の音が聞こえる。吹奏楽部の朝練だろうか。

 どれかの教室から漏れ出る音に、彼は目を向けていた。

 その姿を背に、私は教室へと上がる。一年生の教室は四階だ。荷物を置き、トイレを済ませて席に戻ると、葉月莉緒も席に座っていた。机に向かって、シャーペンを走らせている。

 入部届、と読めた。

 ふうん、部活、入るんだ。私は静かに席に着く。

 そこに賑やかな声が掛けられた。私ではなく、前の席にだ。

「おっはよー、リオくん。あれ? 部活はいるの? 何部?」

「おはよう、杉山さん。吹奏楽部に、入ろうかと思って」

「もう、カタいなあ。柚羽(ゆずは)でいいって。リオくんは楽器吹けるんだ?」

「うん、中学の時も……吹奏楽部だったから。少しだけ」

 杉山柚羽(すぎやまゆずは)、か。たしかに最初の自己紹介で聞いた覚えのある名前。

 天然パーマみたいだけど、うまくまとまった、ふわりとした髪型。雨の日には苦労しそうだ。あけすけな口調は入学式の日の自己紹介でもそうだった。葉月莉緒に対しても、とっくに名前呼び。

 そうか。吹奏楽部に入るのか。必要もない情報を記憶に留める。

「二時間目、体育だよね、男子は何するの?」

「さ、さあ? 入学して初めての体育だから」

「あ、そっか。それもそうだよね」

 そういえばそうだ。体育の時間。移動教室は慣れない。女子の着替えは、体育館の更衣室でするのだったか。説明はあっただろうか。記憶が不確かだ。あとで確かめないと。こんなとき、まだ仲のいい相談相手がいないのは不便だな。そんな風に思ったとき、杉山柚羽が一瞬目に入ったけど、この子はたぶん私と合わなさそう。

 そんなことを思っていたのだが、一時間目が終わり、私が移動しようとすると彼女が呼び止めてくれた。

「ね、どこ行くの? 女子の着替えは隣の四組だよ。体育館の更衣室を使うのは二、三年からだって」

 そうだ。言われて思い出した。体育は男女に分かれて行うかわりに、隣のクラスと合同になる。着替えは三組と四組の教室を男女がそれぞれに使うのだった。体育の授業が連続するから、一年は更衣室が使えないのだ、とも聞いた。

「そうだった。ありがとう」

 お礼を返すと、どういたしましてー、と彼女はそれ以上、絡んでくるでもない。ただ、親切だったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ