第七話(4)
市立緑生学園中学女子バレー部と、それを取り巻く状況について、女バレ部員にして葉月家の特派員でもある富田祐子がレポートしますよ、お兄さん。
私は、スマホを構えてパシャパシャと写真を撮る。
「お兄さんは、この緑生学園の卒業生ですけど、卒業して一年以上たってるし、懐かしく見えるかもしれません。私も、ジッサイ小学校とか、もはや懐かしいですし」
◆◇◆◇◆
いったい何を見せられてるのだろう。
青陵学園は私立、緑生学園もネーミングと似たようなロケーションのせいで、同系列の私立と勘違いされがちだが、公立の中学校なんだよな。と、改めて思い出す。
とみちゃんの音声を、脳みそで勝手に捕捉しながら、俺は動画の行く先を追っていた。
とにかくも、そこは懐かしきわが母校だ。
◆◇◆◇◆
「では、特派員はいよいよ緑生学園の重大トピックスの震源地である女子バレー部に潜入してみようと思います」
お兄さんは油断しすぎだ。私は許せないのだ、りこがお兄さんに出しているのは、ラブラブビームだよ、あれは絶対。それなのにあのトウヘンボクったら!
兄妹? 親友が好きだというなら、禁断の恋だって私は応援するよ!
撮影している本日は土曜日。週休二日を適用しない週だから、午前のみの半日授業。先生たちは半ドンって呼んでる。
「ドンってなんだろ?」 って、りこがまじめな顔で聞いてきたことがあった。
部活のない生徒はホクホク顔で帰っていくけど、私らは部活で、お弁当を食べたら練習開始。
部室棟の周りや体育館では、それぞれグループを作ってる子たちが昼食を摂っている。
にやり。ちょうどいいうわさ話が聞こえてきますよ? お兄さん。
「葉月センパイ、勇吾先輩に告白されたらしいよ?!」
「GWの練習帰りに、ショッピングモールでバド部の知り合いが見たって」
(あ、それは知ってるわー。りこが違うって言ってたわね。なんか、応援に来てくれって頼まれたんだっけ。でも、特定の女子に応援に来てほしいなんて、告ってるのと同じか。りこは気づいてないみたいだけど!)
そういうニブちんなのは、お兄さん譲りなのか許しがたし。
「大澤先輩って、ぜったい葉月先輩狙いですよね!」
大澤っていうのは勇吾のことですよ、お兄さん。私は録画中の自分のスマホにささやく。
「っていうかさー、もうあれって付き合ってんじゃないの?」
「うん、そう見えるよねー!」
事情を知ってる私も、ほとんどそう見える。りこの気持ちは、本当はどうなんだろう……。
私も、前に聞いたことはあるけど……
「ねえ、りこ。勇吾のこと、どう思ってんの?」
「またまた、とみちゃんまで~」
私は、自分の手を握り締めて、もう一度聞いた。
「ちゃんと、答えてよ……」
りこは、驚いた顔をして、それから静かに、真剣に言ってくれた。
「……私は、みんなが考えてる風には、勇吾のこと、思ってないよ」
そう言ってたのに……。
私は、校外をランニングして帰ってくるりこの姿を見つけて、声をかけようと手を挙げ……その手を、私はおろした。
「葉月ぃー! タオルないか?」
勇吾がりこに駆け寄っていく。まるで、飼い主を待ちわびた子犬のようだ。
「ええぇー。自分のないの~?!」
りことは違い、グラウンドで走りまくっていた勇吾は、汗でびっしょりだ。
「それでいいから貸してくれよ」
最初から、それが目当てだったクセに。
「うえぇ、私のだって汗くさいよ」
「いいって」
勇吾が無理やり、りこの首にかかったタオルを引っ張って、自分の顔を拭いた。
私は、ざらつく感情を胸の中に感じながら、スマホでその様子を撮っていた。
「お兄さん、いいんですか?」
◆◇◆◇◆
俺は、とみちゃんから送られた動画をぼんやり眺めていた。
最後は、もう完全に恋人同士みたいな絵づら。ズームのせいなのか、ピンボケしたり、ピントが合ったり、ふらつく動画の中で、りこは楽しげだった。
お兄さん、いいんですか、って。いつもいつも、俺にどうしろと。妹なんだし、普通だろ?
そこへ、俺の意識をスマホの画面の外に引き戻すかのように、声がかかった。
「葉月くん、お客様だよ」
かわいらしい声の主は、新入生のリボン付けを一緒にやった小倉美帆さんで、彼女が告げた来訪者は、一ノ瀬真白だった。
「こんにちは春詩くん、お昼ご飯を、良かったら一緒にどうかしら」
静かに、穏やかな微笑みを湛えた表情で、彼女は挨拶した。
名前呼びをする真白のセリフに俺はギョッとし、前の席でくつろいでいた竹内はものすごい勢いで振り返って、見開いた眼で俺を見ていた。
なにがあった?! とその目は言っている。
(ああ……確かにお前に何も説明していなかったよな)
竹内だけではない、周囲の目線が、ざわざわという効果音を俺に伝えてくる。
「あー、一ノ瀬会長…?」
「私のことは、名前を呼び捨てにしてと言ったはずだけど」
火消しを試みた俺の発言を、真白は爆裂魔法のように台無しにした。
周囲のざわめきは圧倒的かつ決定的になり、そして多分、それらは現状誤解ではないのだが、やはり俺と真白が付き合っているというのは、事実にしては疑いの余地が余りある関係だ。
さすがの高校二年生、ゴシップネタはあがっても、表面上は落ち着いたものだ。
俺はその隙に、真白の手を引いて教室をそそくさと後にした。
「おうい、春詩! 何がどうなってんだか、あとで教えろよう!」




