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第7章:世界の管理者

 空が、止まっていた。


 夜明けのはずなのに、東の空は暗いまま。

 焚き火の煙も、途中で凍りついたように動かない。


「……時間が」


 止まっている。


 いや――止められている。


「気づいたか」


 聞き覚えのある声が、背後からした。


 振り向かなくても分かる。


 黒い法衣。

 仮面。

 無色の瞳。


「……管理者」


 世界の音が、一斉に消えた。



「勇者の亡霊と接触したな」


 管理者は、責めるでもなく言った。


「予定より早い」


「……あれも、あんたの管理下か」


「当然だ」


 あまりにも、当たり前のように。


「この世界は、何度も繰り返されている」


 心臓が、嫌な音を立てる。


「勇者が勝てば、世界は存続。

 負ければ、世界は巻き戻される」


「……周回、ってやつか」


「そうだ」


 管理者は、初めて感情らしいものを見せた。


 ――苛立ちだ。


「だが、お前が混ざった」


 無色の瞳が、俺を射抜く。


「想定外の魂。

 想定外の選択。

 想定外の因果汚染」


「……俺が、世界を壊してるって言いたいのか」


「事実だ」


 即答だった。



「だが、完全な失敗ではない」


 管理者は、続ける。


「お前は“見ている”。

 勇者も、魔王も、住人も、

 誰もが役割として動いていることを」


 胸が、ざわつく。


「役割……?」


「この世界は、救済前提で設計されている」


 淡々とした声。


「多少の犠牲は許容される。

 勇者が最後に勝つために」


 第4章で見た死体が、脳裏をよぎる。


「……ふざけるな」


「感情論だ」


 管理者は、首を傾げた。


「お前は、なぜ苦しむ?」


「……当たり前だろ」


 声が、震える。


「目の前で人が死んで、

 それを“仕方ない”って言われて、

 平気なわけないだろ」


 管理者は、しばらく黙っていた。


「だからだ」


 そして、告げる。


「だから、お前は危険だ」



 視界に、これまでで最も重い表示が現れる。


《警告:世界管理権限の衝突》


「お前は、“終わらせる可能性”を持っている」


「……終わらせる?」


「周回を止める。

 勇者も、魔王も、物語も、すべて」


 背筋が、凍る。


「それは、救済ではない」


 管理者の声が、低くなる。


「放棄だ」



「……それでも」


 俺は、前に出た。


「この世界、間違ってる」


 勇者が勝つ前提で、

 誰かが死ぬのが当たり前で、

 失敗したら巻き戻す。


「そんなの、世界じゃない」


 管理者は、静かに見下ろしてくる。


「感情的な理想だ」


「そうかもな」


 でも。


「俺は、理想を選ぶ」


 その瞬間、視界が激しく揺れた。


《干渉精度:大幅低下》

《選択肢表示率:低下》


「……来るべき時が、近い」


 管理者は、距離を取る。


「次に会うとき、

 お前は選択すら与えられないかもしれない」


「……それでもいい」


 選択肢に縛られるより、

 自分で選ぶほうが、よほど怖い。



 時間が、動き出す。


 鳥が鳴き、煙が揺れ、朝日が昇る。


 管理者の姿は、もうなかった。


 リリィが、目を覚ます。


「……お兄ちゃん?」


「大丈夫だ」


 嘘じゃない。


 少なくとも、前よりは。


 視界に、最後の表示が浮かぶ。


《世界安定度:危険域》


 俺は、確信した。


 この旅は、

 世界を救うためじゃない。


 この世界を、終わらせるかどうかを選ぶための旅だ。

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