第11章:世界の終わりと、その先
世界の中心は、静かだった。
空も、大地も、音を失っている。
色だけが、薄く残っている。
そこに――管理者はいた。
初めて会った時と同じ、黒い法衣。
だが、今度は仮面がない。
人間の顔だ。
疲れ切った、誰かの顔。
「……来たか」
管理者は、ため息をついた。
「魔王と、祝福なき者」
隣に立つ魔王は、無言で頷く。
◆
「ここまで来た以上、止める気はないのだろう」
「……ああ」
俺は、一歩前に出る。
「この世界を、終わらせる」
「やはりな」
管理者は、目を伏せる。
「私は、この世界を守ってきた」
淡々とした声。
「何度失敗しても、何度壊れても、
巻き戻し、修正し、続けてきた」
「……それが、救いだと?」
「他に方法がない」
即答だった。
「世界は、未完成だ。
住人は脆く、愚かで、すぐ死ぬ」
魔王が、口を開く。
「だから、物語に縛った」
管理者は、頷いた。
「勇者という軸を置き、
終わりを固定した」
◆
「……何が、そんなに怖い」
俺は、問う。
「世界が、終わるのが」
管理者は、少し考えてから答えた。
「無になることだ」
胸が、締め付けられる。
「終われば、誰も救われない」
「違う」
俺は、首を振る。
「“救われない”ことと、
“終わる”ことは、違う」
管理者は、俺を見る。
「終われば、選ばされることはない」
その言葉に、空気が揺れた。
◆
管理者は、静かに手を上げる。
世界が、軋む。
「それでも、私は止める」
空間が、砕けるように歪む。
だが――
「無駄だ」
魔王が、前に出た。
「君は、管理することに疲れた」
管理者の手が、震える。
「もう、終わらせたいんだ」
管理者は、答えない。
◆
視界に、最後の表示が現れる。
《最終権限:実行可能》
選択肢は、ない。
だが、問いがある。
《世界をどうする?》
俺は、目を閉じる。
村で泣いていた子供。
疫病で倒れた人々。
何度も燃えた街。
そして――リリィの手の温もり。
◆
「……終わらせる」
そう言いかけて、俺は止まった。
違う。
それだけじゃ、足りない。
「再定義する」
管理者が、目を見開く。
「……何?」
「この世界を、“物語”から解放する」
魔王が、静かに笑った。
◆
「周回を、やめろ」
俺は、管理者を見る。
「勇者も、魔王も、役割を消す」
「そんなことをすれば――」
「世界は、不安定になる」
俺は、頷く。
「でも、それでいい」
管理者の声が、震える。
「滅びるかもしれないぞ」
「それでも」
俺は、はっきり言った。
「選ばせろ」
◆
長い沈黙。
やがて、管理者は膝をついた。
「……私には、できなかった」
弱々しい声。
「終わりを、受け入れることが」
俺は、手を差し出す。
「じゃあ、俺がやる」
◆
光が、溢れる。
世界が、ほどけていく。
だが、消えない。
壊れるのではなく、縛りが解けていく。
勇者の祝福が、消える。
魔王の呪いが、消える。
選択肢の表示が、完全に消える。
◆
気づくと、草原だった。
風が、吹いている。
時間は、動いている。
「……終わったの?」
リリィの声。
「……ああ」
空を見上げる。
システムも、管理者も、いない。
ただの、不完全な世界だ。
◆
魔王の姿は、なかった。
管理者も。
彼らは、役割と共に消えた。
世界は、続いている。
保証も、救済もないまま。
◆
「……これから、どうするの?」
リリィが聞く。
俺は、笑った。
「分からない」
でも、それでいい。
選択肢は、もうない。
だからこそ――
「自分で、選ぶ」
風が、草を揺らす。
誰のためでもない、朝が来る。
これは、救いの物語じゃない。
選ぶことを、取り戻した世界の話だ。
――完。




