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第11章:世界の終わりと、その先

 世界の中心は、静かだった。


 空も、大地も、音を失っている。

 色だけが、薄く残っている。


 そこに――管理者はいた。


 初めて会った時と同じ、黒い法衣。

 だが、今度は仮面がない。


 人間の顔だ。

 疲れ切った、誰かの顔。


「……来たか」


 管理者は、ため息をついた。


「魔王と、祝福なき者」


 隣に立つ魔王は、無言で頷く。



「ここまで来た以上、止める気はないのだろう」


「……ああ」


 俺は、一歩前に出る。


「この世界を、終わらせる」


「やはりな」


 管理者は、目を伏せる。


「私は、この世界を守ってきた」


 淡々とした声。


「何度失敗しても、何度壊れても、

 巻き戻し、修正し、続けてきた」


「……それが、救いだと?」


「他に方法がない」


 即答だった。


「世界は、未完成だ。

 住人は脆く、愚かで、すぐ死ぬ」


 魔王が、口を開く。


「だから、物語に縛った」


 管理者は、頷いた。


「勇者という軸を置き、

 終わりを固定した」



「……何が、そんなに怖い」


 俺は、問う。


「世界が、終わるのが」


 管理者は、少し考えてから答えた。


「無になることだ」


 胸が、締め付けられる。


「終われば、誰も救われない」


「違う」


 俺は、首を振る。


「“救われない”ことと、

 “終わる”ことは、違う」


 管理者は、俺を見る。


「終われば、選ばされることはない」


 その言葉に、空気が揺れた。



 管理者は、静かに手を上げる。


 世界が、軋む。


「それでも、私は止める」


 空間が、砕けるように歪む。


 だが――


「無駄だ」


 魔王が、前に出た。


「君は、管理することに疲れた」


 管理者の手が、震える。


「もう、終わらせたいんだ」


 管理者は、答えない。



 視界に、最後の表示が現れる。


《最終権限:実行可能》


 選択肢は、ない。


 だが、問いがある。


《世界をどうする?》


 俺は、目を閉じる。


 村で泣いていた子供。

 疫病で倒れた人々。

 何度も燃えた街。


 そして――リリィの手の温もり。



「……終わらせる」


 そう言いかけて、俺は止まった。


 違う。


 それだけじゃ、足りない。


「再定義する」


 管理者が、目を見開く。


「……何?」


「この世界を、“物語”から解放する」


 魔王が、静かに笑った。



「周回を、やめろ」


 俺は、管理者を見る。


「勇者も、魔王も、役割を消す」


「そんなことをすれば――」


「世界は、不安定になる」


 俺は、頷く。


「でも、それでいい」


 管理者の声が、震える。


「滅びるかもしれないぞ」


「それでも」


 俺は、はっきり言った。


「選ばせろ」



 長い沈黙。


 やがて、管理者は膝をついた。


「……私には、できなかった」


 弱々しい声。


「終わりを、受け入れることが」


 俺は、手を差し出す。


「じゃあ、俺がやる」



 光が、溢れる。


 世界が、ほどけていく。


 だが、消えない。


 壊れるのではなく、縛りが解けていく。


 勇者の祝福が、消える。

 魔王の呪いが、消える。

 選択肢の表示が、完全に消える。



 気づくと、草原だった。


 風が、吹いている。


 時間は、動いている。


「……終わったの?」


 リリィの声。


「……ああ」


 空を見上げる。


 システムも、管理者も、いない。


 ただの、不完全な世界だ。



 魔王の姿は、なかった。


 管理者も。


 彼らは、役割と共に消えた。


 世界は、続いている。


 保証も、救済もないまま。



「……これから、どうするの?」


 リリィが聞く。


 俺は、笑った。


「分からない」


 でも、それでいい。


 選択肢は、もうない。


 だからこそ――


「自分で、選ぶ」


 風が、草を揺らす。


 誰のためでもない、朝が来る。


 これは、救いの物語じゃない。


 選ぶことを、取り戻した世界の話だ。


――完。

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