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第10章:世界を壊す選択

 夜は、静かすぎた。


 魔王城の最奥。

 与えられた客間で、俺は眠れずにいた。


 これまで何度も夜を越えてきた。

 村が燃えた夜。

 疫病で人が死んだ夜。

 選択肢が消えた夜。


 だが――今夜は、違う。


 明日で、終わる。


 良くも悪くも。



 扉が、ノックされる。


「入るぞ」


 聞き慣れた声だった。


 鎧の女性――第8章で出会った冒険者、カイラ。

 彼女は、無言で椅子に腰掛ける。


「……ここまで来るとは思わなかった」


「俺もだ」


 短い沈黙。


「魔王と組んだんだってな」


「……ああ」


 彼女は、鼻で笑った。


「最悪だ」


 だが、その目は怒っていない。


「それでも、止めに来なかった」


 カイラは、天井を見上げる。


「私も、何度も“似た夢”を見た」


 胸が、ざわつく。


「同じ街が燃える夢。

 同じ人が死ぬ夢」


 彼女は、視線を戻す。


「……あれは、夢じゃなかったんだな」



「明日、世界がどうなるか分からない」


 俺は、正直に言った。


「救われる保証もない」


「それでも、やるんだろ」


「ああ」


 即答だった。


 カイラは、しばらく黙ってから立ち上がる。


「なら、止めない」


 扉に手をかけ、振り返る。


「ただし――生きろ」


 それだけ言って、去っていった。



 次に訪れたのは、魔王軍幹部ゼファルだった。


「……久しいな」


「生きてたのか」


「君のおかげでな」


 彼は、苦笑する。


「明日、管理者と戦うそうだな」


「ああ」


「成功率は?」


「……低い」


 ゼファルは、肩をすくめる。


「だろうな」


 だが、意外にも表情は穏やかだった。


「私は、管理者に従うために生まれた」


 静かな声。


「だが、君は違う」


 彼は、深く頭を下げた。


「……ありがとう」


 その意味を、俺は聞かなかった。



 最後に、リリィが隣に座る。


 焚き火の前。

 子供の頃みたいに、肩が触れる距離。


「……お兄ちゃん」


「ん?」


「世界が終わったら、どうなるの?」


 答えは、用意していない。


「……分からない」


「そっか」


 それでも、彼女は笑った。


「じゃあ、一緒だね」


 胸が、締め付けられる。



「……怖いか?」


 今度は、俺が聞いた。


 リリィは、少し考えてから頷く。


「怖い」


 正直な声。


「でもね」


 俺の手を、両手で握る。


「選ばされるの、もっと怖かった」


 言葉が、胸に刺さる。


 ――この子も、選択肢の世界で生きてきた。



 夜が、深まる。


 別れの時間だ。


「……リリィ」


「うん」


「明日、俺は前に進む」


 言い換えれば、戻れない。


「お前は――」


「行くよ」


 即答だった。


「選択肢、ないでしょ?」


 苦笑するしかなかった。



 窓の外。

 星が、異様に明るい。


 視界に、最後の表示が浮かぶ。


《世界終了シーケンス:接近》


 これまでなら、選択肢が出ていた。


 だが、もう何もない。


 あるのは――覚悟だけ。


「……行こう」


 俺は、立ち上がる。


 仲間たちの顔が、脳裏をよぎる。


 救えなかった人々。

 選ばれなかった可能性。


 それでも。


「俺は、終わらせる」


 誰かのためじゃない。


 誰かを犠牲にし続ける世界のために。


 夜が、静かに明けていった。

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