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ごく普通の召使い令嬢ですが、王子の許嫁になりました

作者: Tokyo Secession

「今日も一日が始まるわ」

エルフェンリート王国の首都ルーンハイム。

宮殿の片隅にある小部屋で目覚めたのは、召使い令嬢のエリザベスだった。

鏡の前で髪を整えながら、小さくつぶやく。窓の外には、朝日に照らされた美しい庭園が広がっていた。

エリザベスは他の召使いたちと共に、いつものように奥庭の掃除を始めた。

「エリザベス、ここはもう終わったわよ」

「ありがとう。じゃあ次は向こうを片付けましょう」

仲間と協力しながら、丁寧に庭を清掃していく。その真面目な姿勢は、他の召使いたちの手本にもなっていた。

「エリザベスさんは本当に働き者ですね。いつも助かっています」

「エリザベスがいるから、仕事がはかどるわ。感謝してるのよ」

周囲の召使いたちから、次々と褒め言葉が贈られる。

エリザベスはそれを謙遜しつつも、嬉しそうに微笑んでいた。

そんな平穏な時間も、突如として破られる。

「きゃあっ!」

「な、何事だ!?」

厩舎から逃げ出した暴れ馬が、庭園に突進してきたのだ。馬丁たちが必死で追いかけるが、馬の勢いが凄まじく、なかなか捕まえられない。

あわや馬蹄に踏まれそうになったその時、颯爽と現れた一人の男性が、見事な剣さばきで暴れ馬を制圧したのだ。

「だ、大丈夫でしたか?」 男性がエリザベスに声をかける。

「は、はい。ありがとうございます」

平身低頭で答えるエリザベス。

その美しい容姿に、男性は思わず見とれていた。

「君は見事な働きぶりだった。その真面目さと美しさに感銘を受けたよ」

「そ、そんな...お褒めに預かり光栄です」

エリザベスは恐縮しながらも、男性の言葉に頬を赤らめる。

二人の間に、ほのかな胸の高鳴りが生まれていた。

後日、男性はエリザベスを呼び出した。

「君のことがどうしても忘れられない。もっと君のことを知りたいと思ったんだ」

「私なんかで本当によろしいのでしょうか...」

「君でなければダメなんだ。私は君を、妻にしたいと思っている」

唐突な申し出に、エリザベスは戸惑うばかり。

困惑する彼女に対し男性は、自分は第一王子レオンハルトだと正体を明かした。

「で、でも私は身分の低い召使い。そんな資格は...」

「身分などどうでもいい。私は貴女を選んだ」

レオンハルトの言葉は強く、真摯だった。

実はレオンハルトには、宮廷に潜む"何者か"の影を探るため、エリザベスを身近に置こうという考えがあったのだ。

「私の父、国王が最近様子がおかしいんだ。何者かに脅されているようなのだが、その証拠が掴めない。君には私の目となり、耳となって、不審な点を探ってほしいのだ」

「か、かしこまりました。私に何ができるかわかりませんが、精一杯お力になります」

戸惑いながらも、エリザベスはレオンハルトの申し出を受けざるを得なかった。

こうしてエリザベスは、教養や礼儀作法を学ぶことになる。

「ご挨拶の仕方は、このようになさってください」

厳しい指導に、エリザベスの額には汗が浮かぶ。

それでも必死に食らいつこうとする姿は、健気でもあった。

しかし、そんなエリザベスの脳裏に、不思議な記憶が蘇りつつあった。

ある夜、エリザベスは奇妙な夢を見た。豪奢な部屋で目覚める自分。そこは自分の寝室らしいが、召使いの部屋とは明らかに違う。

召使いたちが忙しそうに行き交い、自分に恭しく一礼する。

「ユリアナ様、お目覚めでございますか」

夢の中で、エリザベスはユリアナと呼ばれていた。

目が覚めると、エリザベスは激しく動揺していた。

「今のは一体...?...懐かしい感じがするのは気のせいかしら?」

自問自答するように呟くエリザベス。まだその記憶は断片的で、確信は持てずにいた。


「私は一体、何者なの...?」

ある日、エリザベスはひとり庭園を歩いていた。ふと立ち止まり、遠くを見つめる。

自分の出自について、深く思いを巡らせていた。

そこへ突如、王弟アルバート公が現れた。

「やあ、こんなところで会うとはね」

アルバートは不敵な笑みを浮かべ、エリザベスに近づいてくる。

「そ、そうですね。散歩をしていたのですが奇遇ですね...」

戸惑いながら答えるエリザベス。次の瞬間、アルバートの部下たちがエリザベスを取り囲んだ。

「ところで貴女と少し話をしてみたいと思っていたんだが、私について来てくれるかな?」

アルバートは強引にエリザベスの腕を掴むと、彼女を連れ去ろうとする。

「は、放してください! 」

エリザベスが抵抗すると、アルバートは不気味な笑みを浮かべた。

「...貴女には私の計画の一端を担ってもらいます」

その時、颯爽とレオンハルトが現れた。

「兄上、エリザベスを放しなさい!」

「レオンハルト? 邪魔をするな!」

アルバートは部下たちに目くばせし、エリザベスを連れ去ろうとする。しかしレオンハルトは素早く剣を抜くと、部下たちを次々と倒していく。

「くっ...! 覚えていろ!」

アルバートは捕まる前に、慌てて逃げ出していった。

「エリザベス、大丈夫か?」

「レオンハルト様...ありがとうございます」

レオンハルトに助けられ、エリザベスは安堵の息をつく。しかしアルバートの言葉が、彼女の心に重くのしかかっていた。

更にレオンハルトは衝撃の事実を告げる。

「実は、アルバートが国王暗殺を企てているという情報を掴んだ。そしてその証拠を握っているのが、君だと分かったんだ」

「え...? 私が、証拠を?」

信じられない思いで呟くエリザベス。レオンハルトは更に続ける。

「16年前、アルバートは国王の娘を誘拐した。そして君は、その王女ユリアナなのだ」

「私が、王女...?」

エリザベスの脳裏に、夢の記憶がよみがえる。

「信じられないかもしれない。だが、君が身につけているそのネックレスが、全てを物語っている」

レオンハルトはエリザベスのネックレスを指差した。そこには、王家の紋章が刻まれていたのだ。

エリザベスは自らの出自を受け入れられずにいた。

「私は...私は...」

「君が本当の自分を受け入れるには、時間がかかるだろう。だが、君にはその力があると信じている」

レオンハルトの言葉に、エリザベスは涙を浮かべる。

「私は...エリザベスではなく、ユリアナなのね...」

「そうだ。君は王女ユリアナだ。そして、アルバートの悪事を暴く鍵を握っている」

エリザベスは、いやユリアナは、覚悟を決めた。

「私は...私の本当の使命を果たします。アルバートの陰謀を阻止し、王国を守るために」

レオンハルトは頷くと、ユリアナの手を取った。

「私も君を支える。二人で真実を明らかにしよう」

こうして、ユリアナとレオンハルトの闘いが始まったのだ。

一方、アルバートもユリアナの存在に気づいていた。

「あの召使いが、ユリアナだと?」

「はい。レオンハルト様に守られ、記憶を取り戻したようです」

部下の報告に、アルバートは歯噛みする。

「あの女が生きているのは、我が野望の脅威だ。何としてでも排除せねば...」

16年前、アルバートがユリアナを殺さなかったのは、彼女が持つ王位継承権を利用するためだった。

だが、今やそのユリアナの存在が脅威となっている。

アルバートの脳裏に、邪悪な計画が浮かび上がった。

ユリアナを陥れるため、アルバートはレオンハルトに圧力をかける。

「レオンハルト、お前はユリアナを手放せ。さもなくば、私がユリアナを国家反逆罪で処刑する」

「兄上、それは...」

板挟みの状況に苦しむレオンハルト。ユリアナを守るべきか、自分の立場を優先すべきか。

避けられない対決の時が、刻一刻と迫っていた。


遂に、アルバート率いる刺客軍団のクーデターが勃発した。

「ユリアナを反逆罪で処刑する! 私に従わない者は、全て粛清だ!」

アルバートは自らの野望のために、ユリアナを陥れようとしていた。

アルバートの号令で、刺客たちが宮殿に侵入する。王宮兵たちが応戦するも、その数は圧倒的に不利だった。

「くっ、敵が多すぎる...!」

レオンハルトも必死に戦うが、劣勢は否めない。

「レオンハルト様、私も戦います!」

ユリアナも剣を手に、レオンハルトの隣に立つ。

「ユリアナ、危険だ! 私が守る!」

「いいえ、私も戦います。私は...もう逃げたくない!」

ユリアナは恐怖に打ち震えながらも、剣を握りしめていた。

そんな中、ユリアナは宮廷魔術師リリウムと出会う。

「ユリアナ様、あなたの力が必要です」

リリウムは、ユリアナが戦う姿を見て現れた。

「私は...私には何もできない...」

「いいえ、あなたは王女なのです。その力を信じて」

リリウムはユリアナに、王女としての力を授ける。

「この力は...私の魔力?」

自分の中に目覚めた力に、ユリアナは驚くばかりだった。

「ユリアナ様。あなたは王国の希望です。私はその力を信じています」

リリウムの言葉に、ユリアナは勇気づけられる。

その時、アルバートがユリアナの前に立ちはだかる。

「ユリアナ、お前には死んでもらう!」

アルバートはユリアナに剣を振り上げる。

「させない!」 レオンハルトが割って入るが、アルバートの剣に傷つけられてしまう。

「ぐっ...! く、くそ...!」

レオンハルトは傷口を押さえ、苦しみもだえる。

「レオンハルト!」 ユリアナの怒りが爆発する。

「私の大切な人を傷つけるなんて...許さない!」

ユリアナの全身から、凄まじい魔力が溢れ出す。

「な、何だこの力は...!?」

アルバートも思わず後退する。

「アルバート、私はあなたを許さない! 私の本当の力、思い知りなさい!」

ユリアナは魔力を解き放ち、アルバートに立ち向かう。凄まじい魔力の衝突が、宮殿を揺るがした。

「ば、馬鹿な...私が、この程度の力で...!」

ユリアナの圧倒的な力の前に、アルバートは敗れ去った。 レオンハルトもまた、アルバートとの決着をつける。

「兄上、あなたの野望は、ここで終わりだ」

レオンハルトの剣が、アルバートの胸を貫いた。 こうして、アルバートの脅威は去り、王国に平和が戻った。

アルバートの死により、彼が国王を脅していた事実も明るみに出た。国王は自由を取り戻し、ユリアナを王女として迎え入れた。

ユリアナとレオンハルトは、新たな王と女王として即位する。

「ユリアナ、君は本当に強くなった。召使いの少女だった君が、今や立派な女王だ」

「レオンハルト、あなたがいてくれたから、ここまで来られたのよ。私一人の力ではないわ」

二人は晴れやかな表情で微笑み合う。

ユリアナ即位の祝賀会が盛大に行われた。

歓喜の声に包まれる中、ユリアナは感慨深げに語る。

「私はエリザベスという名の召使いでした。でも本当は王女だった。数奇な運命に翻弄されましたが、最後には自分の人生を取り戻せた。これもレオンハルトをはじめ、多くの人々の助けがあったからこそ」

群衆からは歓声が上がる。

「女王ユリアナ万歳!」

「国王レオンハルト万歳!」

民衆の祝福に、ユリアナとレオンハルトは手を振って応える。

リリウムは最前列で二人を見守っていた。

「ユリアナ、よくぞここまで来た。私の予言通りだ。召使いから女王への道のりは険しかったが、見事に乗り越えた。エリザベスという運命の出会いが、全ての始まりだった」

リリウムの目には、感動の涙が浮かんでいた。

ユリアナとレオンハルトは、まるで初めから結ばれる運命だったかのように寄り添っていた。

「レオンハルト、あなたと出会えたことは、私の人生を変えてくれたわ」

「ユリアナ、私にとっても君との出会いは運命だった。君の強さと優しさに、惹かれずにはいられなかったよ」

二人の間には、召使いと王子という身分の壁があった。

だが、幾多の困難を共に乗り越える中で、その壁は溶けていった。

互いを思いやる心、助け合う絆が、二人の間に芽生えたのだ。

二人は見つめ合い、固く手を握り合う。

苦難を乗り越えた二人が紡ぐ、新たな時代の幕開けである。

エルフェンリート王国に、再び平和が訪れた。

しかしそれは、ユリアナが運命に立ち向かい勝ち取ったものだった。

エリザベスという名の召使いとして過ごした日々。レオンハルトとの出会い。アルバートの陰謀。様々な試練を乗り越え、ユリアナは真の女王へと成長を遂げたのだ。

「レオンハルト、共にこの国を導いていきましょう」

「ああ、ユリアナ。君と共なら、どんな困難も乗り越えられる」

二人は固く手を握り合った。王冠に光が差し、輝かしい未来を照らし出すかのようだった。

ユリアナの物語は、ここからまた新たに始まる。エリザベスという運命の出会いから始まった彼女の人生は、これからも国民に愛される女王として歩んでいく。 レオンハルトと共に国を治め、民を守り、時には困難にも立ち向かう。それがユリアナの使命であり、生きる道なのだから。


遥か昔、一人の召使い少女が宮殿の片隅で目覚めた。

その少女は、自らの運命を切り開き、真の姿を取り戻した。

少女の名はエリザベス。いや、ユリアナ。

彼女の人生は、召使いとしてではなく、堂々たる女王として、歴史に名を残すことになるのだった。

ユリアナの治世は、エルフェンリート王国の黄金時代と呼ばれることになる。

レオンハルトとの間に生まれた王子や王女たちは、また新たな時代を切り拓いていく。

ユリアナの血は、王家に脈々と受け継がれていったのだ。

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