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魔王様と勇者ちゃん。~少女二人の相違相愛~  作者: もぐ
第二章 離別編(仮)
80/121

【80】余は、もう。





 魔王城にリリィと共に帰還する。

 直接余の寝所にやってきた。


 二人でゆっくり時を過ごしたかったが、その前にすべき事がある。

 名残惜しくも余はリリィに部屋で待つようお願いした。


「真っ先に、会わねばならん……いや会いたい人達がおる。

 少しここで待っていておくれ」


「お父様と、お母様ね」


「……うん」


 そう。

 まだ、あれ以来余は二人と会うていないのじゃ。


 ラナンキュラスが先立って余の事を伝えているはず。

 しかしそれも今日の事。


(ど、どんな顔で会ったらいいのじゃ……)


 それを思うと、余の心中は複雑どころではない。

 しかしどうあれ、まずは早く顔を見せてやりたい、と思う。


 ウサモフシティで感じていたものとはまた違う緊張。

 どきどきする胸を抱えながら、余は寝所を一人後にした。





 まず最初に会ったのは、父じゃった。

 エントランスから出ようとした所を、鉢合わせた。


 ととさまは余の姿を見て、ただ目を見開いた。

 しばらく、そのまま余を見つめる。


 やがて柔らかく、微笑んだ。


「……、……おかえり。ナナちゃん」


「ただいま、ととさま」


 余も微笑んで、返事をする。


 予想していたものと違い、父はとても落ち着いていた。

 見た目も随分変わったのじゃけど……。


 父は静かに俯き、目を閉じて胸に手をあてる。


 いくらかそうした後、もう一度余を見て言った。


「ママに、会っておいで」


 かつての日常のひとつのように、それだけ言った。

 余は父の落ち着きようにほんの少しだけ戸惑いながら、頷く。


「パパは、スラル君とお話をしてくる。

 あとで、パパ達の家でまた、お話しよう」


「……うん、分かった」


 余は父の優しい笑顔を見ながら、転送陣を開く。

 そして、それは余を生家まで運んだ。


 父の眼差し。


 覚えている。

 あれは、余が魔王となって間もない頃。


 余に、魔王の宿命を話して聞かせた時と同じ目であった。

 父として、己の責務を見据えて逸らさぬ、強い決意の眼差し。


(分かった、ととさま。あとでね)


 生まれ育った家の前に立ち、余は一人頷いてから。

 その扉を開いた。





 母は、玄関の前で腕を組んで待ち受けていた。


 余の顔を見て、口を開く。

 しかし、そこから言葉は出てこなかった。


 母は口を閉じて、ゆるゆると首を振る。

 そして、入りなさいと言うように家の中を手を差した。


 余は頷き、母のそばへ歩いていく。

 ふっと笑った母に、余は言った。


「……ただいま、かかさま」


「どちらさま?」


 首を傾げて、母が返した。


 え。


「ぁ、あの、こんな変わり果てた姿になっちゃったんじゃけど、

 私あなたの……娘の」


「……くす。冗談だよ」


 ぽん、と余の頭に手を乗せる。

 しばらく、そのまま黙って母は余の頭を撫でた。


 母や父の気持ちを、余は想像できぬ。

 余の口から出た言葉は、謝罪であった。


「……ごめん、かかさま」


「謝るんじゃないよ」


 撫でていた手を離し、ぺし、と軽く頭を叩かれた。


「う……でも、先立つとか親不孝したし……」


「逆だよ。あれはどうしようも無かった。あんたのせいじゃない。

 それなのに、アンタはこうやって帰ってきてくれた。

 これが親孝行でなくて、なんなのさ」


 母は余の顔に触れながら、優しく言った。


「まぁ確かに、この一ヶ月は地獄だったけどね」


 う……


 母の言葉が、胸に刺さる。


「ごめんなさ――」


 思わずまた謝りそうになった口を、母が人差し指を押し付けて止める。

 そして、ふん、と鼻で笑って言った。


「アタシをなめんじゃないよ。そんなヤワな女じゃないわね。

 あんまりしんどいもんだから、丁度昨日これじゃいかんと思ってね。

 父さんぶち犯して二人目こさえようとしてたトコなんだから」


 不敵に笑うかかさま。


「そ、そか……」


 ……母は強し? 女は強し?


 ……たぶんどっちも違うな。


「まっ、父さんいなかったらサクっとアンタの後追って死んでたかもねぇ。

 7年掛けて覚悟を固めて来たってもさ。脆いもんだ、ありゃ参ったね。

 あっはは、ヤワじゃないって言ったそばから何言ってんだって」


 あっけらかんとして、笑う母。

 目端から涙が伝うのも、そんなの知らんと言うように。

 その姿に、余は胸に大きなものが込み上げる。


 そんなかかさまが、余は大好きじゃ。

 改めて、こうして生きて戻ってこれた事を、心から嬉しいと思う。


 ……あ、もちろんととさまも大好きじゃ(フォロー)。


 母が余に向かって、両手を広げる。

 近づいた余を、かかさまはそっと抱きしめた。

 それから、みるみる力がこもっていく。


 正直、それは痛いくらいじゃった。

 でも、きつく締め上げてもなお伝わる震えに、

 余はただ目を閉じて、されるがままでいた。


「……これが夢なら、あんまりだよ」


 母の呟く声は少し掠れている。


「大丈夫よ」


 夢じゃない、と余は言う。


「もう……無理だよ。次は……壊れちゃう」


 余の頭を抱えて、強く頬を寄せる。

 余もそれに返す。


「これからまたいなくなったら、それはほんとの親不孝だもん。

 ね、昔から私は良い子でしょ。大丈夫よ」


「ん……そうだね、ナナ……」


 母は余を抱きしめて、静かに泣いた。

 ずっと、離すことはなかった。


 気が済むまでいくらでも、こうしていようと思う。





 しばらく母と過ごし、魔王城に戻る頃には陽もほとんど沈んでいた。


 そしてエントランスで、再び父と会う。


「おかえり、ナナちゃん。

 早速だけれど、付いてきてくれるかい?」


 そう言って余を待つ父に、頷いて返した。


「うむ……なにかの」


 余が従うのを見て、父は歩き出した。

 城内を進み、やがて我らがたどり着いたのは――


「……禁書庫?」


 そう、魔王城地下にある禁書庫の扉前であった。

 扉には古き魔王が施した封印魔術が刻まれ浮かんでおる。


 そして、余はその意図を理解する。


 魔王以外は、この扉を開く事は出来ない。


 かつて余が自死を試みた時、ここにスラルが入った事はある。

 しかしあれは、本心で自分を見つけてほしい、止めてほしいと願っていた

 余があえて扉を開け放しておったからじゃ。

 基本的には、魔王以外がこの中に入ることは出来ない。


 父は余を見て言った。


「魔王以外禁制の書庫だ。ナナ、開けられるかい?」


「…………」


 余は喉を鳴らし、扉に手を近づける。


 ……


「――っ!!」


 ばちん、と空気が爆ぜる。

 余の右手は、思い切り弾かれた。


 余は鈍く痛むその手を、見つめる。


「……開けられない」


「そうか……」


 父の静かな呟き。



 余は……


 余は、もう、魔王ではない。


 そのひとつの証明に、余の心には様々な想いが渦巻こうとする。

 しかし、それは余の肩に置かれた父の手によって、鎮まった。


「ナナ」


「……とと、さま」


 父は優しく、慈しむように余を撫でた。

 そしてしばし目をつむり……


 ひらく。

 真剣な眼差し。


「お話をしよう、ナナ」


 微笑む父が、言った。





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