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魔王様と勇者ちゃん。~少女二人の相違相愛~  作者: もぐ
第二章 離別編(仮)
54/121

《54》幻にさえ思えた。





 魔王城、その荘厳なる城門からやや離れた所。

 そびえる城を見るともなく見つめる、一人の魔族の姿があった。


 彼女はとある魔貴族の令嬢、ラナンキュラス。

 横に薙ぐ少し強い風に艶やかな金髪をたなびかせて、じっと

 魔王城の方を見つめている。


 私は何がしたいのだろう、と自問する。


 スラルに何か、言いたい事があるか。

 ……否。


 リリィに何か、聞きたい事があるか。

 ……否だ。


 彼女はただ、会いたかった。

 もうそこにいない、幼馴染みの少女に。


 物心つく頃にはいつの間にかそばに居て、一緒に日々を過ごした少女。


 立場と生まれ持った才のためか、歳の近しい友人をなかなか持てずにいた

 自分にも隔て無く、対等に向き合い、構ってくれた女の子。

 子猫のようにじゃれてきては、一緒にままごとなんかをさせられた。

 遊んで、お菓子を分け合って、勉強をして、将来の夢を話して。


 やがて魔王なんてものになってしまっても、変わらず自分を親友だと

 当たり前に言ってくれた少女は、もういない。


「……ほんとうに、おバカな子」



 ひと月前、魔王が最後に魔族全員へ一斉送話を行ったあの日。

 その翌日に、夜も明けて間もない時分に彼女は魔王城を訪ね、

 波濤の如くスラルに問いを投げ、感情のままに喚き散らした。


 スラルは努めて淡々と、それまで彼らが秘していた事情を

 きっとほとんど洗いざらい説明した。順を追って丁寧に。


 スラルの言葉に、彼女はただ(くずお)れて、声を殺して泣いた。

 何も言えなかった。責めるべき何者もなかったからだ。

 ラナンキュラスは若くしてとても物わかり良く聡明な女性だった。

 自分で憎たらしいと思うほどに。



 その際に、魔王の友人……いや想い人であった勇者リリィが、

 魔王を自称し玉座についた事も、当然聞いた。


 スラルはその意味、理由を”私の想像でしかないが”と前置いて語る。

 しかしラナンキュラスも、彼のその言葉に概ね同調した。


 ナナの意志、あるいはそこにあった懊悩を、無為にしない事。

 それが、半ば抜け殻となったリリィに、残り火のように残った想いか。


 彼女はこれからずっと、それを抱えて在り続けるのだろうか。

 いつか死んでしまうまで。もういなくなったあの子のために。


(なんて、滑稽で……救いのない話)


 ただただやるせない思いを胸に、ラナンキュラスは魔王城を見つめる。





 やがていつものように、彼女が溜息の後にそこを立ち去ろうとした時。

 城門が開き、そこから一人外に出てくるのが見えた。


(…………リリィ)


 ラナンキュラスは様々な感情の浮いた視線をリリィに向ける。

 数秒迷ってから、彼女の元へ歩き出した。


「……ごきげんよう、リリィ」


 相変わらず何色でも無い無表情を浮かべた少女に声を掛ける。

 リリィは静かに視線を向ける。


「どちらかへお出掛けかしら。外で貴女を見るのは久しぶりですわね?」


 意識して、他愛のない口調で言葉を手渡す。

 少女はそれに、間がありながらもきちんと応えた。


「……にんげんの街に、いってくる」


「人間の……それは、五日程前に貴女が出向き、破壊を行ったという?」


「そう」


 短いが、リリィはちゃんとラナンキュラスの目を見て答える。


 少し迷ったが、ラナンキュラスは言った。


「私も……付いていきますわ」


「どうして」


「さぁ、どうしてでしょう? 実は私にもよく分かりません」


 首を振って、少しふざけたように言う。

 リリィはそれに特に反応するでもなく、やはり短く返す。


「すきにしたらいい」


「ええ、好きにしますわ。安心なさい、特に何かするつもりもありません」


 ラナンキュラスの言葉を受けて、リリィは頷く事もなく、

 おもむろに飛翔法術を発動する。

 慌てて自分も追って浮かび上がり、飛び立つ彼女を追った。





 リリィが後ろを意識してくれたのかは分からないが、とりあえず

 なんとかギリギリ、ラナンキュラスはパスラの街まで彼女に

 置いていかれず付いてこられた。


 パスラという人間の街を、彼女は過去に遠目に数度だけ眺めた事があるが、

 眼下に見えるその風景は、記憶と比べ確かに景観が変わっていた。


 街の外壁、その東側半分程が破壊され、並ぶ家屋は全戸の内三分の一以上は

 全壊あるいは半壊してしまっている。


(死人は無しと聞いたけど……これで? 本当かしら……)


 ラナンキュラスは想定したよりも数段上の破壊ぶりに、少し身震いする。

 少し離れて街並みを無感情に見下ろすリリィが、視線を変えず言った。


「わたしは街の代表のところにいく。あなたはどうするの」


 その言葉に、自分も同行させてもらうと返事をしようとする。

 しかしその時。



 一瞬。


 本当に一瞬だけれど、彼女は何かを目にして言葉を……いや息を飲んだ。


(え……?)


 彼女は今し方、自分が目にしたはずのものが信じられなかった。

 そんなはずはない、と彼女は思う。


 けれど、見間違いと断じてしまうことは出来ない。


 確かめなければ。


 そんなはずがないと分かっていても。


「……私は、別行動をさせていただきます」


 震えそうになる声で、ラナンキュラスはリリィに言った。


「……そう。きをつけて」


 リリィは少しだけ彼女を気にするように一瞥してから、そう短く返す。

 そして方向を定め、飛んでいった。


 しかし、すでにラナンキュラスは飛び去るリリィの方を見てはいなかった。

 ただ街角の一点を見つめ、急いで己に"擬態"を施す。

 角や瞳孔、そして肌の色と人間のそれに近しく変化させる。

 慣れぬ擬装の具合を鏡で確認したかったが、それどころではない。


 彼女は上位魔術を用いて己の姿を隠匿してから、街の中へと降下していく。

 死角となって一時見えなくなっていたが、再び()()は彼女に目に映った。


 道行くその姿のすぐ後ろに立って、魔術を切って姿を現す。

 幸い、周囲に()()()以外に人の目は無い。


 なぜか、声を掛けるのを躊躇う。

 今の自分の感情が分からない。

 目の前には、三人の女性の後ろ姿。


 彼女はそこに見えているはずのものが、幻にさえ思えた。


 けれど、意を決してラナンキュラスは口を開く。



「……しつ、れい。貴女たち、ちょっとよろしいかしら……?」


 前を行く三人が、皆振り返る。

 その内、真ん中で隣の女性と手を繋いだ少女の顔を見て。


 ラナンキュラスは、頭の中が真っ白になる。





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