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【38】魔王様、腹を決めなさる。





 余は日暮れ時、特区に足を運んだ。


 上空からざっと眺めてみるだけでも、二週間とは思えぬほど

 人の手が大きく加えられ、一見してもより良き発展を想像させた。


 かつての駐屯地はその様相を大きく変えつつあり、村落としてはかなり

 上等なものへと姿を変えつつある。

 そこでせっせと働き回る人間達も、大変活力に満ちた顔をしていた。


 余はその中に、子を抱いてあやす女を見つけ、そこに定めて

 ゆっくりと降下していった。


 赤子を抱く女と、傍らの男は大層驚いたが、すぐに頭を深く下げる。


「そうか、あの時大きいお腹をしていたのがおったの。

 無事生まれたか。なによりじゃ」


 赤ん坊が、余の方を見て不思議そうな顔をして手を伸ばしている。

 母親が余に涙声で言う。


「魔王様のお陰です……この子を、こんな気持ちで迎えてあげられたのは。

 本当に……ありがとうございます」


 母親が涙を流しながら、赤ん坊に微笑み掛ける。

 父親も、満ち足りた優しい顔を向けていた。


 その親子の姿に、ほんの少しだけ、ささくれた心が慰められる。

 余は……ダメな王なりに出来る事をしよう、と思った。





 魔王城の自室にて、人間領へ赴く支度を進めていた時。

 扉がノックされ、スラルが入室してきた。


「……魔王様、エトラがこちらに出向いております」


「エトラが……?」


「魔王様に急ぎ、お伝えしたい要件があるとのこと。

 エトラ、ここへ」


 スラルが扉の外へ声を掛けると、確かに現れたのはエトラであった。

 人間領から魔族領へ念話は彼女には到底飛ばせぬ。

 疲労がはっきり見える所を見るに、大急ぎでここへ飛んできたのじゃろう。


「魔王様……突然の来訪、申し訳ございません~……」


「よい。それより、何事じゃ?パスラで何かあったのかの?」


「はいぃ、本日の早朝なのですが、パスラの東にあります閑散区にて、

 4名の霧人が磔にされて亡くなっているのが発見されましてぇ……」


「……なんじゃ、それは」


 余は大きく眉を顰めて問い質す。

 エトラは続けた。


「はい、あのぉ……それでその磔にされた遺体に括られる形で、一枚の

 書き置きのようなものが残されていたそうです……」


「書き置き? ……それは」


「それには短く”明日は8体”と書かれていたと……」


 余が大体予想したような答えが返ってきた。


「ちっ……」


「魔王様。お気づきでしょうが、明らかに誘いでございます」


 舌打ちをした余に、スラルが言う。

 もちろん、分かっておる。


 未だ何者かも判然とせぬ、彼らにとる所の"偽善者"の某かを、

 奴らは誘っているのじゃろう。


「騎士団の、あのリネイとか言うのはどうしておるか分かるか?」


「あの騎士さんは、現場に向かわれました。すぐに彼らも調査を開始された

 ようですけどぉ……足並みがいまいち、揃っていないようですねぇ」


「どういうことじゃ?」


「騎士団の方々、ここ最近の何者かによる奴隷解放、それに伴う豪商などの

 殺害の件で、上流民達から相当に非難を受けているようでしてぇ……。

 今回もそういった力ある商会や貴族等から、”この機を利用し賊を捕らえよ”と

 強く圧力を掛けられてるみたいでぇ……」


「そうか……」


「騎士団というのは、言ったらお役所仕事みたいな所がありますから~……

 団長さんの思惑はともかく、騎士団は加害者(ホシ)が分かっても恐らくは

 一旦状況を保留にせざるを得ない可能性が高いですねぇ……」


「多くの者にとっては、見殺しにしても所詮卑人という事か……」


 余は、ぎり、と奥歯を噛む。

 放置すれば、翌日には実際に8人の霧人の遺体が晒される事となるじゃろう。

 エトラに調査を任せるにしても、もはやすでに日も落ちた。

 現状手掛かりも少ない今、期限があまりに短すぎる。


 ……かと言って、見殺しにも出来ぬ。


「よかろう。誘いに乗ってやる」


「魔王様」


「スラル、止めるな。……止めるでないよ。余はそうすると決めたのじゃ。

 エトラよ、その死んだ4人の死に様は分かるかの」


「あ……えっと……」


 エトラが言いよどみ、ちらりとスラルの方を見やる。

 けれど、諦めて告げた。


「……かなり、惨い……ものだったようです。拷問の痕がこれ見よがしに……はい」


「そうか」


 余は短く応える。

 スラルは、目を閉じ、何かを観念したようであった。


「スラル、余の言葉は覚えておるか」


「どれでしょう」


「……勇者が、覚醒を見た時の事じゃ」


 エトラが、「えっ」と驚いた表情を浮かべる。

 スラルは少し間を置いてから、頷いた。


「はい、承知しております」


「今回は、数人では済まぬやも知れぬ。

 忠臣よ。努々、余の伝えを忘れるでないぞ」


「……はい。仰せのままに、魔王様」


 頭を垂れるスラル、困惑するエトラ。


 ……さて。


 刻は、近いのやも知れぬな。





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