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【26】魔王様、風呂場で遭遇する。





「以上が、はい、余の活動報告となっております……はい」


 夕刻、余は人間領から帰還した執事殿を寝所にお呼びし、ベッドの上で

 正座しながら日中の諸々を丁寧に説明した。


 顔を上げて、スラルの表情を窺う。

 相変わらずの無表情がそこにある。余は縮こまった。


「……特に、問題は無かったのですか?」


 そう、スラルが尋ねる。


「いや、今言った通り……色々軽率というか、だめだめで……」


「今仰った以外の事は、ないのですね?」


「え? あ、うむ……とりあえず、他に問題は無いと思う」


「そうですか。本日はお疲れ様でございました」


「え、それだけ……?」


 余は拍子抜けしてしまう。

 ちくちく言葉でお説教が始まると思っておったのじゃが……


「げ、げんこつ位されるつもりだったんじゃけど」


「魔王様にそんな事するはずないでしょう。

 まぁ聞いた範囲ではとりあえずのっぴきらない事態は無いようですし、

 良いお勉強になりましたね。今後に活かされますよう」


「……怒ってないかの?」


「もちろん……私は魔王様に怒ったことなどありません。

 “心配”であれば、これまでに三百回はしていると思いますが」


 あぅ、微妙に冗談じゃなさそうな数字じゃ……


「魔王様である事は当然として、魔族である事も露見していないようですし

 向こうから簡単に貴女様に関わる事もできません。私以上の戦力を軽く

 いなしてしまったという部分だけは少し懸念がありますが……」


「こいつ魔王とかじゃないのかーとか、怪しまれちゃったかの?」


「まさか魔王と斯様に遭遇するとは想像しないと思いますが……

 むしろあるとしたら、どちらかと言えば……」


 言葉を切り、短く逡巡した後スラルは少し首を振る。


「まぁ、今ここで考えても詮無いでしょう。

 では私の方から簡単にご報告したいのですがよろしいですか?」


「う、うむ。よろしく頼む」


 スラルからの報告は本当に簡単で、霊晶石の調達は大胆にも人間領で

 ごく普通に金銭を使って購入したのだそうだ。

 用途に適したなるべく大きく質の良いものを求め、三つの人間の街を

 配下と手を分けて探してきたとの事。


「念のため、それなりの広範囲をカバー出来る量を確保してあります。

 例えば、さらに招く人間が増える可能性があると考えたので」


 ……本当はそれについても、ここで相談しようと思っておったのじゃが。


 常に先を見て動ける執事、プライスレス。


「とは言っても、人間を招くにあたって問題は他にもあります。

 居住地をどうするかです。リリィ様らに収まっていただくものは

 そう待たず完成すると思いますが、あくまで小さなものです。

 魔族領に大人数を収容できる建物が無いわけではありませんが……」


「うむ、それは少々心配じゃ。余から直々に“触れ”を出しておるとは言え、

 ここには多くの魔族がおる。元々人間を敵視しておる者も多い。

 領内を小規模でも人間が占有する形になるのは、面白くないと感じる

 連中も多いであろうのぅ……」


「ではいっそ魔族領に漸近した人間領の土地に、彼らの住処を設けるのは

 いかがですか?当面はそこで難民キャンプのような体裁をひとまず整え、

 最低限の支援を与えながらゆくゆくは自主性のある集落を形成させる。

 元々自由を奪われ虐げられていた者達です。希望を持って自分の居場所を

 作ろうと励むと思いますよ」


「いいのぅそれ。採用じゃ。では仮設の住まいを作る資材を集めんと……」


「そちらも()()()()、すでに手配しております」


「ほぁ」


 ……うむ。とってもプライスレス…………





 本日連れ出した人間は、ベルと奴隷達合わせて9名。

 余はさっそく彼らに先程スラルにもらった提案をそのまま伝えた。

 不安や猜疑の目をしている者もあったが、概ね喜んでおった。


「騎士団長、リネイ=カルミヌス様は……悪徒に対してとても苛烈な方。

 商会の人間には然るべき処罰が下されると思います」


「……だと、いいのじゃがの」


 余に商会での一連を聞いたベルの言葉に、余は人間領の方角を見やる。

 エトラには顛末を調べ後に報告するよう命じてあった。


「魔王……さま、皆さんの事……ありがとうございました。

 私、彼らほど酷い容態の人を診せていただけなかったから……

 でも、時折違和感は感じていたのに……」


「お主が気に病む必要は無い。余も思うままに動いただけじゃ」


 余の応えは少しぶっきらぼうになってしまう。

 そこには自虐の念が籠っていた。


「少し、疲れた気がするのぅ。お主らも今話した件を進めるのは明日じゃ。

 今日は我が城の客間を利用しゆっくり休むがよい。直に食事も与える」


 言って、余は彼らの元を離れる。


 気分が優れぬ……いちどゆっくり湯に浸かって少しでも気を緩めたいの。

 風呂に向かおう。陽が沈む前じゃ、一人でゆっくり浸かれるじゃろう……



 脱衣所で服を脱ぎ、素っ裸で姿見に己を映してみる。

 ……辛気臭い顔をしておるな。


 スラルは余のこの面を見て、小言を遠慮したのやもな……

 ぺちぺち、頬を叩く。


 溜息を吐き、湯場に続く戸をカラカラと開ける。

 もうもうと視界を埋める温かい湯気が心地よい。


 いつもならもちろん身体を洗ってから湯舟に浸かるが、掛け湯のみで

 すぐ湯に入ってしまう。足先からじわーーっと来るこの感じが良い。


「……ふぇぁ……」


 余、お風呂大好き。

 腕と足を思いっきり伸ばして、リラックス。

 たまらぬ……



「……もしかして、ナナ?」


 不意に声がした。


 ……


「…………」


 ……ほぁ?


 余は、声がした方へゆー……っくり視線を向ける。


 今の、声、


 まさか、


「まぁ、ナナ……あなたもお風呂?」


 濃い湯気の向こうから現れたのは……


「リ」


「うん?」



(リリリ、リリ、リリィ――?!!?)



 ほぁーーーー!!?





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