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【24】魔王様、お次は奴隷商会へ。





 畜生の屠殺を済ませた余は、例よって地下に押し込められるように

 居った奴隷達を見つけ出し、フードの下から一通り彼らの姿を眺める。


(さっきの大男が型落ちだの売れ残りだの言っておったの……)


 そこに居る者達皆、仔細に並べたくない位には酷い有様であった。

 生かさず殺さず、という言葉が大変しっくりくる。


「また……こんな小さい子なのに……」


 一人の男が、暗く落ち窪んだ瞳を余に向け、憐憫を込めた声音で言った。

 どうやら、新たに連れてこられた屑の慰みものとでも思われたらしいの。


「お主ら、ここに好んで居る者なぞおらんな? 勝手に連れ出すが良いな」


「え……え、何を……?」


 わざわざこんな血のすえた臭いの中で説明する必要もないじゃろう。

 余は有無を言わさず転送陣を開き、驚愕する彼ら彼女らを伴って

 さっさと魔族領に移動した。





「……ふむ、今日はこれで四度目か。こんなに飛び回るのはいつ以来かのぅ」


 陽の昇りきった青空の下を飛ぶ。もちろん疲労なぞ欠片も無い。


 さすがにハルニレももはや説明の必要もないようで、余らを目にしてすぐ、

 身を寄せ合って怯え困惑する奴隷達を何処かへ引き連れていった。

 処置も説明もきちんとやってくれるじゃろう。持つべきは優秀な配下よの。


 パスラの街並みが近づいてきた頃、誰かが余に念話を試みるのを感じ取る。

 人間領におる間は、長距離間の念話は難度が高い。

 故に、コールを受けた余がこちらから双方の接続を担保するのじゃ。

 余からであれば、大陸の端まで念を繋げられるからの。余、結構すごい。


『あ、魔王様ぁ。奴隷商会の内情を一通り調べ終えたのですけどぉ……』


『うむ、そうか。10分少々もすれば余もそちらへ到着する』



 件の商会の大きな建物から少し離れた路地、そこで余はエトラと合流する。

 エトラを“遠視”役として待機させ、余は単身商会に向かうことにした。


 しかしさすがに今回は門扉の前に人の往来も多い。中にも雑多に様々な人間が

 居ろうし、正面から乗り込むのは止した。


 建物の裏手に回り、囲む塀を静かに飛び越え、窓から様子を窺う。

 見える通路に人の気配は無い。“解錠(アンロック)”を施し片開きの窓を開け侵入する。

 エトラの報告の通り、建物内には人間が十数人程おるようだ。


『そのまま左に見える角を進んで頂くと、正面にホールへ繋がる扉があります~。

 奴隷の詰め所に繋がる扉が左右の大階段の間にあるのですけどぉ……

 その入口には見張りが二人立っていますねぇ。お客や商会の人間は応接間や

 詰め所とかにいるんでしょうか、ホールに人は意外といないです~』


 エトラが“遠視”で内部を先見し、情報を念話で伝える。


『そこの入口向こうに奴らの()()があると。奴隷らの様子はどうであった?』


『はい……ホールから入ってすぐの通路左右に大部屋が二つあって、

 それぞれ男女が分けられて入っていますねぇ。部屋はそれなりに清潔で、

 中の奴隷も意外と普通の身なりをしてますし目立った外傷とかもありません』


『……そうか』


『ですが、通路奥からもう一つ地下に降りる事が出来るようです。

 巧妙に隠された上開きの隠し戸からかなり深く降りられる場所があってぇ……

 ざっと説明すると、降りてすぐ正面に格子扉があって、その向こうは何というか

 広い石張りの空間になっています。中には鎖で繋がれた中型の魔物が二体』


『魔物じゃと?』


『はい、低位の混成魔獣(キメラ)ですねぇ。法術で編まれた縛鎖で繋がれています。

 格子扉の手前左右には部屋があり、片方は小奇麗な空間で、意匠の凝った

 椅子やテーブルがあります。壁の一面だけ恐らく法術が施されたガラス張りで、

 石張りの空間が見渡せるようになっています』


 ……嫌な想像が浮かんでくる。

 多分、そういう事なのじゃろうな。


(奴隷の命を使った見世物か)


『反対の部屋には8名の卑人が足枷を付けられて入っています。

 皆一様に酷い怪我を負っていて……内二人は見た所かなり危険な状態です。

 間違いなく、キメラによってもたらされた傷痕ですねぇ……

 一人はぐったりとしていて……あるいは、もう……』


 尻すぼみになっていくエトラの言葉に、余の胸中にミミの事が去来する。


 ――……もう、あんなのはたくさんじゃ。


 余はホールに出る扉に手を掛け、静かに開く。

 確かに、見える範囲に人影はほぼない。気配は上階の方に集中しておる。

 ちらりと右に視線をやると、確かに男が二人立っておった。


 そやつらが余に視線を向けたと同時、余は刹那に間を詰め

 それぞれの頭を指で軽く突いた。

 すると、二人はその場に膝を折って倒れる。


 さっさとこの扉を開けて、こやつらを人目から隠してしまおう。

 余は扉に手を掛ける。


 しかしその時、その報が頭に響いた。


『はい、その扉の向こうには誰も――――? えっ、今のって』


 念話の先で、何かに気付いたエトラの言葉が途切れる。

 直後、彼女は焦った様子で言った。


『ま、魔王様まずいかもです、今そちらに例の――』


 エトラが言い終える前に、それはホール正面入り口から姿を現した。

 身を隠す暇もなく、余とその者の目が合ってしまう。


「……君は」



 ……むぅ。 エトラよ……


(……いや、館内に集中しておったのだ、仕方あるまい)


 余は溜息をひとつ、その男と再び対峙した。


 たしか、リネイとかいう名であったな。





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