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19/121

《19》とある屋敷の執務室にて。





 大陸の西から三分の二の面積を占める人間領、その中央。

 長大な円形外壁に囲われた人類最大規模の王都セントラルガーデン。


 その王都を中心として東西南北に8つの中規模衛星都市が点在する。

 その内、魔族領に最も近い東端に在るのがパスラである。


(かつて、もっと魔族領に近接した独立小国家が存在はしていたが、その国は

 数年前に魔王不在の魔族領へ侵攻を試みて大敗、その上さらに魔王覚醒の

 発端となった大罪国家として中央王都に責を問われ解体されている)


 距離にすればそこまで近いと言う程でもないのだが、それでも魔族領に

 最も近接した衛星都市であるパスラは、他と比べ必然的に軍備に注力している。

 であるから、そのパスラに於いて武功に(いさお)を与えられる者とはすなわち

 人類圏にあって特段の強者である事が証明された者という事になる。



 ここはパスラの中心、城下町リビオリ区。

 多くの貴族が屋敷を構えるその区画にあって一際大きく立派な大屋敷。

 その主は人間領屈指の強者、《斬魔公》リネイ=カルミヌス騎士長だ。


 リネイは屋敷の執務室にて、実弟リンドの実務報告を受けていた。

 そして、その内容とはにわかには信じがたい内容であった。


「変哲の無い幼い町娘が、ビリジアーノを瞬きの内に消し飛ばした、か……」


「はい、兄上……述べておいてなんですが、私自身いまだ信じられません」


 執務室には長兄リネイ、末弟リンドの二人のみ。

 弟の荒唐無稽としか言いようの無い報告を受け、リネイは黙考する。

 やがて、弟の顔を見据えて問う。


「リンドよ、その者が魔族では無く人間であったのは間違いないか?」


「確証は、ありません……しかし、見目は人そのものでした。

 ビリジアーノを屠った際に魔力の波動も一切感じられませんでした。

 一瞬の内に微かに感じたものは、霊力でありましたので……恐らく、

 魔に連なる者ではないと思われるのですが……」


「故にお前に想起されたものは……()()()()()()()、という思いか」


「はい、兄上……あくまで、あるいはという可能性の話ですが」


 リネイは目の前の執務机の上にあるインク瓶を見つめる。

 当然、思考は別にあり、幾筋もの思索が彼の頭を巡っていた。


「分かった。実際がどうであれ、お前の報告は軽視出来るものではない。

 まずはパスラ騎士団は当然として他の要所にもこの情報は共有しよう。

 出来るならその娘を見つけ出し、接触を図る必要がある。

 リンドよ、その娘の特徴で並べられるものはあるか」


「はい……髪は亜麻色で非常に毛量が多く腰まで伸びていました。

 見た目の年の頃は恐らく8つか9つ辺り、碧色(あおいろ)の瞳をしていて……

 外見に沿わない、とても大人びた雰囲気と口調をしていましたね」


 リンドの言を聞きながら、自分に思い当たる既知の才女たちの特徴と

 照らし合わせる。どれも合致しない。そもそも閾値(しきいち)が違いすぎる。


(我らの与り知らぬ才ある子供……リンドの思い付きもあるいは、か……)


 何より、″宣託の徒(さきがけ)”の御方々が受けたという啓示と、タイミングが妙に

 合いすぎている。偶然と付すには出来過ぎているように思う。


「あい分かった。この情報は中央にもすぐさま伝わるであろう。

 今代の魔王は″静謐の魔王”とも称される程に沈黙を続けているが……

 その意図は未だ分からぬ。勇者を迎える期は早いに越した事はない」


「仰る通りです、兄上。私もこれより、自分なりに彼の少女の手掛かりを

 求めてみようと思います」


「あぁ。事によっては大手柄となるな、リンドよ」


 リネイは末弟に微笑んで見せる。

 それにリンドは慌てて首を振って返す。


「そんな、事は全て偶然のもの。私は兄上達と比べ相変わらず

 うだつが上がらぬ一騎士に過ぎません。手柄など……」


 俯くリンドに、リネイは目を細めて笑みを浮かべる。

 昔からずっと実直な男だな、と。


 そして顔を上げたリンドは、最後に述べようと思っていた事を口にした。


「未熟な私の印象に過ぎませんが……少女のあの所業、大賢者クロム師をも

 思わせるものでした……正直、驚愕より恐怖が先に立ち……」


「……ふむ」


 リネイはその言葉とリンドの表情に、顎に手を添え目を細める。


 なんにせよ敵でない事を願うばかりだな――

 そう呟きリネイ騎士長は微かな苦笑を浮かべた。





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