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「ハハハ、おいおい」
「仏陀」という言葉を聞いて、全員が驚きを示したが、すぐ後、一人が大きな笑い声を上げた。それは、小松倫の監視員・桐生碧だった。
「倫君の前世が仏陀だなんて、当たり前すぎて笑えるよ。だって、生まれてすぐに彼が叫んだ言葉が『天上天下唯我独尊』なんだから」
桐生がそう言うと、小松倫が慌てて口をはさんだ。
「桐生さん、よしてください。それで僕が、どれほどこれまで、苦労してきたか、ご存知でしょ」
すると、すぐに夏井陽葵が倫に問いかけた。
「それで倫君、何があったの?」
尋ねられた倫は少し戸惑ったが、やがて意を決したように話し始めた。
「僕自身、何故『天上天下唯我独尊』なんて言ったのか、全然、覚えてないんだが、生まれてすぐに難しい言葉を叫んだ僕は、ひょっとしたら天才なんじゃないかと、生まれてすぐから国の英才機関に所属することになった。俊英学園幼児科の専門チームに預けられたのは、よく覚えてないけど2歳の時だった」
「おおお、あの俊英学園か」
足立塁が言葉をはさんだが、倫の話が続く。
「でも、国の期待を受けたにもかかわらず、俊英学園小学部では、とうとう僕には人並みの才能しかない、という結論が出された。そこで俊英学園を退学させられ、今回、平聖学園への転入となったのさ」
「そうか、国の期待から、国に監視される側になった、ということか」
今度も足立塁が口をはさんだが、それに即座に反応したのが、塁の監視員・戸田大翔だ。
「塁、何度も言うが、君たちは君たちの能力を卑下することはない。それが将来、この日本にとって、どんなに素晴らしい力になるのかを決めるのは、これからの君たち次第なんだから」
そう言われると、足立塁は押し黙り、代わりに陽葵が倫に話しかけた。
「それで倫君は、どんな能力があるの?仏陀だから空中浮遊とか、神通力とか?」
すると、
「う~ん」
倫は黙った。口を開いたのは、桐生碧だった。
「実は彼には、今のところ、これと言った特殊な能力はないんだ。ただ、彼によれば、彼は前世の記憶を徐々に取り戻しているみたいなので、ある日、突然、何らかの能力を発揮することも、ないとは言えない、ということだね」