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「ねえねえ、小松君。君は自分の前世について理解している人ですか?」
数学の授業が終わると、夏井陽葵は一目散に小松倫の席に歩み寄り、倫に尋ねた。
「え?何?前世?」
倫が戸惑うような声を出すと、そこに入って来たのが、足立塁だ。
「おい、陽葵、突然で驚いているじゃないか。小松、気にしないでくれ。何でも、この夏井陽葵の能力は、他の人の守護霊や、前世の姿を見ることらしいんだ」
塁がそう言うと、陽葵はすかさず答えた。
「何、らしいって。私には本当に他の人の前世が見えるの。まあ、しかし、前世が見えると言っても、例えば、私の前世は、70年ほど前にイギリスにいた、バーバラという霊媒師なんだけど、他にもチベットのお坊さんとか、日本の神主さんとか、能力を持ってる人が集まっている、この学校だけど、みんなが知ってるような有名人が前世という人は、ほとんどいないんだけどね」
倫に向けて話す陽葵に、再び、塁が割って入った。
「ちょっと待て。有名人などいないと言ったが、お前、この前、俺の前世を何と言った?」
陽葵はうれしそうな表情で、塁に言った。
「あなたはすごい。あなたの前世は、日本の神話に出て来る、スサノヲよ」
塁は呆れた顔になった。
「何だ、スサノヲって、人間ですら、ないじゃんか。いくら俺が、過去に破壊念力を暴発させた問題児だからって、スサノヲはないだろ。何だ、お前は俺を荒ぶる神とでも言いたいのか」
塁の話の途中に、次の授業の開始を知らせるチャイムが鳴った。陽葵は少し考えるような素振りの後、倫に話しかけた。
「いいわ、小松君。あなたの場合は、もう少し込み入った話になりそうだから、放課後に話しましょう。放課後、私に付き合ってね」
陽葵は、そう言うと、自分の席に戻っていき、続いて塁もいなくなった。だが、倫は陽葵の言葉に反応をすることなく、
「今のは何だったんだ?」
という表情を浮かべたまま、視線を2人に向けていた。