古き友よ
工房と書かれたドアの前に立つ長い金髪をアップにしたスレンダー体型の
黒いゴスロリ衣装のオートマター。
身長は170センチ。顔や手足は滑らかな光沢を放つ黒銀色の金属。
世界の格闘技をマスターし別名 戦鉄姫 と恐れられているが
その優雅な立ち振る舞いから想像することは難しい。
正式名称はレディー・ガンガン。通称ガンガン。
「マスター、恵比寿丸様がいらしゃいました」
身長150センチ。赤い肌の小鬼。鳶職人が着ているようなベストとズボン。
魔界の名工と呼ばれ数々の伝説級の武具を製作する魔族。それがドラロンである。
工房で作業中のドラロンは手を止め、ゴーグルを外しながら
ドアを開け中に入ってきた人物を見る。
「よう恵比寿丸、久しぶりだな」
身長は185センチ。細身でタキシード姿に犬神家のあの白いマスクにかすれ声。
「ドラロン、義手のメンテナンスを頼む」
千年前の話になる。
ヒューマンの史実では300年前勇者が魔王と戦い30日の戦いの末、
勝利を収めた勇者が魔王を石碑に封印したってことになっているが・・・
ありゃ~嘘だ。
なぜかって?そりゃ~そういう筋書きにしたのが
俺様と恵比寿丸とリッキーだからさ。
真実はこうだ。
魔王を倒した勇者も魔王を封印した石碑も存在しない。
千年前のあの日、魔王との戦いに勝利したのは勇者ではなく88、メルト88だ。
半径100キロ四方が消し飛ぶほどの熱量。その場にいた魔族で生き残ったのは
俺様とそのときに両腕を失った恵比寿丸、リッキーと
たまたま俺達の後ろにいたミッキーの4人だけだった。
ミッキーは3人の後ろに隠れ頭を抱えうずくまって震えているため顔はわからない。
ガリガリの体に黒い上着に赤い半ズボン、黒タイツという衣装だ。
魔王を倒したメルトはミッキーがたまたま持っていた腹話術の人形の中に
魔王がいなくなると退屈だから、とか言って魔王を封印しちまいやがった。
あの状況で生き残った栄誉を称え、メルトは
俺様、恵比寿丸、リッキーにメルトの名を呼ぶことを許可したが
ミッキーだけは許可しなかった。
許可しなかった理由を後で知ったのだがミッキーは本当にしょーもない魔族だよ。
リッキー曰く
「魔王様を倒したメルト様こそが真の魔王なり」
確かにその通りだ。
「メルト、お前が魔王になれ」
と俺様は進言したが
「興味がないよ」
恵比寿丸が問う。
「メルト様、なぜ魔王様を人形に封印されたのです?」
目を閉じ何か楽しそうなことを考えているような雰囲気の88。
「暖炉に蒔きをくべるように人形に封印した魔王に魔力をくべる。
そして今より強くなった魔王と・・・」
目を開け笑みを浮かべ
「また遊ぶのだよ」
魔王が人形に封印されたことを知っているのはあの場にいた4人だけ。
恵比寿丸が言う。
「魔王様の不在がばれると無用な混乱を招きかねん」
そこで俺様達は一計を案じる。
元々魔王軍に所属していたミッキーを魔王軍ナンバー2の地位に据え
人形に封印された魔王の維持管理を命じた。
人形使いのミッキーが適任だったからな。
ただ、ミッキーの魔力では魔王軍を統率するには力不足だったため
恵比寿丸が表向きは魔王城の管理人となり影ながらサポートすることにした。
これにより魔王が健在であるかのようにうまく見せかけていたのだが・・・。
300年前に阿修羅子という魔族が大暴れしてな。
その時に魔王不在がバレそうになったのよ。
メルトが阿修羅子を押さえ込んだことで魔族側には魔王不在を隠蔽できたが
ヒューマン側には別の内容で噂を流し沈静化を図った。
勇者が魔王を石碑に封印したってやつだ。
そういった意味じゃ、この時の勇者はメルトで魔王が阿修羅子なんだけどな。
噂ってのは面白いものでな。広まっていく過程で
都合のいいように改ざんされていくのよ。
まず勇者がどこの国の誰なのかはっきりしてねー。
そのため勇者の末裔を名乗る人物、民族、団体、国家は数知れず。
ある国家などは勇者の息子の嫁の弟の子供の孫によって
建国されたなどと風潮する始末。
ある国家は魔王を封印した石碑は我が国にあると言い張り国旗にまで描いている。
我が国の子孫が本物だ、いや我が国の石碑こそ本物だ!
と色んな国が言い争っている。
人心を掌握するためにその時その時の権力者により
都合のよい歴史に改ざんされファンタジー要素が加わることは多々あることだ。
千年前のメルトの圧倒的な破壊力を目にしたあの日から俺様は
メルトの破壊力を超える武器を作りたい。
メルトの破壊力に耐える防具を作りたい。
今日まで試行錯誤の毎日だ。
恵比寿丸は魔族にしては変わったやつでな。
「あの力を簡単に使わせてはならない。あれは我々魔族にとっても危険だ」
とか何とかでメルトが8式をぶっぱなさないよう今日まで色々と目を光らせてやがる。
「どうだ魔王城の方は」
「先日メルト様を挑発した愚か者を一人処分した」
「管理人も大変だな。どれ、見せてみろ」
カチャリと恵比寿丸から義手を取り外すドラロン。
義手をハンマーで叩き、ドライバーでネジの緩みを締める。
「最近、メルトから魔鉱石を大量に仕入れたのよ。
あまってるから義手に取り付けておくぜ。これでパワーアップするはずだ」
「ありがとう」
これもあとで知ったことだが魔王とやりあったときのあれは
8式ではなく88(ハチハチ)式というものらしい。
メルト曰く
「88式の先?あるよ。でもそれを使うと私は燃え尽きてしまうのだよ」
義手を恵比寿丸に装着するドラロン。
両手を顔の前に持ってきてグーパーを繰り返す恵比寿丸。
「問題ない」
「何かあったらいつでも来い」
「ありがとう、古き友よ」
「ガンガーン、恵比寿丸を玄関まで見送ってくれ」
ガンガンに見送られ玄関から出ていく恵比寿丸。
そして、外に出た恵比寿丸は魔方陣を展開し魔王城へ転移していった。
「古き友よ・・・か。そういや~リッキーの奴、元気にしてっかな?」
ゴソゴソと部屋の片隅で音がする。
机の上においてあるスパナーを音のなる方へ投げつけると
20センチほどの大きさの小鬼のぬいぐるみが飛び出してきた。
「何だ、ミッキーのやろう、今度はゴブリンあたりを贄にし始めたのか?」
ガシっと小鬼のぬいぐるみを掴むとプラカードを持っていることに気がつく。
進捗を報告せよ、と書かれてある。
「俺様、魔王軍の幹部じゃねーんだけどな」
そう言いながらドラロンはスーザンと書かれた高さ1メートルほどの
木箱でできたゴミ箱に小鬼のぬいぐるみを投げ捨てた。