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マリンのスカウト

2頭のサイボーグ馬が引く馬車が真夜中の街中をゆっくりと走っている。

客車の中には化粧をして着飾った若く綺麗なヒューマンの女性、マリンである。

客車の窓から外を見ると街角に立っている売春婦の女性が数人見える。

マリンは深くため息をついた。

「あの人達と私は同じ」

衣食住の不自由がないだけマシかもしれないが選択の自由が無い人生。

貴族のやりたいときに呼ばれ、終われば家に帰される。

マリンの自宅前と思わしき高級マンションの前で馬車は止まる。

馬車から降り高級マンションの中へ入っていくと馬車は走り去っていった。

寝室のベッドの上に座るとなぜか涙が一筋流れてしまう。

(ママもこんな気持ちだったのかしら)

右手の腕で目を押さえ、そのままベッドの上で仰向けになる。

最近は昔のことをよく思い出す。

「夕焼け小焼けのあかとんぼ・・・か」

次の日の夜、いつものように2頭のサイボーグ馬車が真夜中の街中をゆっくりと走る。

客車の中から外を見るといつもの場所で見かける売春婦達がいない。

ガタンと急停止する馬車。客車のドアがバタンと開く。

「金目の物を出せ!騒いだら殺す」

覆面をした強盗Aがナイフを突き出しマリンを脅す。

強盗Aの背後にはもう一人の強盗Bが御者の喉にナイフをつき立てている。

マリンは恐る恐る指にはめている指輪を抜き取り強盗Aに手渡そうとしたが

恐怖で手が震えて指輪を床に落としてしまう。

「クソ!面倒くせえなあ」

前かがみになり床に落ちた指輪を拾う強盗A。

強盗Aの背後の光景を見たマリンは思わず叫び声を上げてしまう。

「きゃあああああ!」

御者にナイフを突きつけていた強盗Bにガーゴイルが肩車の状態で乗っており

強盗Bの脳天にナイフが突き刺さっていたからだ。

「騒ぐなっていっただろ!殺されてーのか!」

「殺されるのはあなたの方ですよ」

「誰だ!」

振り返る強盗A。強盗Bは頭の上にナイフを差したまま突っ立っている。

眠らされたのであろうか。脱力した御者の腕を2匹のガーゴイルが支え

サーボーグ馬の近くへ引きずり移動させている。

辺りは霧が立ち込めている。カツン、カツンと足音が聞こえてくる。

霧の中の人影がだんだんと近づいてくる。現れたのはイシカワである。

「見られたからには生かしちゃおけねーな」

「ふむ・・・その台詞はこちらの台詞でもあるのですが」

「ぬかせ!こう見えても俺は冒険者ランクCよ。ファイヤーボール!」

イシカワに当たったファイアーボールは勢いよく燃え上がる。

「馬鹿め」

強盗Aの後ろからイシカワが耳元でささやく。

「あなたが燃やしているのはお仲間の死体ですよ」

頭にナイフの刺さった強盗Bの死体が勢いよく燃えている。

「火葬をする手間が省けましたかな」

「なめるな!くらえファイヤーボール!」

振り向きざまにファイヤーボールを放つ強盗A。

「何を見ているのかはわかりませんが、あなた、もう死んでますけどね」

ファイヤーボールを撃つ体勢のままで白めを剥いて絶命している強盗A。

「冒険者ランクCとのことですがこれくらいの精神操作で死ぬとは情けないですね」

ガーゴイルが4匹やってきて2体にわかれ強盗Aと強盗Bの死体を

引きずり霧の中へ消えていった。

客車の中で恐怖に震えるマリンを見たイシカワは

「あなたに危害を加えるつもりはありませんよ、マリンさん」

「どうして私の名前を・・・」

「私はあなたをスカウトしに来たのですよ」

   ●

マリンの家の客間。高級感のある家具に絨毯。

同年代の女性では到底実現できないであろう優雅な暮らしがここにはある。

高級なアンティークのソファーに座っているマリン。

マリンの2メートル前くらいに立っているイシカワ。

「そう警戒を・・・と言っても仕方ないでしょうかね」

「あなたは一体何者なんですか」

「申し送れました、私、オータム・イシカワと申します。魔族です」

「ま・・・魔族」

「はい、魔族です。マリンさんに危害を加えないことをお約束しますのでご安心を」

「魔族のあなたが私に一体何の用でしょうか」

「先ほども申しましたがスカウトしにきたのです」

「スカウト?」

「はい、実は私が作るアイドルユニット デスパラダイス7(セブン)に

 メンバーとして入っていただきたいのです」

「アイドル?何ですか・・・それ?」

「簡単に言いますと歌って踊って人々に笑顔を届ける職業、と申しましょうか」

「私、人前で歌や踊りなんて出来ません」

「問題ありません。アイドルに絶対的に必要なものがあなたにはあります。それは」

「それは・・・?」

「若くて綺麗な容姿です!」

あー言っちゃった~言い切っちゃった~。

人を見た目で判断しないで欲しい、とか炎上しない?

「すでにエルフ、ホビット、ドワーフに猫耳族にと6名をスカウト済みです。

 残る一人があなたです」

「でも私なんて・・・貴族の愛人の私が・・・」

「あなたはまだお若い。これからどんどんお綺麗になっていくでしょう」

「でも、私がいなくなったらママが困る。ママも同じ貴族の愛人なの」

「母親では飽き足らず娘までを愛人にするとは何とうらやま・・・いえ、非道な」

部屋の中を某刑事ドラマのインテリメガネのように動きながら

「いいですか。あなたのお母様はいずれ年を取り老いる。

 若さと美貌を失った時、きっと貴族に捨てられるでしょう」

振り返るとなぜか手にティーカップを持っているイシカワ。

「華の命は短いと申します。

 いずれあなたも年を取り老いる。

 美貌を保つのは大変です。

 お金もかかる。

 ヒューマンの中には美貌のために悪魔と契約をしてしまうものすらいるのです」

ティーカップを口元に運ぶその手は小指が立っている。

紅茶の香りを嗅ぎ、紅茶を一口飲むイシカワ。

「ここで貴族の愛人として生涯を終えるか。

 私が作るアイドルユニットに入って

 自分でお金を稼ぎ自由を勝ち取るかはあなた次第です、マリンさん」

「本当に自由を勝ち取れるの?」

「ねだるな、勝ち取れ。

 あなた次第です。

 そのための仕組みは私が用意して差し上げます」

イシカワは畳み掛ける。

「あなたがデスパラダイス7に入ってくださるなら

 私の術であなたの存在を貴族の頭から消し去って差し上げます。

 ついでにお母様の処遇が悪くならぬようにサービスで術を追加で掛けましょう」

「今すぐ決められません」

「わかりました。では決心が付くまでお待ちしますが

 一点だけ気をつけて欲しいことがございます」

「なんでしょう?」

「妊娠です。身重の体ではアイドル活動は出来ませんからね。

 では、決心がつきましたら私の名前を頭の中で3回連続でお呼びください。

 念話にて応答させていただきます。

 それでは今晩はこれにて失礼いたします」

そう言うとイシカワは転移魔法で去っていった。

「どうしよう・・・」

数日後の夜。

2頭のサイボーグ馬が引く馬車が真夜中の街中をゆっくりと走っている。

客車の窓から外を見るマリン。

いつもの街角で売春婦の一人が赤ん坊を背負っている。

もしかしたらあれは未来の私の姿かもしれない。

『一点だけ気をつけて欲しいことがございます。妊娠です』

貴族の愛人を続けている以上、妊娠のリスクは避けられない。

このままでいいわけがない。

頭の中でイシカワの名前を2回連続唱え、3回目をやめるマリン。

自由は無いが不自由の無い生活も捨てがたいものがある。

「簡単じゃない・・・やっぱり簡単じゃないもの」

昼間の洋館。

2頭のサイボーグ馬が敷地内の広い場所で待機している。

「ママ、その顔どうしたの?」

「何でもないのよ、マリン」

ここはマリンの母親の邸宅である。マリンの母親の右頬に青あざが出来ている。

「あの男に殴られたのね!」

「何でもないの、何でもないのよ、マリン」

今夜も貴族に呼ばれ、情事を済ませサイボーグ馬に揺られ自宅に帰る途中のマリン。

客車の窓から外を眺める目はうつろである。

これが私達親子の人生なのかしら。

街角に立っていた売春婦の一人がやくざ風の男に殴られている。

あの腐れ貴族に玩具にされる人生・・・。

「ママは私が守る。そして私も私が守る!」

イシカワさんイシカワさんイシカワさん。

マリンは頭の中で3回連続でイシカワの名前を唱えた。

「はい、イシカワです。マリンさん決心がつきましたか?」

脳内に直接声が響く。マリンも脳内で返答する。

「私、デスパラダイス7に入ります」

「おお、ありがとうございます!」

「イシカワさん、ママのこともお願いします」

「もちろんですよ。では、今晩ご自宅へお迎えに上がります」

こうしてマリンはデスパラダイス7の

最後のメンバーとして参加することになったのである。

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