スーザン誘拐事件
ここはドルチェ国第二の都市ポコヘン。
町の中央は半径2キロほどの平野が広がり中心から東西南北に
真っ直ぐに伸びる5キロほどの長さの道が4本ある。
この道は通称クロスロードと呼ばれている。
上から見るとプラス記号の中心に円が広がっている感じだ。
300年前、勇者と魔王が戦った際に出来たのが東西南北に伸びたクロスロード
だと言い伝えられているが、魔王は案外88だったりして。
なぜ、俺っちとスーザンがここにいるかというと特に意味はなく
首都ベルリンゲンへ行く途中にあったから立ち寄っているだけである。
ちなみにポコヘンまでマダラスカルからサイボーグ馬車で2日を要したのだが
スーザンの馬車代と宿泊代、食事代は全部俺っちが払った。
「シスターの私からお金を取るなんて神の天罰が下るわよ!」
といつものようにゴネたからである。
旅は道連れ世は情け。
一緒に旅をしてくれる仲間がいるのは楽しいことだ。
お金をたかられなければ。
それから遠方の旅にはサーボーグ馬が使われることが多い。
魔力で動くサーボーグ馬は疲れ知らずだからね。
「早速、道具屋に行って売りさばくわよ!レニー、ついて参れ!」
「神様、この町にサイボーグ競馬場がありませんように」
「何か言った?」
「別に~」
●
ポコペンの道具屋の中。
「ちょっとお~何で3体で金貨2枚なのよ!
サラダワンの道具屋じゃ1体金貨4枚で売れたのよ!
「このタイプのぬいぐるみは市場に多数出回っていて人気が無いんだよ。
サラダワンで売ったぬいぐるみは多分、希少価値があったんじゃないかね?」
「ッチ!わかったわ、金貨2枚で手を打つわ」
でたぁ!舌打ちシスター。でも慣れたー。
仕入れた商品が希望通りの価格で売れないこともある。
商売は買うより売る方が100倍難しいのだ。
まあ仕入れの元値はただなんだからいい商売だと思うよ、呪いのぬいぐるみ売り。
さて、スーザンの商売も終わったことだし、今晩の宿屋を探しにいくか。
「ここなんかいいんじゃない?」
宿屋ルネッサンス 1泊金貨1枚 と書かれた宿屋を指し示すスーザン。
「スーザンはそこに泊まるのね、じゃ!」
「あんたが私のために払うに決まってるじゃない」
「はぁ~?お前、道具屋でぬいぐるみ売って金貨2枚入ったじゃねーか」
「あれはサイボーグ競・・・いや、投資資金よ。
こういうお金は男である、
あ・ん・た・が支払うべきじゃないの」
「この際だからハッキリ言っておくがお前は俺っちの嫁でもないし、
ましてや恋人でもねえ。
ただのバンド仲間だ。
扶養する義務はこれっぽっちもねえ!」
「その通りだぜ、ベイベェ~。彼女は俺の嫁だぜ、ベイベェ~」
赤いバラの花束を沢山持ったリーゼント姿でエルビス・プレスリーのような
両腕の下にヒラヒラのついた白く派手衣装を着たおっさんが
スーザンと俺っちの前に立っている。
「ん?誰、この人。スーザンの知り合い?」
「知らないわよ、こんな人」
(でも、今、嫁って・・・)
「多分私のファンだと思うわ。ほら、わたし可愛いじゃん」
確かに見た目は可愛いが中身を知ってるからな~。
リーゼントのチリチリもみ上げのおっさんに近づいていくスーザン。
「ありがとう、花束だけもらっておくわ」
バラの花束を受け取るスーザン。
平櫛でリーゼントをかき上げながら
「それじゃ今から新婚旅行へGOだぜ、ベイベェ~」
左手をスーザンの腰に回すリーゼントのおっさん。
転移魔法が展開されスーザンと一緒に転移し、消えた。
突然のことで頭が混乱する俺っち。
「え・・・と、あ・・・これって、もしかして誘拐?マズイじゃん!」
どうする!冷静になれ!例のボタンで88に連絡?
いやこんな街中で白昼堂々、魔族を呼ぶのは目立つ。どうする!
ドラロン!そうだ、88を呼ぶにしてもドラロンのところから呼ぶのが懸命だ。
右手首の赤い腕輪を外し、左手首の緑色の腕輪へ重ね合わせる。
転移魔法が展開され、俺っちはドラロンの工房の玄関先へ転移する。
ピンポーン。ベルを鳴らす。いつものようにインターフォンでガンガンが対応する。
「いらっしゃい、レニー」
「ガンガン、緊急事態だ!スーザンが誘拐された!」
●
ドラロンの工房内。
「何?スーザンが誘拐された?」
「突然現れたリーゼント姿の腕にヒラヒラの何かをつけた
ベイベェ~とか言うやつに誘拐されたっす」
「まずいな・・・そいつぁ~魔槍士ドグマだな」
「ドラロン、そんな情報でよくわかっったっすね。知ってるんっすか?」
「変な髪形にベイベェ~って語尾。強烈過ぎて忘れろっていうほうが無理だ。
それにやつが持っているスターライトランスは俺様が作ってやったものだからな。
とりあえず、メルトに連絡だな。レニー、例のボタンでメルトに連絡してくれ」
左胸のポケットからジッポライターのようなものを取り出し、蓋を開けて赤いボタンを押す。
たらりらりらーん、りらりららーん。
●
魔王城の魔王謁見の間のドアの前にいる88と恵比寿丸。
身長は170センチ。金に近い銀色のサラサラのボブ。
軍人帽子は少し斜め、軍服っぽい衣装で上半身は赤にラインは黒。
ピチめの白いズボンと黒いブーツ。両手は白い手袋。
黒目に赤い丸に金色の8。スタイル抜群で相変わらず綺麗な88。
大概のヒューマンの男ならその美しさに心を奪われる。
88を最初に見たときに睨みつけたはいいが88の恐ろしさに気がつき
直立不動になって震え上がった経験がある身長3メートルの
2体の赤と青の門番の熊のぬいぐるみは今度は最初から直立不動で敬礼している。
ドアを開けて入っていく88と恵比寿丸。
たらりらりらーん、りらりららーん。
「急用が入った。悪いねミッキー、また今度ね」
そう言うと88はくるりと背を向け部屋を出ていってしまった。
「ちょっと待てって88、ちょい待てよぉ!」
カーテン越しのシルエットのミッキーが甲高い裏声で
木村○也のような口調で88を呼び止める。
クスっと笑う恵比寿丸だが白いマスクからはよくわからない。
「今、俺のことバカにしなかったか、恵比寿丸!」
「いえ、とんでもございません、ミッキー様」
たらりらりらーん、りらりららーん。
ガチャという音が鳴りアイアンメイデンから出てくる88。
「ドラロン、もうちょっと入り口を増やして欲しいのだよ」
ドラロンは呆れた表情で半ばあきらめ気味に
「ピンポン鳴らして玄関から入って来いって何回言わせんだよ」
●
いつものドラロンの2階のテラス。
白く丸いテーブルに俺っち達3人は座っている。
俺っちの右にドラロン、左に88。
「スーザンが誘拐されたのかい」
「犯人は魔王親衛教会の魔槍士ドグマだ」
「魔王親衛教会って何っすか?」
「その名の通り魔王を親衛してるやつらさ。魔族にとっては敵じゃねえかな」
「で、ドグマはどんな男なんっすか?」
「詳しくは知らんがつかみどころのねえ変な奴さ。
やっかいなのはガンガンの攻撃を2度かわしている。
そうだったよな、ガンガン」
「はい、マスター」
「ガンガンの攻撃をかわすとは中々だね」
「でも、なぜドグマがスーザンを誘拐したんっすかね?」
「あっ・・・」
「どうしたガンガン」
「ミノタウルス島でドグマと接触した際、
スーザンを嫁認定したと言っていました、マスター」
ド「嫁認定?」レ「嫁認定?」
●
とある洞窟内。
「マイディスティニ、これは決まっていたのさ」
スターライトランスを逆さまにしてマイクスタンド代わりに歌うドグマ。
牢屋に閉じ込められているスーザン。
「ちょっとあんた、歌なんか歌ってないでこの状況を説明しなさいよ!」
「それじゃ1時間後にまた迎えに来るぜ、ベイベェー。
それまでに新婚旅行はどこがいいか考えておいてくれ、ベイベェー」
「はっ?新婚旅行?誰があんたの嫁になるって言ったのよ。
あたしはシスターよ、結婚するわけないじゃない」
「ミノタウロス島で出会ったオートマターに
嫁認定したことを伝えるよう言ったぜ、ベイベェー。
返事が無いのは了解の証だぜ、ベイベェー。それに・・・」
「それに何よ!」
頬を赤らめ右に人差し指で鼻の下を擦りながらうれしそうに
「バラの花束を受け取ってくれたぜ、ベイベェー」




