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5、スクロール屋でスクロール購入。……だけど?

「これからどうする? まだ時間あるし、どうせならスクロール屋も案内しようか」

 銀行を出たところで、兄がそう提案してくる。

 俺が人形使いのスキルのスクロールを購入するつもりだと言ったからだろう。今銀行で入金したから、そのカードでスクロールは買えるはず。ならせっかくだから、今日このままスクロール屋に寄るのもいいな。

「じゃあ、お願い」


 兄の案内で、魔法やスキルが巻物の中に封じられている「スクロール」ばかりを専門に取り扱っている「スクロール屋」へと移動する。

 ダンジョン街は街の中央付近にシーカーに必要な店舗が固まっている構造らしく、こちらもさほど歩かずに、巻物の絵を簡略化した看板のかかった店の前についた。

 銀行よりだいぶ小さい店舗だ。木の扉には「開店中」という意味の板が引っかかってる、らしい。

 ただ、ダンジョン街で使われている言語はすべて、地球のものじゃない。少なくとも日本語じゃないから、俺には読めない。

 兄は「開いてる店は扉に鍵がかかってないし、閉まってる店は鍵がしっかりかかってるから、読めなくても問題ない」と、わりと適当な対処法を言いながら、店の扉を開いた。



「いらっしゃい」

 スクロール屋の店舗にいたのは、丸い眼鏡をかけたハーフリング種族の男性だった。老人姿で顎に白い髭があり、手にパイプを持っている。

 ハーフリングは小人の一種だ。ファンタジーで有名だから、俺でも知ってる。

(それにしてもこの人は、ダンジョン街に住んでるのに、ポーションで若返ったりしないのかな?)

 もしかしたら個人の好みで、わざと老いた姿をしているのかもしれない。


 店内には大きな木のカウンターがある。そのカウンターの高さは、小人には高すぎるはずなのに、その小柄な体格に合わせた蔓で編まれた椅子に座った状態で、彼の姿はカウンターより半身分、高くなっている。

(……ああ、カウンターの向こう側は、床の高さが違うのか)


 俺達の他には、客は誰もいないようだ。

 店内はカウンターの他には、木の椅子がいくつか置かれているだけで、商品のスクロールは展示していなかった。

 代わりに、こちらからは行けないようになってるカウンターの奥に出入り口があって、その奥の続き部屋に、木の棚いっぱいに、スクロールが積み重なって置いてあるのが見えている。

 スクロールは高額商品で貴重な品物が多いから、こういう販売形式になってるようだ。


「買い物かね」

 鷹揚な口調で話しかけられる。銀行の受付嬢とは、丁寧さが全然違う。

 おそらくこの人は店員ではなく、ここの店主なのだろう。他に店員もいないし、一人で店を経営しているのかもしれない。

「は、はい。えっと、人形使いの、スキルスクロールをください」

 俺はやっぱり初対面の相手に緊張しながら、希望の品を言った。


「ちと待ってな、今取ってくる」

 蔓の椅子から降りた店主が続き部屋へ向かう。彼は慣れた様子で、木の棚にある大量のスクロールの中から目当てのものを取り出して、こちらへ戻ってきた。

「これだ。ちゃんと証明書もついてるぞ」


 店主の手でカウンター上に置かれたそれは、赤い組み紐が巻かれた巻物といった見た目だった。

 正規のスクロールだという証に、スクロールの上に証明書の紙が巻いてある。日本語じゃないから読めないけど、ダンジョン街の正規の店舗なんだから、信用して大丈夫だろう。

「カードで支払いお願いします」

「おう。八千DGちょうどだ」

 俺が銀行カードを差し出すと、店主はそれを魔道具のレジに通す。それだけで会計は終わった。


「ここですぐ、スクロール使っちゃっていいかな?」

 買い物が終わった直後、兄が店主に向かってそう尋ねる。

(偽物の心配をしてる訳じゃないよな?)

 多分、高額な商品を持ち歩くより、この場で使ってしまった方が安心と思ったのかもしれない。

「構わねえよ」

 店主やはり鷹揚な様子で頷いた。


 俺は兄に促され、初めてスキルを得るという高揚感を感じながら、スクロールに施された紐状の封印を解く。解かれた赤い組み紐は、空気に溶けるようにして消えてしまった。

 スクロールを開くと、中に読めない文字が書かれていて、それが光る文字となって宙に舞った。それらはすぐに俺の中へ、吸い込まれるように消えてゆく。


「うわ」

 思わず声が出る。(なんかすごくファンタジーだ)と、まんまな感想しか浮かばない。

 あっという間にスクロールは白紙となって、そして次第にスクロール自体が透明になっていって、最後には手の中から完全に消えてしまった。

 手元に残ったのは保証書の紙だけだ。これでスキルを覚えたという事なのだろう。

 スキルボードを出して確認すると、空欄だったスキル欄に、ちゃんと「人形使い」の文字が足されていた。


「ちゃんと覚えてる」

「なんなら人形も、この場で作ってみたらどうだ?」

 じんわりと喜びを噛みしめていると、店主からそんな申し出がある。案外世話好きな性格なのかもしれない。

「やってみます」

 俺は頷いて、自分の中のスキルに意識を向ける。

 スキルはその内容を知りたいと意識すると、頭の中に説明が浮かぶ仕様だ。これなら説明書を無くして困る事もない。


「人形、作成」

 頭の中で浮かんだ説明の通りに、手を前に出して念じてみる。

 ……。

「あ、あれ?」

 何も起こらない。

 慌ててもう一度同じ手順を繰り返してみたが、やっぱり何も起こらない。

 俺が焦って店主の顔と兄の顔を交互に見やると、二人は驚いた顔をした。


「あ~、なんだ? ステータスボードには、ちゃんとスキル名が記載されてたんだろ? なら……おまえさんもしかして、まだ一度もモンスターを、倒した事がねえとか?」

 店主が気まずげに、片手で頭をガリガリ搔きながら尋ねてくる。

 俺は無言で頷いた。

「なら多分、ステータス不足が原因だな。スキルは使用するのに「氣力」が必要になるんだが、それが足りねえと、不発になったりすんだ」

 店主がバツの悪そうな顔をして言った。

「え……そうなんですか!?」

 俺は初耳の内容に、びっくりして大声で聞き返してしまった。


「あー、ほら、魔法を使うには魔力が必要だってのは、鴇矢も知ってるだろ? スキルは魔力を使うのも少しはあるけど、大抵は魔力じゃなくて、氣力ってのを使うんだよ」

 兄が追加で補足説明してくれる。

 それを聞いてようやく俺は、そういえばゲームでも、HPやMPの赤や青のバーの他に、スキルの使用に必要なバーが別にあったな、と思い至った。そのバーは緑か黄色だったような。ゲームによって違っただろうか?

(あれはなんて呼び名だっけ? AP? SPだっけ?)


 今思えば、ネットで調べたスキルの説明にも、氣力に関する記述はあったのかもしれない。氣力という存在を知らなかった俺が、その辺を無意識に読み飛ばしてた可能性もある。

 ……今はそれはいいか。それよりも、スキルを使えない事の方が問題だ。


「え、それじゃ俺、レベル上げるまで、人形を作れないんだ……」

 いきなり、思い描いていた計画が破綻してしまった。

「まあ、人形使いのレベル1のスキルなら、1回から3回くらいレベルアップすりゃ、使えるようになんだろ。種族とか個人差とかで多少は差が出るが、大体そんくらいで、使えるようになるはずだ」

 流石スクロール屋を経営しているだけあって、その手の事に詳しいのだろう。店主から、そんなアドバイスを貰えた。

「そ、そう……なんですか」

 目安がわかって、少しだけほっとする。


「あれ、もしかして今のままじゃ、もし魔法のスクロールを使ったとしても、魔力も足りなくって、魔法も使えないかもしれないのか。……俺は初心者の頃は前衛オンリーだったし、先にレベル上げてからスキル覚えたから、そんなんなるって知らなかったわ」

 兄もきまり悪げに頭を掻く。

 言われてみればその通りかもしれない。レベル1の段階で氣力が足りないって事は、魔力だって、魔法を使う最低限に足りてない可能性はある。

 一度もダンジョンで戦いもせずに、真っ先にスクロールを買いに来るって、少数派だったのかもしれない。



「ま、まずはレベル上げを頑張るんだな」

 店主に励まされ、俺はただただ頷くしかできなかった。

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