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29、新魔法と人形専用スキル

「うーん、どうしたものか」

 今後の方針について、俺は悩んでいた。

 気配察知のスキルで、事前に周囲に他の群れがいないか確認して戦っているのに、イヌの斥候役は遠くからでも察知して、自分の群れを呼び寄せて参戦してくる。そのせいで、完璧に躱す事ができずにいる。

 もっと短時間で戦闘を終わらせられれば良いのかもしれないが、連携してくる群れを相手にするとどうしても時間がかかって、短時間でケリをつけられない。

 気配隠蔽スキルは存在するけど、戦闘中には効かないらしいので意味がない。

 戦闘中に音や気配を殺して戦うというのも、現実的には無理だろう。こちらが気を付けても、敵がそんな事を慮ってくれるはずがないし。


 ……結局、戦力を高めて強くなるくらいしか、対処法が思いつかないでいる。

 この問題のせいで、7層は長引きそうだ。

 8層のヒツジはこの問題に加えて、モンスターが魔法まで使ってくるようになるというので、更なる困難が予測される。

 もし今8層への階段を見つけられたとしても、複数のイヌの群れを確実に倒せるようになるまでは、その先に進む選択肢はない。


 俺は今後の為にも、何か新たな戦力が欲しいと思った。

 けれどネットで探してみても、イマイチ良いと思えるものが見つからない。

 以前考えていたように、石躁に土操作の魔法を覚えさせようかと考えてもみたけど、そもそも最初に覚えさせたストーンウォールが魔力をかなりたくさん使う魔法で、石躁にそちらを使わせると、他の魔法を使わせるだけの魔力が残らないのだ。

 それに、もしストーンウォールを使わずに、土操作で落とし穴を作ったとしても、中途半端な深さでは、イヌが落とし穴を登ってきてしまうのではという懸念もある。

(いずれ土操作は覚えさせるにしても、今のタイミングじゃない気がする)


 石で尖った石柱を生み出す「石柱撃」という魔法の方は、石の単一属性だし、攻撃力がかなり高いらしい。

 ただその分、消費魔力もかなり多いから、もし使うならストーンウォールを使う分の魔力は残らなくなるだろう。完全に攻撃重視の戦法になる。

(攻撃力と防御力、どちらを重視すべきか)

 ……一応、石柱撃も購入候補には入れておこう。他に良さそうなものも見つけられない。

 そこで思い切って、いつものスクロール屋の店主に、お勧めのスクロールがないか訊いてみる事にした。専門職なら何か良いものを知っているかもしれない。



「そうだな、石柱撃も悪くない。それと火魔法なら、ファイヤージャベリンなんかも強力だぞ。その分、一回でかなりの魔力を食うがな。あれは火に少しの風って属性だから、ファイヤーボールやファイヤーバレットと同じ系統だしな」

「おお、それはボールやバレットよりも強いんですか」

「強いぞ。イヌ相手なら、一撃で1匹、確実に殺れる。範囲魔法のファイヤーレインなんかもあるが……、あれはもっとレベルの高いヤツ向けだな。多分今のおまえさんのレベルじゃ、精霊の方も魔法を扱えねえだろうしな」

「なるほど……」

 店主のとても的確な助言に感心する。


 俺と精霊の今現在の基礎レベルと魔力では、まだ使えない魔法というのが存在する。

 群れを相手に戦うのに範囲魔法があれば有利そうだけど、扱えないのでは仕方ない。ファイヤーレインの方は、レベルが上がったらまた考えよう。

 それより、ファイヤージャベリンは良いな。一撃必殺はすごい。今のレベルじゃ、一度使えば1時間以上、炎珠の再召喚ができなくなってしまうだろうけど、それでも有用そうだ。ぜひとも欲しい。

 石柱撃は確か3万5千円だったはず。一応今日はそれを買うのも視野に入れて、4万円分をDGに換金して、カードに入れてきてある。


「ファイヤージャベリンはいくらですか?」

「3千500DGだ。ああ、あとはそうだな。あんま知られてねえが、人形専門のスキルなんかもあるぞ。例えば「硬質化」とか「小型化」とかな。小型化の方は、うちの店には在庫が置いてないがな」

 店主が更なるお勧めを教えてくれた。

「え!!! 人形専用って、そんなスキルがあるんですか!? スキルって、誰でも覚えられるものじゃなかったんですか!?」

 俺は驚いて大きな声を上げてしまった。

 特定の存在しか取得できない専用スキルがあるなんて、初めて知った。

 俺はこれまで、スクロールさえ買えば誰だって、どんなスキルだって覚えられると思っていた。

 だけど、考えてみれば精霊のように、スキルをまったく取得できない種族もいる。逆に、普通の人には取得できないスキルを取得できる種族がいたって不思議はないのか。


「ああ。竜人のような一部の種族だけが使える「咆哮」や「ブレス」みたいな特殊スキルも、数は少ないが存在する」

「なるほど、そんなスキルもあるんですね」

 俺は感心しきりだ。そんな特殊なスキルが存在するなんて知らなかった。ネットにも調べた限りじゃ載ってなかったと思う。知る人ぞ知る、というヤツだろうか。

 それよりも、今の事態を打開できそうな「人形専用スキル」の存在。こちらの方が重要だ。

 人形に専用スキルがあるなんて、想像もしていなかった。もっと早くここに質問にきていれば良かったと、悔やむほどだ。

 小型化の方は今のところ使い道が思い浮かばないけど。狭い場所に潜りこむような場合にでも使うのだろうか。


「使えないスキルは組み紐を解けないから、無駄にする事はねえ。売っちまえば良い」

「スクロールってそういう仕組みになってたんですね。……そうだ、小型化が存在するって事は、もしかして、巨大化スキルもあったりしませんか?」

 巨大ロボのように10メートル超えの人形とか、すごくロマンなんですけど。

 単純に考えれば、大きいって事は強いって事でもあるし。あるならすごく役立ちそうだ。

「いや、それは聞いた事ねえな」

「そうですか……」

 巨大化スキルがないらしいのは残念だ。しかし、まだ希望は潰えていない。


「では、硬質化というのは、どんなスキルなんですか?」

 既に持っている「剛体」スキルとは、また違う効果なのだろうか。もし剛体と重複で使用できるなら、戦力の強化になる。気になるところだ。

「パッシブスキルでな。レベルが上がるほど、人形の表面が木肌から金属質に変化していく。金属質になった表面は、更にレベルが上がれば、その表面の金属の硬度が増していくってスキルだ。おまえさんの人形に合うんじゃないか?」

(おお! 良さげなスキルだ!! 防御力アップ!?)

 小型化と違って、こちらはわかりやすく有用なスキルだと思う。表面が金属質になって硬くなれば、攻撃を受けても破損しづらくなるだろう。


「すごく良いと思います! ぜひ買いたいです。あ、剛体スキルと併用ってできますか?」

 気になっている部分を質問する。

「剛体スキルは体を氣でできた薄い膜で覆うスキルだからな。併用できるぞ」

 それなら問題なく人形の強化になる。

 硬質化スキルはぜひとも人形全員分を買い揃えていきたい。

「それなら良かったです。硬質化スキルってひとついくらでしょうか」

「ちと高けーな。ひとつ5千DGだ」

 カードに4千DG入れてきたが、残念ながら硬質化のスクロールには足りなかった。

 硬質化すれば防具をつけているのと同じような効果が得られるだろうから、スクロールの値段がひとつ5万円相当というのが高すぎるとは思わないけど。

「では今日は、ファイヤージャベリンのスキルだけ買います。硬質化の方は、またお金を貯めて買いに来ますね」

「おう、そうしな。在庫は人形分揃えとくからよ」


 そんなやり取りがあって、新たに硬質化スキルを人形全員分購入する事が、当面の目標に決まった。

 そういえば石躁用の石柱撃スキルも悪くないって店主も言ってたし、こちらも攻撃力を強化する選択肢として、今度買いにこよう。


「ちなみに、他にも人形専用スキルってあるんですか? 巨大化はなくても、他に何か役に立ちそうなスキルがあれば、買いたいと思うんですけど」

 サイトにはそんなの載ってなかったし、ここで訊くくらいしか調べようがない。よっぽどマイナーな扱いなのか、あるいは他の人形使いの人達が、わざと秘匿してるのか。あるいは俺の調べ方が悪いだけかもしれないけど。どうなんだろう?

「どうだったかな。俺はそのふたつくらいしか聞いた事ねえが。気になるなら、他のスクロール屋の連中に、今度訊いといてやるよ」

「ありがとうございます。ぜひお願いします」

 スクロール専門の店をやっている店主が知らないなら望みは薄いかもしれないが、もし他にも人形専用スキルがあれば儲けものだ。俺は期待を込めてお願いしておいた。




 数日、慎重に敵の数を見極めながらイヌと戦っていく。

 炎珠に覚えさせたファイヤージャベリンはかなりの威力で、当たれば確実にその個体を仕留めた。

 一撃でイヌを仕留められるだけの威力の攻撃は、今のところ他の誰も持っていない。炎珠の攻撃力が上がった事で、少しだけ殲滅速度が上がった。

 ただ、一度召喚してファイヤージャベリンを使わせると、その後1時間半は、炎珠の召喚ができなくなってしまった。一撃で炎珠が魔力切れに陥ってしまう為、クールタイムが通常より長くなってしまうのだ。


 最近では、あの独特な遠吠えが聞こえたら、即座に撤退するのを徹底している。迷うだけ危険になるのだ。できるだけ素早く撤退した方がダメージは少ない。

 手慣れてきたら、ステータスボードの操作も数秒で、手早くできるようになってきた。

 怪我も死亡もダンジョンを出ればなかった事になるとはいえ、やはり余計なダメージは負いたくない。





「こんにちは」

 今日は一人分の金額が貯まったので、またスクロール屋に硬質化スキルを買いにきた。スキルを覚えさせる予定の青藍も、一緒に連れてきている。

「今日は硬質化をひとつお願いします。またお金が貯まったら、他の人形の分も買いに来ます」

「おう、今持ってくる」

 店の奥部屋のスクロールを積み重ねてある棚の中でも特に取りづらそうな高い位置から、店主がはしごを使って目当てのスクロールを取り出してきた。人形専用のスクロールって、他と比べてあまり需要がないのかもしれない。

「これだな」

「ありがとうございます」

 買い終わってすぐに、青藍にスクロールを使用させる。早く他のみんなの分も揃えてやりたい。



(……だけど、これだけじゃまだ足りない気がする)

 やっぱり、レベルを上げて戦力となる人形の数を増やすのが、一番の近道だろうか。

 幸い、人形使いのスキルレベルは15に上がったところだ。新しい人形が作れる16まで、そう遠くない。

 硬質化スキルが育って人数も増えれば、少しはマシになるだろうか。

 それともまだ他にも強くなる手段を講じないと、複数の群れには通用しないだろうか。

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