表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/176

24、中学2年生に進級、6層へ降りてみる

 春休みが終わって俺の学年も2年に上がった。

 クラス替えが行われたが、幸い雪之崎くんとはまた同じクラスになった。最近は小学校の頃よりもずっと自然に話ができる間柄になっていたので、クラスが同じになれて嬉しい。

「今年もよろしく」

「うん、よろしく」


「君達、去年も同じクラスだったの?」

 教室の隅で目立たないように小声で会話していたのに、俺達に声をかけてくる存在がいた。

「そうだけど……」

 いきなりの事に戸惑いながら声をかけてきた相手を見ると、中性的でとても目立つ容姿をした、麗人とでも評したくなるような見た目の男子生徒が立っていた。

 長い前髪を斜めに流して片目が隠れないギリギリにセットしている。後ろ髪も肩につくかつかないかといった長さ。校則に引っかからないのか微妙な髪型な気がする。

 身長はやや小柄で俺達と変わらないくらいだけど、にっこりと満面の笑みを浮かべる人懐っこい雰囲気は、どうも俺達とはタイプが違う気がする。……別に僻みとかじゃないけど。

「あ、俺は更科さらしな つぐみ。新しいクラスに知り合いがいないみたいで心細くてさ。仲良くしてくれると嬉しいなっ」

 その笑顔や立ち振る舞いは明るく社交的で全然心細そうには見えなかったけど、自己紹介されたからにはこちらも返さねば。

「そうだったんだ。僕は雪之崎ゆきのさき 一途かずみち。これからよろしくね」

「えっと、俺は鳴神 鴇矢。よろしく、更科くん」

「俺、趣味で動画投稿とかブログとかやってるんだ。あ、心配しなくても、興味なければ無理に見て欲しいとか、動画に出演して欲しいとか言わないからさっ、そんな構えないで」

「あ、はは。ごめん。いきなり動画とか言うから、ちょっとびっくりしちゃって」

 自己紹介の続きなのかいきなりそんな話題が出てきて、俺達はかなり引いた。顔にも微妙な感情が出ていたらしく、苦笑した更科くんに宥められてしまった。

「動画配信っていっても顔出しナシで趣味でやってる個人勢だし、登録者も少なめだしっ。内容も雑談とかゲーム配信とか誰でもできる事ばかりだけだから、特別な事はなにもしてないよ? ブログだって食べ歩きレポとかのありふれたものだしね」

 配信内容や視聴者の人数云々を言う以前に、まだ中学生なのに自主的に動画やブログを発信しているというバイタリティー溢れた行動力に驚いて、自分との違いに引いたというか。その辺りの感情の機微は、うまく説明できない。だけど、動画配信やブログ自体は悪い事でも何でもないのだ。あからさまに引いたのは失礼だったな。


「ごめん、変な反応しちゃって。楽しめる趣味があるのは良い事だよね」

「僕もごめん。そうだよね。色んな事に積極的にとりくめるのって、すごい事だね」

「あはは、ありがとう。君達は何か趣味はないの?」

 俺と雪之崎くんが慌てて謝ってフォローすると、更科くんは気にしてないよとにこにこ笑った。そして気まずくなるような間を置かずに、続けてこちらに話題を振ってくる。

「僕の場合は……ダンジョン攻略が、趣味といえばそうかな……?」

「俺もそうかも。普段はダンジョンに行ってばかりかな」

 せっかく相手から気遣って話題を振ってもらっても、わいわいと楽しく語れるような趣味がないのがアレなんだけど。

 俺と雪之崎くんの一番の共通点は多分、ダンジョン攻略にかける熱量だろう。二人とも学校外で友達と遊ぶより、その時間を少しでも攻略に当てたい性分なのだと思う。そういうところが似ているから、お互い学校外の遊びに誘われる心配もなく、気軽に話せるというか。


(前世の記憶が戻って以来、ダンジョン以外に夢中になれるものがないんだよな)

 これは記憶が戻った弊害ではなく、記憶が戻る前の俺が、日々を無気力に過ごしていただけだ。ここは夢中になれるものができたのを喜んでおくべきだろう。その副産物で、勉強にも力を入れるようになったのだし。

 ダンジョンに潜る際に補習などで時間を潰されるのが嫌だという不純な動機ではあるが、1年生の最初の中間テスト以降は一度も赤点を取らずに、ここまで成績をほぼ平均レベルでキープできているのだ。勉強が苦手な俺なりに、わりと頑張ってると思う。


「そっか、ダンジョン攻略かー。俺もダンジョンには行ってるよっ。たまにネタで変わったスキル取ってみたりとか」

 にこにこと笑顔を崩さない更科くんとの会話は、新学期の集会が始まるので、体育館に移動しようとなるまで続いた。俺は内心、慣れないタイプとの会話に、少し気疲れしてしまった。

 だが、その後も更科くんは、ちょくちょく俺達に話しかけてくるようになる。これまで俺の周りにはいなかったタイプとの付き合いが、こうしてなし崩しに始まったのだった。



「青藍、新しい片手剣だ。これで鉈を卒業だぞ! 剣術スキルも買ったから、これからは剣を使ってくれな」

 ゴールデンウィークには青藍用の片手剣と剣術スキルを購入した。

「炎珠、これを覚えてくれ」

 スクロール屋でスクロール購入後に炎珠を呼び出して、ファイヤーバレットの魔法を覚えてもらう。

 精霊が魔法を覚える際は、念力なのかスクロールが自動で空中に浮かびあがって、赤い組み紐もひとりでに解けるので、ちょっと面白い光景になる。

「よし、無事に覚えられたな」

 俺が頷くと、炎珠も本体の炎をゆらりと揺らして答えてくれた。

 魔法を覚えてしばらくすると、召喚時間が切れて、炎珠は帰還する。俺は店主に挨拶してから店を出た。



 他にも、以前は見送ったランドセルを、改めて青藍に背負わせてみたり、腰につけるポーチを人形全員分買ってきて、身につけさせたりした。

「みんな、覚えておいてくれ。もし俺が怪我でもして、自分で薬が飲めなかったり、先にもう薬を使って持ってなかったりした場合、この赤色のポーションを使ってくれな」

 一応、持ち物の説明もしておく。基本は自分で持ってるのを使えば事足りると思うけど、万一に備えて。

 ポーチの中身はポーション類や、包帯といった小物だ。俺が怪我した場合に備えて、彼らにも普段から持ち歩いてもらう事にしたのだ。コアクリスタルくらいならポーチでも十分収納できるから、持ち運びも手伝ってもらえるし。

 俺用には新たに体力増強スキルを購入した。疲労がない人形達にはこのスキルは必要ないが、元々の体力が少ない俺にとっては、とても有用なスキルだ。戦闘継続可能な時間が増えてれば嬉しい。

 夏が近づいてくる頃になって、ようやくブタを3匹同時に相手にしても、安定して倒せるようになった。

 これでいよいよ6層に降りられる。初心者ダンジョンも、ついに前半を終えた事になる訳だ。





「……ここが6層か。今までと全然違うな」

 周りの景色を見渡して、俺はぽつんと呟く。

 6層はこれまでの石畳の通路と違って、ダンジョン内部に青空と広い草原が広がる、環境型の景色に変わった。

 ところどころにある木と石柱の他は、草ばかりの空間。草の背丈は足首より低く、視界を遮る事はない。

 ところどころに生えている木は、葉が生い茂っていて何の木かわからないものもあったが、半分くらいは背が低めの林檎の木だった。季節に関係なく赤い実をたわわにつけている。これも採取すれば食べられそうだ。

 一応、一度買い取り窓口に持って行って、食べられるものかどうかの確認はしておくか。

(後で少し、林檎も採ってみるか。でも採取に時間がかかるだろうし、偶に採るくらいでいいかな。できるだけモンスターを倒すのを優先したいし)

 買い取り窓口で林檎が売れるなら収入の足しにはなるだろうけど、いくら採っても経験値の足しにはならないのだ。それならモンスターを相手に戦った方が良い。


「ここの石柱は棒線が2本で、針はまっすぐ、と」

 少し近くを歩き回って、あちこちにある石柱の仕様を確認する。

「斜めに移動すると、針がその分だけ、ずれて表示されてるな。……この針はコンパスの方位か」

 脱出用石柱の柱部分には、棒線と指す先が固定されたコンパスが設置してあったのだ。

 棒線の数の増減で、5層と繋がる階段の傍にあるゲートからの距離を表していて、固定されたコンパスの針が、ゲートの方角を示している仕様のようだ。

 石柱にそのような仕掛けが施してあるのは、次の層へ行く階段を探すのに、地形を把握しやすいようにだろう。相変わらず親切設計なダンジョンである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ