23、武器の変更と初のスクロールドロップ
資金を貯めて、まず俺の武器を槍へと変更する事にした。
槍を日本で買って家まで持って帰るのは、どうにも微妙な気がしたので、ダンジョン街の武器屋へと買いに行く事にした。
富山の黒部市にある特殊ダンジョンのダンジョン街には、結構よく来ている。今回はスクロール屋の隣の隣に店舗を構えている武器店に入る事にした。武器屋の看板は剣と盾の絵だ。これはわかりやすいな。
「いらっしゃい」
店内で迎えてくれたのは、エルフの背の高い男性だった。金髪に深い緑の色の目をしている。武器屋だからなのかそれなりに筋肉がついていて、エルフにありがちな、線が細いというイメージはない。でもエルフは弓が得意というのも定番だし、弓を使うならそれなりに筋肉がついていても、不思議ではないのか。
ここでも店内に一人しかいないし、おそらく彼が店主なのだろう。
「こんにちは、槍を見せてください」
「そっちにある」
エルフの店主が雑多に置いてある武器の中から、一方を顎で示す。表情を殆ど変えずに淡々とした話し方をする人だなと思う。母方の従兄弟がちょうどそんな感じなので、こういう人にはなんとなく馴染みがある。
「人形に武器を?」
「いえ、その、今回は俺の分の槍を買おうと思っています。またお金が貯まったら、人形の分の盾や槍を買いたいと思って、今回はどのくらいのサイズなら持てるか、確かめる為に連れてきました」
端的に問われて、焦りつつ答える。今日、俺は青藍と紅を連れてきていた。
人形達はまだまだ体躯が小さいから、どれくらいの重さや長さなら扱えるのかわからず、実際に持たせてみなければ判断できないと思ったのだ。
「おまえの槍は、これかこれを勧める。値段はこれが3000DG、これが4000DG。人形は、盾はまだ、小盾の方が良いだろう。これが2500DG、これが3500DG。人形用の槍も、普通の長さはまだ早い。短槍にすると良い。これが2500DG、これは3000DGだ」
店主はカウンターの内部から出てきて、武器をたくさん置いてあるこちら側までやってくると、あっという間にお勧めの品を、それぞれふたつずつ出してくれた。俺が初心者と見抜いて、俺にとって買える範囲の値段のものを勧めてくれたようだ。
今日、俺が用意してきたDGは5000DG。(五万円分)
とりあえず、自分用に勧められた槍を、順番にどちらも手に持ってみる。刃と柄の長さがそれぞれ少し違う。4000DGの方がなんとなく、手にしっくりと握りやすい気がした。
「それじゃ、俺の分はこれをください。次回どちらを買うか決めるのに、人形達に武器を持たせてみて良いですか?」
俺用の武器は無事に今回買える範囲だったが、青藍と紅の分はやはり予算が足りず、次回以降だ。
「そうすると良い」
店主に許可をとって、二人にそれぞれの武器を持たせてみる。どっちが良いか聞いてみると、青藍は3500DGの小盾を、紅は3000DGの短槍を選んだ。合計で6万5千円分か。一度に買い替えるのは難しいかな?
「ではこちらを。小盾と短槍は、次に来た時、まだあったら買いますね。またお金を貯めてきます」
「わかった。今回はこれだな」
俺が選んだ槍を差し出すと、店主はすぐに槍を手に取り、穂先を包む鞘なども含めて最終確認をした。
槍は腰に装備できないので、槍を背中に背負う為の皮の肩掛けベルトも一緒に買う事にする。
勧めてくれる武器がちょうど良かったし、またこの店に来よう。会計をカードで済ませて店を出た。
こうして俺の武器を槍に変更した。そして後日、槍の扱いを補助する為に、槍術スキルも追加で買った。
俺がこれまで使っていた鉈は、青藍に持たせる事にした。
そして青藍が使っていた短剣は俺の予備武器とする事に決めた。
「青藍、今度からは青藍がこの鉈で戦ってくれ。で、そっちの短剣は俺にくれな」
青藍がこくんと頷くのを確認して、武器を取り換える。短剣はベルトで腰から提げた。槍は背中だから、干渉する事はない。
人形達の役割分担を考えて、青藍はいずれ片手剣に盾を合わせ持った、攻守のバランスが取れたスタイルの剣士として、育てていきたいと決めた。
まあ、今はまだ、持っているのは鉈だ。それに剣と盾とそのスキルを同時に買い揃えるのは、金銭的に難しい。
なのでまずは、小型の丸いバックラーと盾術のスキルを買う事にしたのだ。武器の方はもうしばらく、鉈で我慢してもらいたい。
2週間くらいで小盾とスキルの代金分の金額が貯まったので、俺の次は青藍の装備を整える。
「青藍の盾の購入完了だな。今度から、これを使って戦うようにしてくれ。青藍は守りの要になれるよう、頑張ってくれな」
買い与えた盾を、、青藍は一度掲げ持ち、意気揚々といったイメージで腰に装備した。この盾は普段は腰から提げて、戦闘時には片手で持って戦ってもらう予定だ。
その後はまた2週間ほどで、紅の武器を短剣から短槍へと変更し、槍術スキルも取らせた。
「今度は紅の武器だな。この短槍を使ってくれ。攻撃隊長としてみんなを引っ張っていってくれ」
紅もまた、俺の渡した新しい武器を喜ぶように、短槍を高々と掲げてみせた。
紅はこのまま、攻撃の要の槍使いとして育てていきたい。今は短槍だが、紅がもっと大きく育ったら、武器も短槍から普通の槍へ、そして長槍へと、随時変更していく予定だ。
俺も今回は槍を買ったけど、いずれ戦力が充実してくれば、全体を見渡せる後衛に下がりたいしな。
「紫苑の新しい武器の更新は、もうちょっと育ってからな」
紫苑もいずれは弓を持たせる予定だが、今回は新しい武器とスキルの購入は見送った。まだしばらくは短剣装備のままだ。もう少しレベルが上がったら、今度こそ専用武器とスキルを用意してやりたい。
今回買った武器はすべて初心者用のものばかりだが、それでもそれなりに値が張って、これだけ揃えるにも時間がかかった。
それでも頑張って武器を更新した甲斐あって、変更を進めていくにつれ、ブタ狩りも段々安定するようになってきた。とはいっても、まだ1匹相手が精々で、複数同時には戦えないが。
紫苑もレベルが上がって大きな破損はしなくなっていったので、ほっとした。
ブタのレアドロップは効果がわからない謎の錠剤だった。小さなガラス瓶に、いくつかの楕円形の紫色の錠剤が、まとめて入っている。これも家の救急箱には常備されていないものだった。今度鑑定してもらえば良いかと、部屋に保存しておく。
豚肉は通常ドロップ品として様々な部位が頻繁に入手できるので、適度に日々の食事用に料理してもらっている。使い切れない分は、売る用に取っておいてあるけど。
母からは、「鴇矢もついに5層まで辿り着いたのね」といたく感心された。
中学1年が終わって春休みに入った。前世の記憶が戻ってダンジョン攻略を始めてから、もう一年になる。
休み始めの今日もまた、延々とブタを狩り続ける。
その日、ブタを倒したところでスクロールがドロップした。
「ええっ!! スクロールって、初心者ダンジョンでもドロップするものなんだ!?」
ドロップしたスクロールを前にして、俺は驚きで大声を上げてしまった。
初めて自力でスクロールを手に入れた事になる。これは感慨もひとしおだ。
(魔法かスキルか、どんなスクロールだろうな)
見た目だけでは何のスクロールなのか、判断がつかない。鑑定してもらう為に、他のドロップ品と一緒に、協会の買い取り窓口まで持っていった。
結果、初ドロップのスクロールは、「剛体」というスキルのスクロールだった。
剛体とは、氣の力で体の表面を一時的に薄い膜で覆って保護して、敵からの攻撃ダメージを軽減するスキルらしい。パッシブでなく、必要に応じて使うタイプだ。窓口でスクロールの種類を教えてもらった時に、そのスキルの内容も一緒に教えてもらった。
(おお、有用なスキルだ! 知ってたら、もっと早く取ってたかも)
一度売ってからまた買い戻すより、自力で手に入れたものをそのまま使う方が、値段的に安くつく。当然窓口には売らずに、手元に引き取った。
誰に使うか迷ったが、まずは俺が使用する事にする。痛覚がある唯一の人間としては、攻撃ダメージを軽減できるのは、非常にありがたい機能だ。でもできれば俺だけじゃなく、人形達にも全員分、このスキルが欲しい。
まあ、こんなふうにドロップで欲しいスキルが手に入るなんて滅多にないだろうから、コツコツとお金を貯めて買い集めよう。
ちなみに、レアドロップ品の見覚えのない錠剤の正体は、避妊薬だった。そりゃ家には常備してないはずだよ。俺もいらないから、錠剤は全部売り払った。錠剤のたくさん入った小瓶ひとつで2400円だった。
「今日も今日とて頑張るぞー」
人形達を引き連れて、毎日ブタとの戦いだ。
6層への階段は既に見つけたのだが、まだまだブタ複数を相手にしては、安定して狩れていない。なのでそのまま、ブタとの戦いの日々が続く。
「よし、これでちゃんと全員分、揃ったな」
春休みの半ば頃、全員分の剛体スキルを購入できた。その効果もあってか、春休みの終わりには、ブタが2匹同時に出ても問題なく戦えるようになっていた。
5層は3匹以上同時には出現しないので、3匹を相手に危なげなく倒せるようになれば、6層に進んでも問題ないだろう。




