15、ゴールデンウィークはネズミ狩り、二体目の人形作成
明日からは五月の連休、ゴールデンウイークだ。この休みに今度こそ、2層に活動の場を移したい。
いい加減、1層から卒業したいって気持ちも勿論あるけど、ネズミの素早さに、目や動きを慣れさせる為だ。
相手に逃げられるのは織り込み済みだ。その上であえて、ネズミ狩りに切り替えていきたい。
「俺も青藍もレベルが上がったんだし、いけるはずだ」
自分に言い聞かせるように呟く。喋れないから、ただこちらを見上げるだけの青藍に、「今度こそネズミをやるぞ」と、つい熱心に語りかけたり。
平日も休日も、時間さえあればダンジョン1層で延々とスライムを狩り続けた結果、俺は人形使いのレベルが5まで上がった。
青藍は基礎レベルが5に上がり、初期スキルである自動修復、自律行動、学習知能の3つのスキルも同じく5に上がった。後から新しく覚えた身体強化のスキルは3だ。強化は素早さを選んだので、筋力+1、素早さ+3になった。
一応、二人とも成長しているのだ。今度こそ、ネズミのスピードに追いつければ良いな。
「はあ、はあ……今回は成功した」
この手で倒したネズミの死体が消えていくのを眺めながら、上がった息を整える。
「今回は成功したな」
レベルを上げたのが功を奏したのか、今回は、ネズミになすすべもなく逃げられるだけという結果にはならずに済んだ。
まあネズミの討伐率は今のところ二割以下で、まだ殆どの相手に逃げられている。だけど、それでもまったく倒せない訳ではない。こうしてなんとか倒せる時もある。
この討伐率だと1層より効率は悪いかもしれないが、少しずつでも倒せるのなら儲けものだ。
慣れていけば討伐率も上がると期待して、連休中は予定通り、2層でやっていこう。
「青藍、こっちに追い込んでくれ!」
「あ、逃げられたっ、今度はそっちに回り込んで!」
青藍にネズミを追うのを任せて、俺は定位置で待ち構える作戦にしても、小さいネズミの体に刃を当てる為には、ある程度は瞬時に移動して、立ち位置を調整しないといけない。スライムを相手にするのとは比べ物にならないくらい、運動量が増えた。
「はあ、はあ、ちょっとだけ休憩。青藍、周りを見ててくれ」
見張りを青藍に頼んで、立ったまま息を整える。
激しい動きにすぐ息が切れるけれど、少し休めば、また動けるようになる。
前は体力がなくて、こんなに動けなかった。やっぱりレベルが上がった分、基礎体力が向上してきているのだと実感する。
「倒せた! レアドロップも落ちたっ」
「う、あれはもう追いつけないな。逃げられた……っ」
倒しては移動して、倒せなくて逃げられても移動して。新たなネズミを探しつつ、2層の地図も埋めていく。
逃げられている回数の方が多いせいもあるけれど、初期に比べると、レベルも段々と上がりにくくなってきている。
ようやく俺の基礎レベルが6へと上がった時には、思わず安堵のため息が零れた。
「あーーー、やっとか」
(レベルアップまでの時間が、やたら長く感じたな)
ゴールデンウイークはうまく重ならないと、飛び飛びで長期連休にならなかったりする。途中、登校日には学校に行きながらも、できる限り時間を取って、ダンジョンでネズミ狩りを続ける。
逃げられてばかりだと、ドロップアイテムが溜まらないから、必然的に稼ぎも悪くなる。身体強化スキルを早く手に入れたいから、ネズミを追うのも真剣にならざるを得ない。
ネズミ、ネズミ、ネズミ。
毎日代り映えしないネズミ狩りの日々。とにかくネズミばかり狩る。
少しずつコツも掴めてきたのか、討伐率は3割近くまで上がった。じわじわとだが確実に、効率は良くなってる。
とにかくこのまま順調に、狩れるようになっていきたい。
ちなみにネズミのレアドロップは、ごく軽い病気を短時間で治す丸薬だった。こちらも家に常備薬があるから見覚えがあって、鑑定するまでもなく中身が推察できた。
(これの買い取り価格は、どれくらいになるんだろう。傷薬より高いと良いんだけど)
「お、青藍のスキルレベルが上がったか」
青藍の身体強化がレベル4に上がった。最初はぎこちなかった動きも、それなりに滑らかになってきた。
「ちゃんと、スキルを持ってる分の違いが出てるみたいだな」
その次には、俺の人形使いのスキルがレベル6に上がった。
ステータスボードには、「新たな人形が作成可能」と記されていた。どうやら人形は、5レベルごとに一体ずつ増える仕様らしい。
(おお、ついに二体目か)
早速、部屋に戻って人形を作成する。青藍の時と同じ魔法陣が現れて、無事人形が作成された。青藍と見比べてみると、大きさがそこそこ違う。青藍がそれだけ成長したって事だろう。
買い置きしておいたバンダナから赤を選んでその首に巻いて、赤関連の色の名前を調べて「紅」と名付ける。
「よろしくな、紅」
紅は最初から、素早さを重視して育てていこう。
「紅、スライムがそっちに行ったぞ!」
紅のレベル上げの為に、その日はカッターを持たせた紅に、ひたすらスライムを倒させた。俺と青藍はスライムを誘導するのに専念する。
三日後にターゲットを2層のネズミに変更。そうしたら、カッターじゃ威力不足が目立った。なのでドロップ品の換金がてら、紅用の武器を買いに行く事にする。
まずは買い取り窓口で、ドロップ品をまとめて売却する。病気用丸薬は1000円ちょうどの買い取り額で、合計金額は2万円ほど。その売却益で短剣と装備用ベルトを買って、残りは貯蓄に回す。
「これで少しは攻撃力もアップするかな。紅、この武器でもっと活躍してくれな」
使ってる武器が安物のカッターのままじゃ、流石に可哀そうだったし。これで最低限は装備を整えてやれたかな。
紅も新しい武器を装備して、心なしか嬉しそうに見えなくもない。これは俺の気のせいか。
ゴールデンウィーク最終日、またドロップを売却した。
今度は日数も少なかったから、売却額は1万円に足りないくらい。
それにお小遣いや貯金の残りを足して、俺用の身体強化のスクロールを買った。
(紅の分の身体強化も欲しかったけど、流石にこれ以上はどうしようもないもんな)
俺の分だけでも無理をして購入したせいで、貯金がほぼゼロになってしまった。
自分で手に入れて初めてわかったが、身体強化のスキルは常時発動のスキルではなかった。必要な時だけ氣を消費して使用するスキルだったから、長時間続けては使えない。
このスキル、レベルが上がればその分だけ、強化できる割合が大きくなっていくようだ。
夕方に、また短時間だけダンジョンに潜った。
スキルレベルを2に上げたところで時間切れ。ゴールデンウイークにおけるダンジョン攻略は、こうして終わりを告げた。