135、貞満さんの謝罪、水中移動開始
斥候ギルドから戻ってきた日の夜、公安の人が上の命令で俺を尾行していた件について、貞満さんから直々に謝罪の電話があった。
貞満さんは護衛でもないのに尾行なんて、と随分と憤慨していたし、俺に申し訳なさそうにしていたけど、そもそも俺を尾行するって話自体を聞かされていなかったらしい。
(同じ国の公的機関って言っても、所属が違うせいかな?)
それとも、ごく一部の人の独断専行だったのかな?
でもまあ、話を聞いていなかったのなら貞満さんのせいじゃない訳だし、どうか気にしないで欲しいと伝えた。
ただ、俺は尾行されていた事に関してはあまり気にしていないけど、そのせいでマレハさんの日本に対する印象が下がってしまった感じがするので、できればもうやめて欲しいとは思う。ダンジョン内は治安がいい上に誘拐が不可能な仕組みなのだから、護衛が必要な場面なんてない訳だし。
来栖さんも魔道具を受け取った時に、上にしっかり釘を刺しておくと言っていたので、多分もう同じような事はしないと思う。
それにどうしても国の介入が必要な場面なら、俺をこっそりと尾行して様子を窺うんじゃなくて、国の人が堂々と同行すればいいんじゃないかな。俺は別に同行を拒否するつもりはないんだし。
(まあ、ダンジョン街の住人にお勧めしたい物は大体、来栖さんに要望として話したんだし、今後は同じような事なんて早々ないと思うけど)
今回の件だって、システムの許可が出て宅配事業が始まったばかりで、地球の品物がまだあちらに行き渡っていない時期だからこそ起こった出来事な訳だし、今後宅配事業がどんどん本格化していけば、似たような事はなくなっていくと思う。
俺だって別に、好き好んで「やらかし」をやっている訳ではないのだ。
(……まあ、変に遠慮して、言動に気を付けようとは思ってないけども)
そもそも何が問題になるのか見当がつかないから、気を付けようがないのだ。
マイナースクロール祭りの提案なんて、まさかそれが国を慌てさせる事態になるとか、全然想定してなかったしな。俺なりに気を付けたところで徒労に終わる可能性が高いのだから、もうどうしようもないと開き直るしかない。
翌日、夕方からまた10層の攻略だ。
(紫苑、山吹背後の守りを頼むぞ)
水中で言葉を喋れない代わりに、遠隔指示スキルを使って、俺の背後を守ってもらうように指示を出す。そして入口の壁から背を離して、慎重に歩き出す。
俺の前方を守るのは青藍と紅。左方向を守るのは黒檀だ。
(視界共有があるからいちいち振り返らなくても、背後の状況がわかるのが便利だな。遠隔指示だけじゃなくて視界共有も全員分揃えて貰って良かった)
一メートル、二メートルと徐々に壁から離れて移動していく。ピラニアは間断なく襲ってくるけど、以前よりずっと対処速度が速くなったおかげで、防御を抜けて装備に食いつかれる回数はかなり減った。視界がピラニアで埋め尽くされて動けない状況にもなっていない。
(……よし、これならこのまま先に進めそうだ!)
10メートルくらいまで先に進めた時点でそう判断する。今まではここまで辿り着く前に、周囲を大量のピラニアに囲まれて身動きが取れなくなってしまっていたのだ。戦いながらも前に移動できるだけの余力がようやく確保できた。
(今の陣形を崩さないように、ゆっくりと前へ進むぞ)
全員に一度に指示を出せるから、誰かが遅れる心配もない。これは本当に便利だ。スクロールを探してきてくれたガイエンさんには感謝しかない。
さて本日、ようやく壁に背をつけて戦うだけでなく、水中を歩いて移動できるようになった。
周りをがっちりと人形達に囲まれてみんなに護衛して貰いながらだけど、移動できるようになっただけ大きな進歩である。
10層の水底はどこも凸凹で、歩くのもそうだが、ドロップアイテムを拾うのも大変で、回収率は多分、半分程度でしかないものの、ひとつも回収できないよりは、精神的にマシだ。
景色もモンスターもずっと変わり映えしない状態が続いてきて、俺としてもそろそろ先に進みたい気持ちでいっぱいだったから、10層の探索が始められて、気分的にすっきりしている。
まあ、移動しても水底では景色はろくに変わらないし戦う相手もピラニア一択なので、代り映えって点では変化はないんだけども。
これも、金煉の魔法で刃物の切れ味を鋭くできるようになったおかげで、ピラニアの殲滅速度が上がったからだ。
そして遠隔指示スキルが揃い、人形達にスムーズに指示を出せるようになったおかげもある。あとは基礎レベルが上がって強くなった事も関係あるだろうな。
以前よりずっとピラニアを倒す速さが上がった手応えを感じられるようになった。
水底を歩いて移動するのでどうしても時間はかかるけど、出口の魔法陣を見つけてクリアすれば、そこで初心者ダンジョンは攻略完了となる。それを目指して頑張っていきたい。




