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13、ドロップアイテム売却と転売対策の話

 入学式を終えた午後。

 春休みの間に貯めたドロップアイテムを、まとめて売却する事にした。

 日本政府傘下の組織であるダンジョン協会は、日本各地に支部がある。その中でも特に買い取り専門窓口は、多数設置されている。買い取り以外の相談や手続きなどに関しては、他の支部まで出向かないといけないけれど、買い取りだけなら家から片道徒歩20分くらいのところにもある。

 なので、スマホの地図を見ながらそこに向かった。


 協会の買い取り用の受付窓口はそこそこ混んでいて、1時間弱待たされた。

 ステータスボードとマイナンバーカードで身分証明して、売却手続きをする。

 特にとっておきたいものもなかったので、全部まとめて売り払う。

 コアクリスタルは魔道具で自動に仕分けされていた。殆どが最弱スライムのもので、ネズミが一個だけ混ざっていたのだが、それがちゃんと仕分けされて、種類別に会計された。

 見た目では区別がつかないのだが、それでもやはりスライムよりもネズミのコアクリスタルの方が、ちょっとだけ高い設定のようだ。

 その他は、ほんのちょっとの傷なら半日ほどで治る、最下級の傷薬。こちらは売値が一個800円ほど。市販の売値は1500円はするんだけど、手数料で結構取られるんだな。これは一応レアアイテムだから、集められた数はそんなにない。

 春休み中、ほぼ毎日ダンジョンに通って集めたドロップアイテムは、合計3万5千円ちょっとに変わった。

 バイトの給料と比べればかなり少ないけど、初心者ダンジョン1層のドロップが中心の今は、こんなものだろうな。

 出かけたついでに手近な店に寄って、安いバンダナを何枚か購入してから家に帰る。


 今回の稼ぎで、安めのスクロールなら買えそうな金額が手元に入ってきた。

 ネズミの速さに対抗したいのに、基礎レベル上げだけでは、いつまでかかるかわからない。なのでできれば「身体強化」のスキルが欲しい。


 ネットで値段を確かめてみる。

 身体強化スキルの値段を確認してみると、ひとつ3万だった。

(俺と青藍のどちらかひとつだけなら買えるな)

 できれば二人分まとめて欲しかったけど、ない袖は振れない。


 一応他にも有用そうなスキルがないか、検索してみる。

 知力強化、記憶力強化が各3万円。これは学業成績アップに役立ちそうだ。

 夜目や罠感知、気配察知や危険予測などは、いずれ必要になるだろうが、今すぐ必要なものじゃない。後回し。

 水中呼吸、水抵抗軽減は10層の水中ステージで必要になりそうだが、これも今は後回し。


(身体強化、知力強化、記憶力強化のどれかかな)

 これなら今回のドロップ売却分で買える。どれかひとつだけ購入しよう。

 どうせダンジョン攻略以外には、特に趣味もないのだ。前世で好きだったファンタジー系の小説や漫画は、スマホで無料サイトを読めば事足りる。本物のファンタジーであるダンジョン攻略に、今はリソースを集中したい。


 どれを買うか迷ったけど、今切実に欲しいのは、やはり身体強化だ。結局はこれに決めた。俺と青藍のどちらに使うかもかなり迷ったけど、今回は青藍を優先する事にした。

 疲労がない人形の特性を活かして、身体強化を使った青藍にネズミを追う役をしてもらい、俺が進行方向で待ち構えるという形で、なんとかネズミを倒せないか、レベルを上げたら試してみたい。


 スクロールを買う為に、二度目となるダンジョン街へ。

 先に銀行に寄ってDGを3万円分補充してから、前回兄と訪れたスクロール屋へ行く事に。

 前回はここの店主に人形遣いのスキルが使えるようになる目安を教えて貰ったりした事だし、人形スキルを無事使えるようになったって報告できれば良いなと思って、青藍も連れていく。



「いらっしゃい」


 先日と変わらず、蔦を編んだ椅子に座ってパイプを吹かしたハーフリングの老人が、カウンターの内側にいる。

「こんにちは。あの、先日、人形遣いのスキルを買ったものです」

「ああ、あの坊主か。覚えてるぞ。どうやら無事に、人形使いのスキルを使えるようになったようだな」

 店主が一度来訪しただけの俺を覚えてくれているか心配だったけど、ちゃんと覚えてくれていた。そして俺が人形を連れているのを見て、すぐにスキルが無事使えるようになったと、わかったようだ。


「はい。その節は、使えるまでの目安を教えてもらって、ありがとうございました」

 俺は頭を下げて礼を言う。人付き合いが苦手とはいえ、まったく喋れない訳じゃないので、お礼くらいはなんとか頑張る。

「なに、それくらい、いいってことよ。今日はどうした? 新しいスキルを買いに来たのか?」

「はい、作成したこちらの人形に、身体強化のスキルが欲しくて。……あの、人形に身体強化は使えますよね?」

 買う前に一応、確認しておく。前に読んだネットの説明では、人形はスキルを使えると書いてあったけれど、念の為に。

 もし使えなくても、俺が自分で使えば良いだけだから、別に無駄にはならないんだけど。


「身体強化のスキルは、人形でも使えるぞ。人形は大抵のスキルは覚えられるからな。ただ、人形に人形使いのスキルを覚えさせるとか、精霊召喚のスキルを覚えさせようとしてもダメだがな」

「なるほど……」

(人形が人形使いスキルを使って人形を作って、その人形にまた人形を作らせて……とか、無限機関みたいだもんな。流石にそれはできないのか)

「まあ買う前に聞いてくれりゃ、そのスキルが人形に使えるか使えないか、教えてやるよ」

「はい。お願いします」

 そんな訳で、身体強化のスクロールを無事購入。前回は貰わなかったが、今度は忘れずに、領収書もきちんと貰っておく。……が、領収書の言語は日本語ではなかった。そりゃそうか。

 まあ領収書には変わりないのだ、これがあれば何とかなるんだろう。多分。

 お礼を言って店を出ようと背を向けたところで、店主から意外そうに声をかけられた。

「今日はここでスクロールを使ってかないのか?」

「え? あ、スクロール持って歩いてると、盗られたりする危険がありますか」

 そういえば前回は、店中でスクロールを使わせてもらったんだった。すっかり忘れていた。


「ん? いや、そういう危険もまったくないとは言わんが、この街は治安が良いから、そこまで心配はねえ。店でスクロールを使う方が良いって言われてんのは、転売対策だな」

 俺の反応が予想外だったのか、店主が怪訝そうな表情を浮かべて首を振った。

「え、転売?」

 思いもよらない事を言われて驚いた。


「スクロールを自分で使わずに、高額転売するヤツラへの対策だな。あんま派手にやると、ステータスボードに犯罪歴として記されて、ダンジョン街の店舗は利用できなくなる。そんで、「自分は転売しない」って意思表明の為に、店内で買ってすぐ、スクロールを使うヤツが多いんだ。ただまあ、パーティの分を代理で買うとか、買ったはいいが気が変わったりって場合もあるからな。買った値段よりも極端に高い金額で転売しなけりゃ、問題にはなんねえ。だから必ずしも、店内で使う必要があるって訳じゃねえがな」

「えええ、そうだったんですか!?」

 知らなかった。兄も確か、スクロールを店内で使う理由は言ってなかったと思う。


 ……どうやらダンジョン街において、高額転売は明確な犯罪行為にあたるらしい。

 ダンジョンでドロップしたスクロールを日本のダンジョン協会で買い取ってもらうのや、ネットなどでオークションに出すのは、違法ではないのだろう。地球ではこちらより高額で、スクロールは普通に売られているのだし。

 店で買ったスクロールを使わずに売る場合も、極端な高額で売りさえしなければ、犯罪には当たらないようだ。


「えっと、人形用に買って使ったスクロールって、スキルボードにちゃんと反映、されますよね?」

「そりゃ問題ねえよ」

 知らずに犯罪を犯すなんて事にはならなさそうで、その点はほっとする。


「まあ、自分や人形が使う分だけ買うんなら、関係ねえ話だ。知らなくても良いんだが、ダンジョン街の商品は、大抵は転売や、組織相手の大口取引は受け付けてねえから、その点は一応気を付けとくんだな」

 転売だけでなく、企業などを相手にした大口取引とかも受け付けていないのか。それも初めて知った。

 地球でスクロールの値段がダンジョン街より軒並み高い設定になっているのは、その辺りにも原因があるのかもしれない。ダンジョン街からいくらでも品物を仕入れられるなら、手数料を考えても、あまり変わらない値段まで落ち着いているはずだ。


「わ、わかりました。気を付けます。教えてくれてありがとうございます。スクロールも使っていきます」

 転売なんてするつもりないけど、今すぐ使ってしまった方が疑われず、スクロールを盗られる心配もなくと、安心要素しかない。

 今後もスクロールを買った際には忘れずに、すぐに店内で使うように心がけよう。

 俺が青藍にスクロールを手渡して、使うように命じると、青藍はちゃんと赤い組み紐を解いてスクロールを使用できた。

 前回と同じようにスクロール本体は消えて、保証書だけが残ったので、保証書は俺が回収しておく。

 そうして今度こそ店主にお礼と挨拶をして、店を後にした。





 夕飯時、読めない領収書と転売対策の話を家族にしてみた。


「え、スクロールをその場で使う意味って、そんなだったのか!?」

「やだ、あたしもソレ知らなかったんだけど!」

 なんと兄も姉も、スクロールを店内で使う理由を正しく知らなかった。「店内で使った方が安心だから」とさらっと言われ、単にそういう習慣かと思って、その通りにしていたそうだ。

 両親は流石に知っていたらしく、兄と姉が知らなかったという言葉に、意外そうに驚いていた。

 家族は誰も高額転売なんてやらかしてなかったから良かったけど、ダンジョン街には知らないとマズい独自ルールがあるのだと、今回の件で教訓になった。


 あと、領収書については、母が保存方法を教えてくれた。

「私はなんの領収書だったかわからなくならないように、ホッチキスで別紙とセットにしてから、保存してるわ。領収書の但し書きは、あとから自分で書き足したりしちゃダメだから、そこは気を付けてね。内容を忘れないうちに別紙にメモして、セットで保管する習慣をつけた方が良いわ。内容を忘れてしまったら、ダンジョン協会に行って、言語スキルを持ってる人に、解読を頼まないといけなくなるから」

 との事だそうだ。


 今日貰った領収書も忘れない内に、内容をメモしてセットにしておこう。

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