やま
私の友達が魔法少女になったらしい。よくわかんないけど。
昨日急にそんなことを言われた、ラインで。正直まだ半信半疑だ。今は詳しいいきさつを聞くため、愛夢の家に向かっている。愛夢とは私の友達の名前だ。急に魔法少女になったとか言ってきたやつの名前だ。
『ゆうき!やばい!!!(絵文字)』
『どしたん?』
『私魔法少女になった!!』
『と思う』
『なにいっとるん?笑』
『急に言われても意味分らんよね。明日うち来てくれん?多分詳しいことは会って話したほうがいいと思うけん。』
『あとみのりも呼んでるから!』
五分後
『(思考停止OKスタンプ)』
そんなやり取りを、昨日愛夢とした。昨日の会話からこのことはみのりも知っているらしい。私と愛夢とみのりは小学生のころからの付き合いで、一緒の高校に進学したため、高校生になった今もよく一緒にいる。
二人を簡単に説明すると、愛夢は元気で快活な女の子。小学校から中学校までサッカーをやってて、高校に上がってからはもうやってないんだけど、時々近所の子にサッカーを教えたりしてるらしい。そんな女の子。
あと、本人は否定してるんだけど、愛夢は割と天然だ。これはみのりも言ってたから間違いないと思う。多分今回の魔法少女の話も、ドッキリか、愛夢のとんでもない勘違いか、変な妄想だと思うんだよね。まあ、これはまだわかんないことだけど。
次にみのりについて。みのりを簡単に説明すると、明るくてまじめな女の子。まじめって言っても堅い感じじゃなくて、素直って感じが近いかな。成績優秀で、誰にでも優しい。しかもすごくかわいい。まったく非の打ち所がない。そんな感じの女の子。
ちなみに、お姉さんと妹さんがいる。あんまり会うことがないから性格が似てるかはわかんないけど、一つだけ言えるのは、三人ともすごく美人でかわいいということ。
そんなこんなでいつのまにか愛夢の家の近くまで来ていた。少し先のコンビニのある角を右に曲がれば愛夢の家につく。愛夢の家は昔から何度も来てるんだけど、今日はなんか変に緊張するな。これから何を見せられるのか、全く見当がつかないんだからそれも当然だよね。
まあ、ほんとドッキリか勘違いだと思うけどね、私は。それか最近やってたアニメの影響かな。愛夢たまにサッカー選手の真似とかしてるし。でもなんで魔法少女なんだろ。愛夢ってあんまり魔法少女とか言い出すような、ファンタジーなイメージないんだよね。
「だからこそちょっときんちょうするんだよなー、うん」
つい一人でつぶやいてしまった。なんか恥ずかし。
「あっ、悠希ちゃんじゃん。おーい」
不意に自分を呼ぶ声がして、少し体がビクッてなった。しかも独り言を言った後だから余計にびっくりしてしまった。
声のした方をそっと向くとそこには、右手にレジ袋を抱えて、左手を振るみのりがいた。ちょうどコンビニから出てきたところなのだろうか。タイミングが悪い。
「んー-、みのりじゃん。いたんだー」
私はなんか恥ずかしくて、照れ笑いを浮かべながらぎこちなく返事をした。
「うん、みんなでアイス食べようと思ってそこのコンビニでアイス買ってたの。それで外に出たら、悠希ちゃんが見えたから。ってあれ、悠希ちゃんなんか顔赤いね。どうしたの」
「いやー、うん。なんでもない、何でもないよ。今日ちょっと外暑いから。ほてっちゃたのかも、なんて、はは」
やっば、顔赤くなってたみたい。でもみのりは独り言聞いてないっぽいし、よかった。はあ、勝手に一人で恥ずかしくなって顔赤くするとか、なんかどういえばいいのかわかんないけどさ、うーんほんとサイアク。
これも愛夢が変なこと言いだしたからだ。そうだ愛夢のせいにしよう。そういうことにしておこう。よし愛夢の家についたら問い詰めてやる。
「たしかに今日は暑いよね。だからね、アイスを買ったんだ。これから愛夢ちゃん家向かうとこだよね。見てこれ悠希ちゃんの好きなチョコのやつ、でこっちが愛夢ちゃんの好きな吸って食べるやつ。愛夢ちゃん家着いたら食べよ」
「おおー、さすがみのり、私がめっちゃ好きなやつだよそれ、ありがとう」
「えへへ、どういたしまして」
みのりは感謝されてとてもうれしそうに笑っていた。みのりはいつも優しくて気が利いている。それに、にこやかで純粋なこの笑顔を見てると私の恥ずかしい気持ちもどうでもよくなった気がする。
「アイス溶けちゃう前にさ、早く行こ」
「そうだね」
私たちは愛夢の家に向かった。愛夢の家にはもうすぐ着くのだが、私は家につく前にみのりに聞いておきたいことがあった。そう今回呼ばれた件についてだ。
「あのさ、みのり一つ聞きたいんだけど」
「なあに?」
歩きながら私は、周りをキョロキョロ見回し、手を口に当てて小声で喋った。別に隠すようなことではないんだけど、なぜかこんなふうに喋っていた。
「今日さ、愛夢になんて言われてる?」
私が急に小声で喋ったからか、みのりは一瞬きょとんとしていたけど、すぐに、ああって感じで手をポンとたたいた。
「魔法少女になったって聞いてるよ。急だったからちょっとびっくりしたけど、楽しみだよね」
今度はこっちがきょとんとなった。え、楽しみ?なんで?意味わかんないのに。
「楽しみ?なんで?意味わかんないのに」
つい思ったことがそのまま出てしまった。よくない。
「え、だって面白そうじゃん。何が出てくるんだろうって。たしかに私も、本当に魔法少女になったとは思ってないけど、もしかしたら可愛いコスプレした愛夢ちゃんが出てくるかもしれないし」
当然でしょ、みたいな顔でワクワクした瞳を浮かべてこっちを見てくる。
たしかに愛夢がわざわざ家に呼ぶのだから、つまらないってことはないんだろう。てか、そもそもこの三人で集まるんだから、そんなことは絶対ないんだけど。でもさ、なんかめんどくさそうなんだよね。理由はないけどなんか、直感。
「まあ、とりあえず本人に会ってみないとなんも分かんないよね」
そうこう言ってるうちに愛夢の家までついた。愛夢の家は二階建ての一軒家で、玄関周りの花がとてもきれいだ。近くにサッカーボールも置いてある。
インターホンを鳴らすと二階の窓がガラガラッと開き、愛夢が顔を出した。
「あ、二人とも来たんだー。いま鍵開けるからちょっと待っててー」
そういうと二階の窓が勢いよくしめられ、十秒もたたないうちに玄関から愛夢の姿が現れた。愛夢は白いTシャツにショートパンツとずいぶんラフな格好をしていた。走って二階から降りてきたのか、少し息がきれている。