告知
殿下の婚約者候補選考への参加条件は以下のようになっていた。
“この国の言葉を話せること”
“年齢が十四才以上二十五才以下であること”
“公務にあたる能力があること”
“人間性に問題がないこと”
“現時点で婚約、結婚をしていないこと。また、この先、不貞をしないこと”
“身体に障害がないこと”
“犯罪歴がないこと”
“この度行われる選考試験に参加できること”
“なお身分は問わない”
当然だが一次選考の時点でどのくらいの人数が集まるかわからないため、その段階では自己申告である。
これについては後日、人数が絞られてきた段階で、残った候補者を極秘に調べることになる。
その際に、もし偽りの申告を行っていた場合はどうするか、その点だけが決まっていない。
当然候補者からは外されるのだが、罰則を設けるかどうか、罪に問うのか、というところまでは詰めることができなかったのである。
なので、今回の告知はその点について一切触れていない。
何もなければいいが、もしそのようなことが発覚した場合は、臨機応変な対応を求められることになる。
グイードはこのイベントが始まってから、およその基準だけ定めてしまえばいいだろうと考えることにした。
候補者にすべてを明かす必要はない。
そもそも、調査も極秘に遂行することになるし、その調査内容について本人に言及する際にどうするかを決めてもいいだろう。
心配ばかりしていては始めることすらできない。
こうして賽は投げられた。
ついに殿下の結婚相手を公募することを告知するという当日。
国中に知らせるため、各領地、商会、他国に向けて公募条件をしたためた手紙が一斉に送られた。
当日の朝早く王宮を出発した使者たちが、到着しだい宣伝するように言付けながら手紙を届けて回ることになっている。
事前に預けなかったのは、情報統制が取れない可能性があるためだ。
当然、後から届く遠方の領地や、諸外国が不利にならないよう配慮もされている。
情報が広がるまでの時間、希望者が情報を得てから参加を考える猶予、遠方から足を運ぶための日数など、あらゆることを考えて、告知日から選抜試験までの期間は長く見積もり、二ヶ月後としたのだ。
これだけの期間があれば、馬車を持たない遠方の平民でも、国境を越えてくる外国の人でも、何かしらの手段を用いて会場まで到着できるはずである。
正直どこまで情報が拡散されるかは未知数のため、間に合わないものがいることも考えられるが、これ以上の期間を開けるわけにはいかない。
そんなことをしたら選考を開始するまでに何年もかかってしまう。
もちろん、王宮内でも掲示され、朝礼で連絡され、この話は瞬く間に広がっていった。
全体に行き渡ったところで、参加希望者の確認が行われ、参加しない者、参加条件に当てはまらないの中から、当日の準備を担当する者が選ばれることになったのである。
選ばれた者たちは通常業務に加えて、この一大イベントの準備に追われることになったが、当日参加を希望している人たちが通常業務を多めに請け負うことで、表面上は問題なく進んでいった。
数日もすると、街や役場、お店など、あらゆるところがこの話でもちきりとなり、平民は参加者で相乗り馬車を手配したり、遠方の領地からすでに歩いて向かう平民が出たりと、活気に溢れていた。
王宮や会場近くの宿は、すでに予約が増えて忙しくしている。
折角だから、当日だけではなく、その前後の日も滞在して観光を楽しもうという人も多いようだ。
選考の前日。
城下町はお祭り騒ぎになっていた。
日頃からあるお店だけではなく、お祭りになるとどこからともなく表れる出店の業者が軒を連ね、やはり誰が持ってきたのか分からないが、広場や道端には様々な種類の椅子やテーブルが並び、道をふさいでいる。
建物の出入口をふさがないよううまく並べられているが、本来は道であるところに多くの障害物がある状態である。
馬車が通る大きな通りであるにもかかわらず、カーニバルのような状態で、人で溢れかえっていて馬車など危険でとても通れる状態ではない。
各店舗は店の前を塞がれて注意するどころか、相乗効果で売り上げが上がっていることもあり、何も言わなかった。
騎士団などは、この様子を確認し取り締まるか話し合いを行ったが、せっかく明るい話題で盛り上がっているところに水を差してもいいことはないだろうということで、様子を見ることにした。
騎士や王宮に仕える者たちの中にも、明日のイベントに参加するものが多くいる。
彼らの何人かもこの中に混ざっているに違いない。
参加しない者も、初めての大がかりなイベントに、興奮するところがあったのだ。
夜になると、各国、各領地の人々が身分の垣根を越えて、路上にある出店で食べ物や飲み物を買い、すれ違う人と乾杯しながら歩くような状態で、交流が盛んになっている一方、治安が少し乱れていた。
お祭り騒ぎと人の多さからスリや置き引きなどが発生し、被害を届け出るものが増えたのである。
また、お酒の入っている者が増えたため、小競り合い程度の騒ぎも何件か報告されるようになってきた。
これらは翌日の警備に力を入れるため休んでいた騎士たちが対応したため、結果、大きな事件が起こることはなかった。
そんな盛り上がりを見せながら、この宴会は夜が明けるまで続いていった。
こうして予期せぬ経済効果と苦労をもたらしながら、時は過ぎ、いよいよ当日を迎えるのだった。