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僕たちは狭い世界の中で愛を叫ぶ  作者: まくのゆうき


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密会

口外は禁止されたが、中にいる間、この噂を楽しむことは許されるだろうということで、候補者たちの噂や妄想が止まることはなかった。

しかし、口外禁止が守られなければ罰することができるようになったため、外では抑止効果が働くだろう。

彼らが外に出る時に念を押すしかない。


しかし、候補者同士での交流が噂として面白がられるようになる中で、実は噂では済まない行動を取っている者がいた。

ミレーヌとロイクである。

彼らは会食やお茶会、廊下などで立ち話をしているうちに意気投合し、徐々に一緒に居る機会が多くなっていた。

その様子は噂好きのイザベルだけではなく、多くの者が目撃しており、二人は他の候補者の格好のゴシップネタとされるようになったのである。

そして彼らはついに人目につかないところで逢瀬を重ねるようになった。

使用人たちの目を盗んで部屋を抜け出して人の来ないところで待ち合わせたり、お互いの部屋を行き来するようになったのである。


最初は使用人たちの立ち会う中、お互いの部屋でお茶をするくらいであった。

当然だが、使用人たちは距離を取ってその場に待機している。

二人は貴族のため距離を取っている使用人たちがいる環境に慣れており、特別意識をすることもなかったようだが、ここの使用人は距離を取っていてもしっかりと会話を聞いていた。

もちろん、この会話は殿下たちに報告されるものである。


「君は家庭的なんだね」

「いえそんな……」


最初にミレーヌの部屋を訪れたロイクも、彼女の刺繍に目を止めた。

その技術に感嘆の声を上げ、同時に彼女の置かれた立場についても理解した。


「私の家は、貴族の中では裕福な方ではない。本当は貴女のような方を伴侶として探すべきなのでしょう」

「そんな、誉められたものではありませんわ。私の家も決して裕福ではありませんし、刺繍などは手仕事として覚えたものですから」

「いいではありませんか。できることを卑下する必要はありません」

「ありがとうございます。そう言っていただけると、気持ちが楽になりますわ」


これだけの技術が身に着くほど、彼女は刺繍をしなければならない環境に置かれているということだ。

それは、貧しいとまではいかなくても、貴族としてはあり得ないほど働いているということである。

実はロイクの家もそこまで裕福ではない。

中の下、くらいだろうか、生活には困らず、領地も安定しているが、そこから先、上に上がることが難しい。

決して余裕があるわけではない。

そのため、適齢期であっても、貴族としての地位や贅沢を求めてくる者とは結婚を考えることができない。

贅沢を認めるためには、領地のことを理解した上で、実家から援助を受けてもらうより他ないのだ。

彼女のように、貴族としての振る舞いが身についていながら、技術を持ち、領地を支えるために働けるような女性は貴重な存在である。

ミレーヌは卑下しているが、ロイクからすれば彼女こそ自分にふさわしい女性だと、話せば話すほどそう考えるようになっていた。

だからこそ、この候補者選びが終わってからも彼女との縁は切らないようにと、積極的にアプローチしたのである。



そんな二人が両想いになるのに時間はかからなかった。

話をする機会が増え、自然と寄り添うようになっていったのだ。

そんなある日、面談を終えたミレーヌがロイクを訪ねた。

部屋を訪ねたミレーヌは雑談をしてすぐに帰っていったが、その際、ロイクと二人で話したいとメモを渡していた。

彼らはこうしてメモのやり取りで場所や時間を決めるようになっていた。

そして指定している時間はだいたい会ってから数時間後などに設定している。

そうすることで、当日に連絡される選考で予定を壊されないようにしているのである。


「それじゃあ、また……」

「はい」


いつもとは様子が違うミレーヌを心配しながら、ロイクはメモを受け取った。



こっそりと部屋を抜け出したロイクとミレーヌは、建物の死角にいた。

使用人たちは気がつかないふりをしながら、その死角から聞こえる声に耳を傾けていたが、そんなことと二人は知らずに話し始めた。

外からの死角となっている場所は、本人たちから死角になるところも多いのである。


「ジオール様に領地のことを話したのですが間違いだったのでしょうか。私はただ領地を豊かにしたかっただけなのです」


ミレーヌは面談であったことをロイクに話し始めた。


「私、お恥ずかしながら父とはうまくいっていなくて、殿下には父と話し合うように言われたのですが、それが叶わぬからこそこうしてここに来ているのです……」

「ミレーヌさん……。確かに殿下の言うとおり、いつまでも仲違いをしているのは良いことではないと私も思います」


ロイクには理解されると思っていたのか、少し肩を落としたミレーヌにロイクは続けて声をかける。


「あなたが領地のことを思い、刺繍をしていることは知っています。これだけの技術を習得するのにどれだけの量を刺したのか、私にはとても想像できません。まるで職人のようではありませんか。好きだからというレベルではない。その苦労をお父様にわかってもらったほうがいいと私は思いますよ」

「理解されるのでしょうか……。今までできなかったのです。この先もできる自信がありません」


これだけの努力をしても、当たり前だと思われているのか理解されたことがなかった。

ミレーヌは、少しでも自分の話に耳を傾けてもらいたくて地位を得ようとしていたのである。

殿下と面談している時は気がつかなかったが、ロイクと話をしているうちに、本当は自分が父親に認めさせたいのではなく、理解されたいと考えているということに気がついた。


「王妃を目指してここに来ることのできたあなただ。きっとできます」

「そうでしょうか……」

「あなたはもっと自信を持っていいと思います」

「お優しいのですね。私はつい、甘えてしまって」


目頭をハンカチで押さえながらミレーヌは言った。


「私で良ければいつでも頼ってください。私もお手伝いできることは少ないですが」

「いいえ、そんなことはありません。こんなに親身になってくださる方がいるなんて……」


同じことを話されても、殿下から聞くとどこか無機質に感じていたものが、ロイクから聞くと人情溢れたものに感じられた。

まさに恋の作用である。


「今の立場で私にできることは話を聞いて差し上げるくらいです。ライバルではありませんが、お互いに殿下の隣に立つことを目指しているのですから」

「……そう、ですね……。こんなことではいけない気がいたします」


両想いでありながらも、二人は最終選考を突破するために努力をするつもりである。


「はぁ……なぜ私達はもっと早く出会わなかったのでしょうね」

「本当に」


もし相手が決まっていれば最初からここには参加していなかった。

このような場ではなく、もし別のどこかで出会っていたらと考えずにはいられない。


「しかし嘆いても仕方ありません。お互いにここで頑張るしかできないのです。殿下たちに失礼があっては、貴族として我々の未来はありませんから」

「そうですね」


殿下とは結ばれなければいいと思いながら、二人ともそれを口に出すことはしない。

思いを通わせた相手と結ばれることよりも貴族としてのメリットを選択したのである。

二人でこうして密会している時点で、裏切り行為となることは二人とも理解していた。

しかし見つからないように最終選考を終えて、二人とも選ばれなければ、この先は堂々と示し合わせて夜会などに参加すれば交流を続けることができるとも考えていのである。

その日はミレーヌの涙が止まったところで二人は見つからないように別れると、それぞれの部屋に戻っていった。



しかしこの場所そのものが試験会場である。

どんなに隠れて会っていようとも、殿下たちには筒抜けとなっているのだった。

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