14-帰省
「戸締りOK」
「ガスと電気もちゃんと切ってあります。忘れ物は?」
「たぶん大丈夫」
「じゃあ行きますか」
8月中旬。ご先祖さまの霊が帰ってくると言われているお盆の初日に僕たちは家を出ました。今日から3日ほどは弥恵の実家で過ごします。
「暑い……」
「今日は猛暑日らしいですよ。まぁ、地元の方は山ですから多少は涼しいと思います」
僕たちの実家は山の中腹辺りの小さな村にあります。住人のほとんど全員が顔見知りですね。正直今の場所に来て1番驚いたのは人の多さですから。
「でもお母さんたちに会えるのは楽しみ」
「僕もです。メールとかのやり取りはしてるので元気なのは分かっていますが、やっぱり顔を見ると安心できますよね」
「うん。早く会いたい」
家族の仲がとてもいい中松家。恐らくあちらも弥恵に早く会いたいと思っていると思います。だからこそこんなメールが僕宛てに送られてきた訳ですし。
炎天下の中駅まで歩いてきた僕たちは切符を買い、電車に乗ります。一応ICカードも持ってはいるんですが地元の最寄り駅が使えないんですよね。さすがに無人駅では無いですが、こういう所でも田舎だと感じます。
「ここからが長い……」
「いつもの事ですから。のんびり行きましょう」
クーラーで冷えた電車の中はまばらに乗客がいました。反対の方向に行く電車ならもう少し混んでいるとは思いますが、こちらは一年中空いています。おかげで確実に座れるからいいんですけどね。
ここから地元まで1時間と少し。長時間電車に乗っていないといけないので暇つぶしの本を開きます。弥恵もイヤホンで音楽を聞いているみたいです。
電車が走る音だけが辺りに響いてしばらく。持ってきた本の最後の1冊を読んでいる途中、右肩に何か重たいものが乗りました。
「弥恵?」
「……」
電車に揺られているうちに眠くなったのか弥恵が僕の肩を枕に寝てしまいました。まだ着くまで時間はあるので寝かせておいてあげましょう。昨日は今日が楽しみで寝るのが遅くなったみたいですし。
僕は本へ目を戻します。クーラーの効いた電車の中。けれど右肩の仄かな温かさを感じながら静かに時間が流れていきました。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「弥恵、起きてください」
「……んぅ……おはよ」
「おはようございます」
次の駅が降りる駅なので弥恵を起こします。まだ寝足りなかったのか眠そうに目をこすっていますね。でも起こさないといけませんから。
「ほら、降りますよ」
「ん」
棚の上に置いていた荷物を手に取り、電車から降ります。相変わらず外は暑いですが、やはり山だからか幾分か涼しいです。
切符を通し改札を抜けて駅を出ると、そこには1人の女性が。僕より身長の低いその女性は僕たちの姿を見つけるとこちらへと駆け寄り、そのまま弥恵に抱きつきました。
「弥恵ー!!」
「お、お母さん!?」
誰であろうこの女性こそ弥恵のお母さん、中松実奈さん。スキンシップが少し過剰なところ以外はいい人で、僕の料理の師匠でもあります。
母娘の感動の再会を微笑ましく眺めたあと、先に荷物を乗せようと車の方へ向かうと運転席には強面の男性が。もちろんこの人が弥恵のお父さんの中松茂男さんです。
「おかえり」
「はい、ただいま帰りました」




