第8話 卓也、転移者だとばれてしまう?
「イッテ―。頭でも打ったのかな?」
卓也は自分の頭をなでながら起き上がった。周りを見てみたが、どうやらもう日本にいなかったらしい。
周りには市場のようにいろんな人が食材を売っていた。中には野菜、果物、肉、お菓子とか様々食料を売っている店が並んでいた。
「おい、兄ちゃん。大丈夫か?屋根の上からでも落ちてきたのか?」
手を差し出してくれたおじさんが卓也を不思議そうに見つめた。
「え?屋根?」
返事をした卓也は上を見上げる。屋根より空から落ちてきた気がしたが、それを認めたら自分の正体がばれてしまうかもしれない。
「あ、そうそう。ちょっとその大家さんに頼まれて、屋根の掃除をしていたんだ。 (ノ´∀`*) あははは。」
気まずそうに笑う卓也。
「そうか。せいぜい気を付けるといいぞ。わしの店の前で死人が出たらとんでもないことになるかもしれないからな。」
そう言ったおじさんは自分の店に戻っていった。彼はどうやら様々な果実を売っていた。しかし、すべて見覚えがない果物だった。
卓也は自分の体からほこりを落とし、別の場所へ移動することにした。
「(まずは宿屋を確保しないと。生活に重大な三つ。衣食住。服はこのまま……ではいかないか。目立ってしまうと、ばれてしまうからな。でも、新しい服を買う金もないし……仕事を取ってモンスター狩りに行く武器もない。あるのはポケットにしまったパンドラの箱のみ。)」
卓也は近くの路地裏に移動し、ポケットにしまっていたパンドラの箱を出した。何回見ても気色悪そうな物体だった。
「(頼むから何とかしてくれ!)」
そう思いながらその箱を開けてみようとした。
しかし、開け方が全く解らなかった。
ジャムのふたを開けるように、右手と左手をねじる感じで力を入れてみたが、開かなかった。
宝箱のように開けようとしてもダメだった。
「クッソー!いったい何なんだ、これ!」
卓也は怒りだし、箱を地面に投げつける。
しかし、いったん落ち着いてから拾い出し、再びポケットに戻す。
「(いったいこれでどう生活していけばいいのか……)」
迷ってしまった卓也はその場を去り、適当に人に助けを求めることにした。
「すみません!」
「はい?どういたしましたか?」
話し相手は女性。年齢は30代ぐらい。若く見えたけど、母親の雰囲気がした。
彼女はへその上から始まる長い薄緑色のスカートをはいて、食べ物が入ったバスケットを持っていた。まるで世界歴史に出てくる中世のヨーロッパ人みたいなように顎の下で結ばれる帽子をかぶっていた。
「この辺に服を買い取る商人とかいらっしゃいますか?」
「服?確かこの道を少し行って、右に曲がるとそんな店があったような……」
「え、マジで!本当ですか?ありがとうございました。」
「あなた確かに良く見当たらない服を着ていますね。どこでそんな服を手にしたのですか?」
「あ、いや……」
卓也はちょっぴり焦った。
「ぜひ教えてください。履き心地は?軽いですか?暑いですか?」
「そ……その……まぁ、普通かな?ちょっと俺、急いでいるので……またいつか会いましょう!」
卓也は手を振り、その女性から離れようとする。
しかし、その女はニヤリと笑った。
「あなた、異世界人でしょ。」
「エッ!」
「その姿じゃバレバレよ。服も髪形も。その怪しい行動も。ばれたくないんでしょ。だったら私についてきな。」
「いや、その……異世界人って……何それ?ただ、僕は変な服を着る趣味があってですね……」
「あのね。ごまかしても無駄よ。自ら『変な服』を着るっていう人、どこにいるの?最低でも『変わった服』とか普通言うでしょ。それより私以外、誰かと喋った?」
「あ……えーっと……フルーツを売っていたお店のおじさんだけ。」
「そう。で、彼が売っていたあの赤色のフルーツの名前は?」
「へ?」
卓也は驚いてしまった。いきなり聞かれても、答えを知るわけでもない。
「やっぱり。ほら見てみなさい。そんな常識も知らないで。」
「あ、いやその。だからですね……俺はこの町に来たの初めてなので、食べ物のことはあまり詳しくないので。」
卓也は焦って適当に言い訳を考えた。しかし、彼はもうあきらめようとしていた。
「もちろんさ。あなたは異世界人だからね。」
「え?違います。僕は遠い田舎から来たので……」
「そう?君が異世界人と認めたら飯をあげ、服も、寝る場所も与えてやってもいいのに。」
「へ?」
次々と驚いてしまう卓也。
「いい?実は私の夫も異世界人なの。秘密よ。」
「はー!?」
「しー!静かに。私以外、夫は誰にも言っていないの。それより早く私の場所へ来なさい。ここで突っ立っていると、私まで疑われてしまうわ。」
卓也はおとなしく彼女に従い、ついて行くことにした。
彼女を完全に信頼してはいないが、見た目は卓也を助けようとしているみたいだった。
大通りを歩くより、路地裏を通ることに彼女は提案した。卓也はうなずき、彼女からすこし距離を置いて、ついて行くことにした。
町から離れ、小さな森を抜け、草原に出てきた彼らは小さな一軒家にたどり着いた。
「何にしてんの?早く入りなよ。もう隠れながら歩く必要ないよ。この辺りにはめったに人が来ないから。」
卓也は戸惑った。
「(人があまり来ない?まさか、彼女。僕をこの家の中に誘い込み、殺す気か?)」
「君。その場で突っ立っていないで。どうせ、私を怪しく見ているのでしょ。そんなら変態みたいに服を外で着替えてもいいけど。私はちょっと晩御飯の支度があるので先に入っているよ。」
そう言った彼女は、卓也をからかいながら家に入って行った。
「(どうする、俺?彼女は信用できる人物なのか?今からでも遅くない。帰り道を覚えているから逃げ出せるが……)」
しかし、その瞬間卓也の腹が鳴った。
そして家の窓からいい匂いがした。
「まぁ……(;´∀`)汗 ちょっとだけならいいかな?何か怪しいと思ったら逃げ出せばいいよな。」
食べ物につられた卓也は警戒しながら家の中に入ることにした。