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鳥頭探偵の事件簿

作者: 地球外生命体

『○登場人物紹介

・安藤……考古学研究会会長。江上に祖父から授けられた壺を笑われた。

・石川……考古学研究会副会長。江上に彼女を寝取られた。

・上野……考古学研究会会計。よく江上にパシらされている。

・江上……考古学研究会平部員。高価な壺を持ってきた被害者。


丹波酉男ニワトリオ……鳥頭探偵。

・助手……鳥頭探偵の助手。





  *  *  *





「犯人はこの中にいる!」


 そう大きくもない部屋において、探偵の鋭い一言が響き渡った。

 その声を聞き、部屋にいた四人の男たちは皆一様に、目を点にした。




 そこはとある大学の一部屋。いわゆるサークル棟と呼ばれる多くのパーリーピーポーが跋扈する部室の一つであり、中でも考古学研究会なるものが拠点とする一室であった。

 そこではつい数時間前まで飲み会が行われていたのだが、気づけば皆深く酔っ払い眠りについてしまっていた。そしてその中の一人が目を覚ました時、部員の一人が持ってきていた時価数億もするという高価な壺が――かろうじていくつかの破片を残しながらも――粉々に砕け散っているのを発見した。

 その壺を持ってきていた部員――江上は、眠りから目を覚ましそのことを告げられると、烈火の如く怒りだした。


「あの壺がどれだけ貴重なものか分かっているのか! お前らそれぞれ俺に恨みがるだろうし、お前らの中の誰かがこれをやったんだろう! 必ず犯人を見つけて弁償させてやる!」


 容疑を向けられた部員たちは困った様子で顔を見合わせた。酔いのためぐっすり寝ていて全く身に覚えがなかったから――ではない。実際に彼ら三人――考古学研究会会長、副会長、会計である安藤、石川、上野が共謀して、江上が持ってきた壺を破壊していたからである。

 昨日の飲み会では、憎き江上がそれはそれは貴重なものだと自慢する壺を持ってきた。最初は考古学研究会の部員として、皆純粋にその壺の鑑賞を楽しんでいた。しかし、飲み会が進むにつれ、江上の壺自慢はどんどん激しくなっていった。


 曰く、この壺は数千年前の中国で作られた非常に貴重なものである。時価数億、場合によっては数兆するかもしれない宝物。貴様ら凡人共では一生拝むことすらままならない奇跡の逸品である、と。俺の親父はそんな貴重な壺さえ手に入れられる大金持ちで、俺はその跡取り息子。そんな俺と縁を結べたことを涙を流して有難がれ、と。


 そうしていつのまにか壺ではなく自身の自慢話を語りだした江上。彼が酔い潰れる頃には安藤らもひどく酔っ払い、同時に激しい憤怒を募らせていた。そしてつい、彼らは酔いに任せて壺をひっつかみ床に叩きつけてしまった。しかもそれだけで怒りは収まらず粉々に砕いてしまったのである。

 一夜明け、酔いが覚めた今。彼らはひどく困惑していた。何と愚かなことをしてしまったのだろうと。

 謝ったところで江上が許してくれるはずがない。ならいっそ、知らぬ存ぜぬで通せば、全員寝ていたのも事実だし誤魔化せるのではないか。そんな考えが彼ら三人の頭をよぎっていた。

 まだ酔いから覚めたばかりであり、ここで言い訳をしようとすれば墓穴を掘りかねない。しばらくは江上にやりたいようにやらせておくかと各自沈黙を選択。

 一人猛り続ける江上を黙って見つめていると、不意に部室の扉が開かれた。

 江上の大声を聞きつけ誰かが文句を言いに来たのかと思い、安藤らは揃って後ろを振り返る。

 するとそこには、頭から真っ赤なとさかをはやし、つぶらな瞳と見事なくちばしを備えた鶏男が立っていた。

 鶏男は開口一番。鳥とは思えないほど流暢な日本語で、「犯人はこの中にいる!」と宣言した。




 どこからどう見ても鶏にしか見えない頭を持ち、胴体以下つま先まですべて人間といった奇形児が生まれたのは今から二十年前のこと。親は普通に人間であり、どうしてこんな子供が生まれたのか、どんな構造をしているのかと一時期世間を大いに賑わせた。医者にはまず間違いなくまともに育つことはできず、早々に亡くなるだろうと告げられた鶏男。しかしその後、世間からの奇異の目に負けることもなく、そして病気等にもかからずすくすくと成長していった。

 そして今。鶏男はその容姿とは別の点で、再び世間を賑わせていた。それは彼が大人になって選択した『探偵』という職業が大きくかかわっていた。神出鬼没で事件あるところに鶏男在り。彼が事件に関わると百パーセントの確率で犯人が特定される。そんな評判を呼んでいるのだ。

 しかしこの鶏男。実は一つだけ脳に重大な欠陥を抱えており、それが厄介な体質を生み出していた。それは『三言話すと、その十分前までに聞いた会話をランダムで三言忘れる』というものである。

 そんな明らかに探偵に向いていない――というより日常生活を送ることさえ困難な体質ながらも次々と犯人を突き止めていくその雄姿。いつしか心ない人は彼のことを、『鳥頭探偵』と呼ぶようになった。




 で、そんな鳥頭探偵が、どんな偶然なのか考古学研究会の部室に現れていた。隣には彼の日常生活をサポートすることで知られている助手もしっかり控えている。

 唖然とした表情で鳥頭探偵を見返す考古学研究会の部員たち。彼らの微妙な反応を見て、自分が何者か理解されてないとでも思ったか。鳥頭探偵はご丁寧に自己紹介を始めた。


「どうも皆さん初めまして。私の名前は丹波酉男というしがない探偵です。そしてこちらは私の助手です」


 現在日本中の全ての人間が知っている、分かり切った発言を鳥頭探偵は行う。と、なぜかそこで紹介を止め、鳥頭探偵は困った様子で助手に目を向けた。考古学研の部員がポカンとその姿を見つめる中、そうした視線に慣れっこな助手は「どうしましたか?」などと聞き返さず淡々と探偵の求める答えを発した。


「今はまだ僕を紹介したところです。事件については全く話していません。取り敢えず彼らに事件の詳細を窺うところから始めましょう」


 どうやら三言話してしまったがゆえに三言分の会話を忘却――つまり自分で言った自己紹介をそのまま忘れてしまったらしい。噂は本当だったのかと安藤らが驚きの表情を浮かべていると、鳥頭探偵は助手の言葉に従いさっそく質問を投げかけ始めた。


「では皆さんにはここで起こった事件の経緯を説明してもらいたいと思います。おおよそ何が起こったかは理解していますが皆さんの口から聞くことで改めて何かが分かるかもしれませんからね」


 アッと思う間に主導権を握られ、鳥頭探偵に事件を解決してもらう流れに。

 犯人である安藤らとしては余計なことをしないでもらいたいという思いで一杯だったが、ここで断る理由は特に思い浮かばない。それに鳥頭探偵の実力も未知数。犯人的中率は百パーセントと言われているが、こんなころころ記憶を忘れる探偵にそんなことが可能だとは思えない。もしかしたら間違った推理をして、いい感じに江上の気を逸らしてくれるかもしれない。

 安藤らがそんな期待に胸を膨らませていると、江上が勢い込んで話し出した。


「聞いてくださいよ探偵さん! 彼らの中の誰かが俺が持ってきた時価数億の壺を壊してしまったんです! しかもこれを見てください! 壺が粉々に割られている! 明らかに事故じゃなくて故意に壊した証拠です! 一体誰がやったのか特定してください!」


 鳥頭探偵はふむふむと首を上下に動かすと、何も言わず今度は上野に視線を向けた。次に何か話すと三言記憶が飛んでしまうから、できるだけ話すことなく皆の話を聞こうとしているのだろう。

 上野は一瞬動揺した様子で唾を飲み下したが、すぐ平常心を取り戻し、話し始めた。


「確かに壺は粉々に砕けているので、江上君の言う通りこれは事故ではないと思います。でも、その犯人が僕たちの中にいるという考えは安直だと思います。丹波さんがこうして部室に入ってこれたように、もともと部室に鍵はかかっていませんでした。だから江上君が高価な壺を持ってきていることを知った誰か別の人が、僕たちが酔い潰れたすきを狙ってこの犯行に及んだのだと思います」

「ほほう。……直接文句を言うのでなく高価な壺を壊してやろうと思われるほど江上さんは人から恨まれている人間というわけですか。では江上さんと同じ研究会であるあなた方も彼に何かしらの恨みをお持ちなのでしょうかね」


 今の発言でここまでしてきた会話のどれか三言が、鳥頭探偵の記憶からまた抜けてしまったことだろう。一体どの発言が消えたのか。しかしまあ、ここまでは大した話をしていないし、抜けて困る記憶もなさそうだ。

 江上は居丈高に鼻を鳴らすと言った。


「ふん。そりゃあそいつら三人とも俺に恨みを持ってますよ。上野は毎日のようにパシってますし、石川に関しては彼女を寝取らせてもらいましたからね。安藤は安物の骨董品ばかり持っているんでよく馬鹿にしてますし。そいつら三人とも動機は十分ですよ」

「成る程。……それで安藤さんはどんな恨みをあなたに持っているのですか? 彼の話だけ飛ばされたようですが」

 おっと。どうやら「安藤は安物の骨董品ばかり持っているんでよく馬鹿にしてますし」という言葉が鳥頭探偵の記憶から抜けてしまったらしい。今聞いたばかりのことをさも初めてのように聞き返してきた。

 本当にこんな体たらくで大丈夫なのかと、江上も不審げな様子を隠さず探偵を見つめる。だけれども、余計なことは言わずに再度同じ証言を繰り返した。


「安藤は安物の骨董品ばかりもってるからよく馬鹿にしてるんですよ。それがあいつが俺を恨む動機です」

「それはそれは実に分かりやすい動機ですね。……それにしても江上さんはなぜそんなに自分のことを恨んでいる人たちのもとに高価な壺を持ってきたのでしょうか? あくまで自慢をするためとしては些かリスクが高いように思えますが」


 江上は憎々し気に三人の部員を見つめて、「曲がりなりにも同じ考古学研究会の仲間ですからね」と言った。


「俺のことはそりゃ憎いでしょうが、俺の持ってきた壺の価値ぐらいは分かる奴らだと思ってたんですよ。だから俺に恨みがあろうとも壺を壊したりはしないって。ま、見込み違いだったみたいですけどね。ああそれから、俺は壺のことはこいつら以外に言ってないんで外部犯の可能性は低いと思いますよ」


 まさかそんな風に信用されているとは思っていなかったのか。安藤らはどこか驚いた表情を浮かべた後、それぞればつが悪そうにそっぽを向いた。

 人によってはこの反応から犯人が分かりそうなところではあるけれど、鳥頭探偵はそれを見ていないのか何の反応もしない。普通に質問を続けていった。


「そうすると上野さんが言った外部犯説は確かになさそうですね。……ならやはりこの中に犯人がいるのでしょうが私が思うに彼女を奪われた石川さんこそが恨む動機としては最も強いと思うのです。あなたは壺と恨みとを天秤にかけたときどちらに軍配が上がると思いますか?」


 石川は神経質そうな目をあちこちに向けながら、ぶっきらぼうに答えた。


「そ、それは勿論、壺に軍配が上がりますよ。僕よりも江上の金に目がくらんだ彼女のことなんて、もう何とも――思ってませんからね。それよりも時価数億する、歴史的価値の高い壺の方が大事に決まってるじゃないですか」

「それは本当にあなたの本心でしょうか? ……たとえもう彼女への愛情を失っていたとしても寝取られたという事実だけで江上さんを憎むには十分すぎるし壺の価値を凌駕するものだと思いますが。それとも彼女のことなんてもともと遊びで付き合っておりそれこそ江上さんに金を差し出されればあっさり投げ出せるようなものだったということですかね」

「……」

「だとすれば余計な疑いをかけてしまったことを謝罪しないといけません。……そんな遊びで付き合っていた馬鹿女と歴史的価値の高い壺が同等だなんて考古学研究会の副会長であるあなたが思うわけが――」

「違う! 僕は彼女のことを本気で愛していた! 時価数億する壺を渡されたって彼女を捨てるつもりなんてなかったんだ! なのに江上は……」


 鳥頭探偵の読み通り、彼女を取られたことについて石川はいまだ強い恨みを抱いていたようだ。以外にもあっさりと感情を吐露し、その場に泣き崩れてしまった。

 これで取り敢えず一人、犯人を特定することができた。この状況で壺を割ったことを否定するとは思えないし、今の発言を聞いてしまえば仮に無実だったとしても容疑を免れることはできないだろう。

 続いて鳥頭探偵は考古学研究会会長である安藤に目を向けた。

 そろそろ自分に質問が来るだろうと考えていた安藤は、比較的穏やかな顔つきで探偵を見返した。


「石川がほとんど自白同然の告白をしたとはいえ、僕らに対する疑惑はなくなっていないみたいですね。もしかして探偵さんは僕ら三人が共犯で壺を壊したと考えているんでしょうか?」

「まさかまさかそんな風には考えていませんよ。それどころか私は石川さんが壺を壊したともまだ考えていませんからね。……本人の口から実際に罪の告白がなされるまでは犯人だと断定することは早すぎると考えていますから。ところで申し訳ないのですが安藤さんがどんな恨みを江上さんに持っているか忘れてしまったのですけれどあなたや上野さんの恨みは貴重な壺よりも大きかったりするのでしょうか?」


 また鳥頭探偵の記憶から安藤の動機に関する会話が抜けてしまったらしい。たまにはこうした運が重なることもあるのだろう。

 鳥頭探偵もそうした偶然に腹を立てているのか、鶏顔を苦々しげに歪めながら安藤に尋ねている。全く偶然というのは非常に面倒なものである。

 安藤は苦笑気味に「容疑者自身に動機の強さを尋ねますか」と返した。


「僕はあくまで馬鹿にされたことがあるってだけなので、江上が持ってきた壺よりも恨みが勝るってことはないと思いますよ。それは上野も同じでしょうね。とはいえ昨日はひどく酔っぱらっていたので、記憶にはないですけど勢いあまって――という可能性は否定しきれないですが」


 冷静過ぎる安藤の受け答えに、江上が顔を真っ赤にして怒鳴りつける。


「安藤! お前らがやったことは記憶がないからですむような話じゃないんだからな! この壺一つの方がお前らが生涯稼ぐ額よりも高いくらいなんだ! それを床に叩きつけて壊しておいて酔ってましたで済むわけがない!」

「そんなのは分かってるよ。でも僕は君の壺を割ったことを認めたわけじゃない。もしかしたらそういう可能性だってあるかもしれないと言っただけだ。君だって僕らが犯人だという証拠を持っているわけじゃないだろ。あまり犯人扱いされるのは気分が悪いな」

「なんだと! そうだ探偵さん! 何か指紋を調べる道具は持ってないんですか! 俺が起きている間はこいつらに壺を触らせたりはしませんでしたからね。壺の破片のどれかにこいつらの指紋が付いているだろうしそれが証拠に――」

「なぜ、江上さんは壺に彼らの指紋が付いていると思っているのですか?」


 鳥頭探偵が冷めた声で口を挟む。江上は興奮しているのか、自分の失言に気づいた様子もなく再びわめきたてた。


「そんなの決まってるじゃないですか! 犯人は壺を割るときに壺に触って――」

「どうしてでしょう? 壺は御覧の通り粉々に砕け散っており明らかに素手でなく道具を使って壊されています。そもそも指紋を採取できそうな大きな破片は数えるほどしかないですしなぜ指紋をとれば彼らが犯人であるという証拠が出てくると考えたのか不思議でなりません」

「そ、それは」

「しかもあなたは私の残っている記憶が確かであれば『壺を床に叩きつけて壊しておいて』なる発言を行っていましたがどういうことでしょう? まるでその瞬間を見ていたかのような発言だと思ったのですがもしそうでないならなぜそんな発言をしたのかも聞いておきたいところです。ああしかしどうせ言い訳を聞かされることでしょうし面倒なので一息に私がここで導き出した結論を述べさせてもらいましょうか。……このままでは話せば話すほど今までの記憶がなくなってしまいますのでね」


 そういうと鳥頭探偵は大きなため息をついてから、導き出した答えを一気に語りだした。


「そもそも壺は江上さん自身の手によってこの部室に来る前から割るか破損するかしてしまっておりそれが親にばれるのを恐れて今回の事件を計画したのでしょう。自分に恨みがありかつ酔っぱらって冷静な思考ができなくなった考古学研の部員であればきっと壺を割ってくれるのではないかと期待して敢えて壺自慢をし彼らを苛立たせるというダメ押しをした上で自分はさっさと眠ったふりをした。……結果あなたの期待通り彼らは壺を割ってくれたわけですがあなたとしては万が一彼らが壺を割らなかった時に備えてその瞬間を目撃しないわけにはいかずこっそりと彼らの動向を盗み見続けていた」


 また三言記憶を喪失しながらも、鳥頭探偵は勢いを衰えず話し続ける。


「さてなぜ考古学研の部員を今回の計画のターゲットとして選んだかと言えば高価な壺を見せる行為が第三者に不審がられずかつ自分に強い恨みを抱いていた人物として適当だったからでしょう。石川さんのように強い動機を抱いている人がいてくれるのでたとえ彼らが壺を壊さなかったとしても自分で壺を壊したうえで彼らがやったのだと責任を押し付けることもできます。……そう言えばほとんど粉々に砕けている壺の中にいくつか形を留めた破片が存在していますがこれは彼らが眠った後にこっそり指紋をつけたものだと思われます。壺を皆さんが壊した段階で飛び散った破片の一部をこっそり回収して残りを粉々にされたとしても安藤さんらが犯人だったと結論付けられるようそんな真似をしたのでしょうね。そうした計画の末起きたのがここでの事件だと思われますが何か反論はあるでしょうか」


 鳥頭探偵の怒涛の推理の前に誰一人として反応できるものはいない。しかし彼の発言自体はこの場の全員に確かに浸透しており、その意味を理解する頃には被疑者と被害者の立場が逆転しているだろうことは疑いようがなかった。

 鳥頭探偵は勇壮なとさかを一撫ですると「真実が晒された以上後は彼らの問題だ」と助手に呟き部室の外に出ていった。

 外に出た途端、部室の前に押しかけていたやじ馬たちの姿が目に映る。部室に入るまでに鳥頭探偵を目撃した人たちが、興味本位で後をついてきていたらしい。

 鳥頭探偵とその助手は泰然とした態度で彼らを無視すると、あっという間にその場から姿を消した。



  *  *  *



 考古学研の部室を出てから一時間後。先ほど事件の現場となった大学から遠く離れた、周りに人が誰もいない山道を鳥頭探偵とその助手は歩いていた。

 先の事件に納得いかないことでもあるのか。鳥頭探偵は鶏ヘッドを器用にしかめながら――』

「いい加減そのうざい実況を止めろ」

『おっと、突然どうしたんだい丹波酉男君。何をそんなにかっかしているんだ』


 丹波酉男の非常に腹立たしげな声を聞き、神の声――もとい宇宙船から彼に通信を続けていた僕は、喜色満面に問い返した。


『せっかく今回も君が素早く事件を解決できるよう協力してあげたんじゃないか。この惑星における言語採取の仕事をこなすため、君が探偵なんて職業を選ぶから、僕も必死でサポートしているというのに。何がそんなに不満だというんだい』

「不満に決まっているだろこんな状況。これはもう何度も言っていることだが、言語を母星に送る頻度が三言ごとなんてあり得ないだろ。……まともな会話をすることもままならない」


 母星に送られるのは地球語だけであるから、こうして僕と丹波酉男だけで会話をすると彼の言葉だけが言ったそばから母星に送られていく。それはまあ、まともな会話もままならないだろう。

 僕は必死で笑いを抑えながら、彼に落ち着くよう命じた。


『まあまあ。確かに不便だとは思うけど、そういう決まりになってるんだからしょうがないじゃないか。わざわざ君を鶏男にしたのだって、そうした状況をできるだけ不審がられないようにするためなんだしさ。それにしても地球って凄いよね。「三歩歩けば全て忘れる」なんて、僕らにとって最高に都合のいい生物が存在しているんだからさ』

「不審がられているという意味で言えば鶏男であるだけで十分すぎるだろう。本当にこんな体で転生させた奴も三言ごとに母星へ言葉を発信させると提案した奴も頭がおかしいとしか思えない」


 と、そこでまた地球語が母星に送られ丹波酉男の記憶が消失する。丹波酉男がため息をつく姿を助手の目を通して見ていた僕は、再び『まあまあ』と彼を宥めた。


『でもいろいろとナイスアイディアだと思うよ。この厄介な体質を利用するって点でも地球語を収集するって点でも、今君がやっている探偵って職業はぴったりだ。今回もそうだけど、会話の内容をころころ忘れる人がいると誰しも口が軽くなるみたいだからねえ。自分の発言を軽んずるようになって、簡単に墓穴を掘ってくれる。加えて地球を観察している僕が事件現場で何が起きていたかの情報を送れば、事件の真相なんて簡単に明るみに出る。犯人的中率百パーセントの探偵の誕生だ。しかも有名な探偵ってのは事件ある場所ならどこにでも口を挟めるんで地球語収集にも大いに役立つしねえ。本来の仕事も百二十パーセント果たせるし万々歳! ほんと、ナイスアイディアだと思ってるよ』

「……だとしても、せめて教えてくれる情報は会話の内容だけでいいだろ。余計なナレーションをつけて他の人間の心情を勝手に予想したり、一々俺が言語を忘れただのなんだの苛立たせるような言葉を……。だいたい言語収集をするにしても俺の言葉まで母星に送る必要性は一切ないだろ」


 そう言って自分が言った文句を全て忘れる丹波酉男。僕は親切にも彼の文句を彼自身に聞かせてから、その文句に答えてあげた。


『そんなことはないんだよ。転生前の記憶が残っているとはいえ、今そこにいる君はまぎれもなく地球で育った地球人でもあるからね。その生活を得て君から発される言葉は地球で生活してきたものにしか出せない地球語そのものだ。現に探偵の時の君と僕と会話をする時の君とでは、口調が全く違う。そうした違いを収集することも、僕たちにとってプラスとなることだからね。――と、これはまた面白そうな事件がちょうど起こったようだよ。助手をバイクに変形させるから、それに乗ってすぐさま駆けつけてくれ。

 さ、文句はここまでにして、楽しい言語採取を続けようじゃないか』


こんな低クオリティの作品を読ませてしまい申し訳ありませんでした。ただ、鳥頭探偵の設定自体は少し面白いかなと思い、こんなくだらない内容ながら投稿させてもらいました。どなたか是非、鳥頭探偵の設定を使って一作書いてみてくれたりしないでしょうか? 特に断りを入れる必要はないので、もし何か思いつけばご利用してみて欲しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです! ペンネームも伏線でしたとは……。 ミステリとしても楽しめましたが、SF好きにとってたまらない趣向もニクいですね。あと探偵キャラのインパクトが凄い笑 シュールです……。
[一言] はじめまして、『鳥頭探偵の事件簿』読ませて頂きました。 超特殊設定ミステリというか何というか……強烈な探偵像ですね。脳に刻まれました。 この設定を生かした謎解きが出来ないか考えてみたので…
2019/10/23 01:50 退会済み
管理
[一言] >スマホアプリのバカサスペンスは恐らく見たことあるけどやったことはないですね。そちらはどんな風に事件解決するのでしょうか? 作りはオーソドックスなADVですね。事件発生して、調査して、証言集…
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