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マルバ脱ぐ

 扉の先は細長い通路であった。

 

 「3階は確か賭博場になってんだよな」

 「ああ、1階の昇降機で上がるやつな」

 「つーことはこの壁の向こうがそうか」

 ギリタが壁を小突いてみるが薄くは無いらしい。

 「こんな状況で行ってどうするんだ...」

 「ニルジ、いつものことだ...」

 「ここはああいう兵器も取り扱ってるのか」

 不意にエートが尋ねる。

 「表立っては国も許可せんし一般には売られんが、黙認されている。例の東方の奴らがこの組合に絡んでてなそこから裏で流してるらしい」

 「二ツ木はもとは鉄工で栄えてたんだ、噂じゃ兵器の試験場があるんだと」

 「信憑性感じるな。あれ見ちまうと」

 

 通路は壁も床も天井も白一色で、明かりの量も多いことから眩しい程である。また緩やかな上り坂になっており、二回折り返すとその先でまたしても扉に突き当たった。木製の扉には複雑な装飾が施されて物々しさが見える。

 「どうやら終着みたいだな」

 「もうタダリ達が居るだろうから合流しよう。予定通りならずらかる準備をしているはずだ」

 扉を開くとそこには広い円形の空間が広がった。

 「なんだ、こんな場所、聞いてないぞ」

 


 「あれが鼠か」

 「そのようで」

 「数が少ないが贅沢は言えんな。早速実験開始だ」

 何処からともなく低く鈍い機械音が響き渡る。それが止むと辺りを見回していたエート達の視線は、一様に前方の通路を向いて固まっていた。かつてこれ程までの強烈な殺気を誰が感じたであろう。通路には影が差しその奥は見えない。しかしはっきりと己の細胞が遺伝子が、肌で感じるそれを最大級の脅威であると認めている。それは影からゆっくりと姿を表した。

 

 

 「でかい...」

 「人...ではあるまい」

 「おいおいおいおい、なんだよこいつは」

 「...あれは...鬼だ」

 鬼。そう呼ばれる存在はこの世界には数多ある。災害の化身として、病魔の偶像として、その脅威を伝承において表現されてきた災厄を表現する記号的存在。しかし、この場において指すものはそれらではない。

 かつて太国創世記に記される「鬼」。何処からともなく突如湧き出たそれは戦乱の世をさらなる混沌へと導いていく。一度発生すれば一軍を滅ぼしたその存在に、ある者は神を見、またある者は冥府を知るという。太国平定より500年、後の世の解釈では太国の前身輪の国による思想誘導の一環だったのではという見解が大勢である。事実戦乱期以後にその存在を確認された記述は無かった。


 全員がマルバを見た。

 「なんだと、鬼ってあの鬼か」

 「あれはただの風説じゃないのか」

 「話は後だ、来るぞ」

 およそ瞬き二つ。6人の前に詰める鬼。そして振るわれる巨大な拳。ラジム、ギリタ、バリは飛び退いている。拳の狙いは、ニルジであった。

 ブッフォ

 ニルジは鈍い音と共に弾き飛ばされ壁に叩きつけられた。壁面がひび割れ剥がれ落ちる。

 「おおおおおおおおおおニルジぃいいいいいいいいいいいい」

 叫びを上げるギリタ、バリは青ざめている。

 「だからいい加減痩せろって言ったんだよぉぉぉ。チクショオオ」

 その時瓦礫から手が挙がる

 「な、なんとか生きてるよぉ」

 「ギリタっ、ニルジ生きてるぞ」 

 「体脂肪ありがとおおおおおおおおおおおおおおお」

 

 そんなギリタたちを横目にエートとマルバはすでに戦闘を開始していた。


 「こいつ動きはそこそこだが鬼のくせに力が弱いな」

 「ああ、本来ならば鬼の拳なぞまともに喰らえばその場で塵になる。所詮紛い物よ」

 マルバがしゃがみエートは飛び退く。鬼の拳は空を切る。低い姿勢から捻り上げた全身のバネ。それを足先から直上に開放しマルバの蹴りが炸裂する。鬼の体が浮き上がる。そこにエート渾身の回し蹴りが決まった。鬼は弾かれるように飛び転げ倒れたまま起き上がらない。

 「点穴を蹴ったからしばらく動けんだろうな」

 「ところで気づいたか坊」

 「あんたが変装してることか」

 「...。いや鬼のことだ」

 「ああ、これあいつだろ。ナミリとか言ったか」

 「助かる...だろうか」

 「媒介になって間もないだろう。可能性はある。が、面倒だから潰そう」

 「なんだと」

 「たとえ、マルバという男にとってこの女がまるで愛弟子のように可愛くても。俺には知ったことでは無いからな」

 「...お前、ちょっと見ないうちに悪いやつになったな」

 そう発したマルバの体は歪に動き出し、その影を変えていく。そして脱ぎ捨てるように己の皮を剥ぎ取った。

 「...。いや知らんな」

 「馬鹿野郎俺だ、リュウテツだ。てか分かってんだろうが。何だこの扱い、俺仮にもお前の師匠の一人だぞ」

 「学ぶことは少なかった...かな」

 「流石に泣くぞ」

 

 

 特殊な窓ガラスから見下ろすとエート達が確認される。そこは小さな個室であった。

 「成果の取れそうな鼠だと思いましたがこれほどとは」

 「いや、まだこの程度だったと言うべきだろう」

 「しかし一先は充分じゃろうて」

 細身の端正な顔立ちの男は書類を整理する。眼鏡を掛けた初老の男は口元の髭を撫でている。髪一つ無い小柄な老人は僅かに不気味な笑みを浮かべた。先刻から鬼とエート達の一部始終をしげしげと眺めていた者達である。

 「では、我々は引き上げます。後の事は頼みましたよ」

 細身の男がそう振り返ると、そこに居たのはタダリであった。

 「万事賜わりました。どうぞこれからもご贔屓に」

 

 

 

 

 

 


 

 

   

 

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