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マルバ喋る

 用心棒などありふれている。資格というが犯歴等がなければ登録料と簡単な体力テストで発行される。体力に自信があれば、特別能力のない者にとって持たない理由が見当たらない。故にありふれている。

 払いのいい仕事だった。どうということはない大店の警備。変わったところでは武器の所持も認められているというくらい。盗賊に狙われているのだとか。多少の危険を考慮してということだろう。驚きはない、その程度の事は山とある。そんな話だから応募者も多く抽選になった。当たったときはそれは嬉しかった。久々に多少の贅沢ができると。


 俺は今、猛烈に後悔している。

 盗賊が来た。表でものすごい光が起きたのを見て感のいい者たちが武器を構え始めた。それを見て俺も構えた。案の定飛び込んでくる者達がいる。しかし、少ない。6人、拍子抜けだ。こちらはざっと見回しても30人以上は居る。一番後ろにいる俺には出番など来ようはずもない。楽な仕事だそう思った。

 俺は今、6人の黒装束に囲まれている。

 あれからどれくらい経ったのか。戦闘が始まり程なく乱戦になった。すばしこい奴らは壁を蹴り、天井を走り、敵を足場に飛び回る。流れるように急所を突いていく手際は美しささえ感じられるほどだった。5倍の同僚達はあれよあれよと倒れゆく。気づけば残るは俺一人。もしかしなくても絶体絶命。出した答えが、DO GE ZA。

後頭部に衝撃、俺の意識はそこで途切れた。


 「なんだったんだこいつ」

 「さあ」

 「案の定昇降機は動かんな」

 「あ、あったぞ隠し扉」

 「あーくそ、初っ端から疲れた。もう帰るか」

 「いや、そうも言ってられんあれを見ろ」

 表では兵達の視界が戻ったのか騒がしく動き始めていた。

 「面倒だが進むしかあるまいて」

 「チキショウ」

 一行は事前に知り得ていた隠し扉を押し開いた。

  

 「3階までの階段か盾が要るな」

 「俺がなろう。俺の装束は盾と同等の耐久がある」

 皆一斉に振り返る。

 その男は筋肉質で大柄な男であった。名をマルバといい、その装束は特殊なもので要人警護にて盾となる役であったらしい。聞けば鉄鋼を着ているようなものだという。寡黙であるためここに来て初めて口を開いたのである。

 「「「「「お前喋れたのか」」」」」

 一同が初めて呼吸を一つにした瞬間であった。

 「準備はいいな、行くぞ」

 マルバを先頭にラジムその後ろにギリタ、ニルジ、バリ、最後尾にエートという並びで階段を駆け上がる。

 

 「止まれ」

 2つ目の踊り場を折り返した所で上階に立ちはだかる二人の兵。鋼鉄の鎧が全身を纏いその手にはなにやら重鈍な銃器を構えている。

 「だめだこりゃ」

 マルバのその声に後ろの者が一斉に踊場から後退する。同時に雷鳴の如き轟音が閉鎖空間に響き渡る。無数に空いた弾痕で踊場の壁は埋め尽くされ、その下にマルバは蹲ってピクリとも動かない。上の二人は降りて来る様子は無く両陣営壁を隔てて沈黙する。

 「前入った奴らが跡形もなく片付けられたってそのままの意味だったのか」

 「バカスカ撃ちやがってあんなもんちょっと前まで無かったのによぉ」

 ラジムがふてくされるように呟いた。

 

 銃火器は太国東方の砂漠を越えた行商旅団にて齎された遥か東方の国の伝来である。近年その発展が目覚ましく王家主導に次々と改良がなされており、それが陰の者達の衰退の一理とも言われている。

 

 「時の流れよ素直に乗ろうぜ」

 そう言ってギリタは懐から手榴弾を取り出した。

 「あの重装そんなもんでは効かんだろ」

 「こいつは煙幕も張れるのさ。目眩ましにはなんだろ」

 「その後は」

 「ノリよ」

 

 ラジムは反論している。ギリタは構わず投げる。閃光、散弾、煙幕その全てが放たれた。呼応するように煙の中から無数の弾丸。しかしその無闇な軌道は隙間を生む。その軌道線を縫って辿り着いたのは蹲るマルバの下。その手足をそれぞれで掴み、勢いをつけ思い切り上階へ投げた。マルバの体は白煙に消えた。

 

 「ええいままよ」

 走り出さんとするラジムの襟首をエートが掴む。

 「何しやがる」

 「弾幕が止んだ。様子がおかしい」

 「確かにあのデカブツ投げたのに反応がねえ」

 立ち込める白煙。突如二つの影がそれを割いて転げ落ちて来た。先刻まさに対峙していた機銃の兵士である。項には揃って突き刺された後があった。煙が引き、上階に視線を向けると。そこに立つ人物は紛れもなくマルバであった。

 「「「「「お前生きてたのか」」」」」

 またしても一同が声を合わせた。

 

 「いや正直ぶん投げられるとは思わなんだ」

 「いや正直死体だとばかり」

 「お前まさかあのままやり過ごそうとしてたのか」

 「貫通しなかったからそれでもいいかなと」

 「おいおい」   

 空中に投げ出された時、マルバは自らの手甲に仕込んだ爪で壁を伝い背後を突いたという。エートは感心するとともに何か違和感を感じていた。

 

 「どうするこれ。まだ弾出んのかな」

 ギリタは銃器を拾い上げまじまじと触っている。

 「確かに見たこともねえ型だし最新式かもしれんな」

 「捨て置くにゃ勿体無ぇよなぁ」

 「止めとけ止めとけ、重ぇし邪魔になるだけだぞそんなもん。畜生、大黒天の爺ぃまた要らねえもん入れやがって」

 「ラジムよぉ随分こういうモンに辛えがなんか因縁でもあんのか」

 「詮索は無しだぜギリタ。この生業長えなら分かってんだろ?」

 「ああ悪かったよ」

 

 かくして6人は3階まで到達する。階段は終わり鉄の扉がある。聞き耳を立ててみるがその向こうに気配はない。一行は慎重にその扉を開けた。

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